市民のためのがん治療の会
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カロリーゼロって、本当に体に良いの?

『人工甘味料と肥満や糖尿病などの関係についての最新情報』


ハーバード大学リサーチフェロー
大西 睦子
ダイエットブームに乗って巷に踊る「カロリーゼロ」の文字。砂糖の代わりに人工甘味料を使った飲料などが人気のようだ。
だが最近の研究は、人工甘味料と肥満、糖尿病の関係は、体の生理的反応と人間の行動的、心理的な要素が関与していることを明らかにしてきた。さらに以前から指摘されている人口甘味料の発がん性等についても、動物実験の結果とはいうものの、依然として不安が残る。
そこで2012年5月1日付医療ガバナンス学会発行「MRIC」を、同学会のご好意で転載させていただいた。(會田)
人工甘味料って、どんなものがあるかご存知ですか?サッカリンが一番古い人工甘味料で、1879年にジョンズ・ホプキンス大学の化学者コンスタンティン・ファールバーグ博士によって発見されました。サッカリンは砂糖より300倍も甘みがあるのですが、苦味も強く、1937年にイリノイ大学のマイケル・スウエダ博士によりサイクラミン酸が発見され、苦味も改善しました。その後、アスパルテーム, アセスルファムカリウム、スクラロース, ネオテームと、続々と新しい人工甘味料が発見され、味も随分改善しました。発見当初、人工甘味料は『糖分摂取制限の必要な人のみ使用』とされていました。ところが、現在は人工甘味料の急速な普及のため、多くのひとが手軽に摂取しています。

ところで、みなさんに質問です。『カロリーゼロって、本当に体にとって影響ゼロなのでしょうか?』

『ダイエットコーラを飲みなさい、脂肪ゼロの食品を食べなさい』。今アメリカでは、こんなアドバイスが、本当に正しいか疑問視されています。なぜなら、いくつかの疫学研究で、特にダイエットソーダに含まれているアスパルテームやスクラロースなどの人工甘味料が、肥満や糖尿病の原因になることがわかってきたからです。動物実験でも、2008年にパデュー大学の研究者は、サッカリンを摂取したラットは、砂糖を摂取したラットに比べて、食べ過ぎのため体重が増加したことを報告しています。『カロリーがないのに、そんなこと信じられない!』と思いますが、最近の研究で次のような理由がわかってきたのです。それは、人工甘味料と肥満、糖尿病の関係は、体の生理的反応と人間の行動的、心理的な要素が関与しているのです。


●心理的、行動的問題
テキサス大学ヘルスサイエンスセンターのジェニファー ネットルトン博士は、2009年に、大規模疫学調査により、ダイエットソーダを毎日飲んでいる人は飲んでいない人に比べて、メタボリック症候群や2型糖尿病の発症する可能性が高いことを報告しました。博士はこの結果に関して、もちろん生物学的なメカニズムや代謝異常の関与があるかもしれませんが、人間の行動パターンが最も大きな原因と考えています。行動パターンとは、『人工甘味料はカロリーがないから、その分安心してたくさん食べてもいいと思う。』『人工甘味料は天然甘味料より数百倍も甘みをもっているため、人工甘味料を摂取し続けると、さらに甘い食べ物を食べたくなる。』などが考えられると思います。
●生理的反応
1) 正常な状態で、食後カロリーは、熱すなわちエネルギーに変換されます。しかし人工甘味料を摂取しても、カロリーはないため、熱に変換できす、自然に体がエネルギーを要求し、食欲を増進させます。

2) 糖分摂取後、3-5分で糖分は胃壁から血液中に移動し、膵臓からのインスリン分泌により血糖は正常に維持されます。ボストン大学のバーバラ コーキー博士のグループは、動物実験において、アスパルテーム、サッカリン、スクラロースなどの人工甘味料摂取後、インスリンの分泌が上昇することを報告しました。人工甘味料摂取後は、実際血液中の糖の上昇はないので、インスリンの作用で、一時的に血糖が低下します。低血糖は生命に危険ですから、体はすぐに空腹という信号を送ります。もし、あなたが継続的に人工甘味料を摂取すると、この空腹感は増加し続け、食欲が増加します。

3) 膵臓は、人工甘味料を摂取し続けると、徐々に嘘になれて、本物の砂糖を摂取しても、インスリンの分泌をしなくなります。

4) さらに、甘みは、短期間の気分の向上と知られています。甘いものを食べているとき、幸せって感じませんか?セロトニンってご存知ですか?インスリンの作用で、糖分は脳のセロトニンの分泌を増加させます。セロトニンは幸せの神経伝達物質です。もし、インスリンの分泌が低下すると、幸せ感も低下します。この状況を克服する手段は、砂糖をとって、インスリンを再分泌させるしかないのです。たくさん人工甘味料を摂取している人で、抑うつ状態をよく見かけるのは、インスリン分泌の低下のためかもしれません。これらの摂取を中止することで、抑うつが改善したという報告もあります。肥満、糖尿病、抑うつだけではなく、例えば、アスパルテームには、記憶喪失、混乱、知能低下、視力障害などの作用も報告されています。

追加ですが、以前からサッカリンと膀胱癌の関係やアスパルテームと脳腫瘍、リンパ腫、白血病など、人工甘味料と癌の関係が報告されています。しかし、これらはすべて動物実験による結果で、現在の時点では、人に対する影響は明確な証拠はないと言われています。動物実験の結果をどう解釈して実生活に結び付けるか、最終的に個人の判断に任されると思いますが、難しい場合が多いと思います。

<私の感想>

アメリカを先頭に、欧米諸国では肥満が深刻な問題です。最近は、子供たちの肥満も大問題となっています。日本は欧米諸国と比較し、肥満問題は深刻ではありませんが、子供の肥満は増加しています。また、内臓脂肪、成人病の合併が増えてきています。最近、ハーバードの研究者たちが、癌の動物モデルにおいて、癌が治らなくても、筋肉の萎縮を防止したら長生きしたという研究報告をしました。無理なダイエットで痩せてしまい、筋肉も減ってしまうと、生きていくエネルギーがなくなります。私の結論は、エネルギーなしの人工甘味料を使って動かず食べ過ぎるより、適度の天然甘味料を摂取して動くことが一番と思います。本物のおいしい食べ物を食べて、前向きな精神力を鍛え、行動を起こしませんか!

<管理栄養士、加藤滋子先生の感想>

カロリーゼロという表示を見ると、なんとなく安心してつい手が伸びてしまいますよね。栄養士が食事指導で、カロリーを控えめにしましょう、という場合にも人工甘味料を紹介することがありますので、勧める側も使い方に気を付けないといけないと自省しました。ところで、みなさんは食事をしっかり取っていますか?朝昼晩と規則正しく食事をすることは血糖値の安定にもつながりますし、何より、しっかり食べると食事だけで脳が満足するので、間食を控えることができます。ご飯(やパンなどの主食)の量が大事ですよ。どうも甘いものを取りすぎているなと思われる方は、ご自分の食事で脳が満足できているのか、ちょっと見直してみてはいかがでしょうか。



略歴
大西睦子(おおにし むつこ)

東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。医学博士。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事している。

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