市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
どう考える、人生の総仕上
『ホスピスケアが問いかけるもの』

NPO法人 市民と共に創るホスピスケアの会
代表 松本 克弘
患者会を運営していれば必ずぶつかる、終末期の問題。特にがん患者はその半数が、こうした問題に直面する。残念ながら現在の医療現場にはこの問題に十分に対応できる状況にない。
多くの医療専門機関があるにもかかわらず「市民のためのがん治療の会」のような市民団体が最適な治療情報の提供に努め一定の評価を受けているように、「市民と共に創るホスピスケアの会」が「私たちのように力のないものが必死にやらなければならないほど、患者と家族を支える仕組みが不足していることを意味」しているのが実情だ。
本当にこれが世界第3位の経済大国の状況であろうか。
終末期の肉体的・精神的苦悩にのたうつ患者と翻弄される家族に対し、懸命の支援を続けておられる「NPO法人市民と共に創るホスピスケアの会」の松本代表にご寄稿いただいた。
1.私たちの活動
   私たちは平成6年からホスピスケアに関わる市民講座を開催し、通算で210回となり通算参加者は17,000人を超えました。また患者と家族の茶話会「ひまわりサロン」と、患者の療養生活を支える学習会「ちえのわ」の運営、その他に気功教室とリフレクソロジー教室を支援活動として続けています。さらに今年度から、遺族に限定した茶話会「なのはなの会」の運営を始めます。会の運営はすべてボランティアの手で行われていますが、上記の活動には専門家の参加も得ています。

 私たちの活動の主眼は、いま病を抱え荒波の中にある方々に助け船を出すというところにありますが、それは私たちのように力のないものが必死にやらなければならないほど、患者と家族を支える仕組みが不足していることを意味しています。豊かだと言われる日本社会が本当に豊かなのかと思わざるを得ないというのが正直な感想です。

2.死と看取りの文化の回復を
   「せめて苦しまずに死にたい、あわよくば生き延びたい」。これは交流があった柳原和子さん(「がん患者学」著者、2008年没)の言葉です。いのちの期限を宣告された患者は、「生き延びたい」という大きな希望と「それが無理ならせめて・・」という小さな願いの 間で生きている、彼女の言葉はそれをよく表していると思います。彼女を含めていのちの限界を宣告された人に共通するのは、真剣に生と向き合っているという事です。そして健康な人が当たり前に過ごす日常が、いかに貴重かを実感しています。つまり、よりリアルに生きているのです。この哲学的な意味は極めて重要です。死にゆく人しか対象としないホスピスケアは敗北の医療だといまだに言う人がいるとすれば、それは人間の尊厳に対する冒涜にほかなりません。自らの死を直視すること、病院ではなく日常生活空間で身内を看取る体験をすることは、死ではなく生を実感するためにこそ重要です。
3.ホスピスケアは医療ではない
   誰もが生きて死ぬ中で、死の過程は人生の総仕上げです。生物学的には生命活動の停止への過程ですが、全人的な苦痛は医療だけの守備範囲ではありません。人生の根底的な問いかけや生と死の哲学的な意味について、どうして医療だけで答えを出し得るでしょうか。医療者の過剰な義務感も患者の過度な医療依存も、現代的な文明病と言えるかもしれません。患者を人間として尊重するホスピスケアのテーマは、医療だけでなく福祉を含む社会の基盤とすべき哲学です。その意味で、緩和医療の名のもとに「がん医療」の一部として法的に位置づけられた現在、公的に位置づけでの福利向上は評価できるものの、真の意味合いとしては正しいものとは言えません。
4.誰が患者と家族を支え得るのか
   医療の支えには限界があることを、医療者も患者側も自覚することが大切です。医療は、医療技術を持った人間が人間同士として患者に関わるとき、真の力を発揮します。特に西洋医学のみがエビデンスを持つかのような狭義の医療は、どのように専門化し深化してもそれ自体で限界を持ちます。人間存在の不思議さは、人生の総仕上げの過程でこそ豊かに実感し合えます。その実感を持つからこそ患者同士の支え合いが力を持ち、家族やボランティアも時には医療以上に支える力を持ち得るのです。医療ばかりでなく社会のあらゆる仕組みが、その人の生と死を尊重することを主題としたものとなることが、真に豊かな社会の必要条件と言えるでしょう。生と死を支えるプロフェッションなど存在しません。生と死の神秘が分からない者同士が支え合おうとする努力があるのみです。治療と延命しか視野に無い医療は幼いものであり、医療自体も再度いのちを見つめ直すことが必要です。その意味で治療の手立てに限界がある患者との人間的出会いがあるホスピスケアの場は、医療の成熟のためにも必要だと言えるでしょう。

5.私たちができること
   生と死は誰にもわからない。患者は患者としての専門家である。この2点だけでもホスピスケアの現場ではプロフェッションの構造変化があります。そこにある哲学的問いかけは医療への問いかけであり、社会構造変化への問いかけです。私たちは会員の皆さんの支援によってできる範囲の活動に力を尽くすのみですが、活動を続けることで一石を投じ続けていければと願っています。
略歴
松本 克弘(まつもと かつひろ)

昭和31年北海道生まれ
日本大学文理学部教育学科卒業
平成9年「市民と共に創るホスピスケアの会」設立時に代表に就任
人材派遣会社テンプスタッフ・カメイ渇c業部部長
日本人材派遣協会東北地域協議会事務局長


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