市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会

『声を失った方のために
シャント発声法解説資料』


神奈川銀鈴会事務局長
松嶋 直
「市民のためのがん治療の会」は従来より、がん治療は救命が第一ではあるが、できうる限りQOLを維持した「より良い治り方」を重視して活動している。 が、残念ながらがんの部位、進行度などにより救命のために摘出手術等が行われ、視力、構音、嚥下、発声等のQOLを著しく損傷する結果を招来する場合もある。
今回はこのうち咽頭がんなどにより発声機能を失った場合の発声補助について、神奈川銀鈴会の事務局長で「市民のためのがん治療の会」会員の松嶋さんにご寄稿いただいたので、ここに掲載させていただきます。
ご体調がすぐれない時期にご寄稿いただきましたとのことで、深く感謝いたします。
なお、下記の神奈川銀鈴会HPもご参考になさってください。
http://www.ginreikai.sakura.ne.jp/kanagawa/
(會田 昭一郎)

1.喉摘者の代用音声

喉頭摘出によって生じた発声機能喪失を補う代用音声には、食道発声、電気喉頭(EL)などがあります。 一般的にELについてはほとんどの市町村で日常生活用具として認定され、購入費が補助されています。 近年脚光を帯びてきたのがシャント発声法と呼ばれるものですが、これにかかわる障害者日常生活用具の認定は市町村によって扱いがバラバラの状況です。

2.シャント発声法とは

シャント発声法は、喉頭摘出手術によって分離した食道と気管を、ボイスプロテーゼという特殊な管(プロヴォックス®)で繋ぎ、 人工鼻(HME)を指で抑えることによって、吐き出す息をその管を通って食道に送り込み、食道壁を振動させ音声とするもので、今までのどの方法よりもQOLを著しく向上させるものです。

日本国内での普及はまだ喉頭摘出者の10%程度ですが、ヨーロッパ等では多く取り入れられ、 スウェーデンやオランダでは患者の90%がシャント発声法で第二の声を取り戻していると言われています。 国内でもこの方法を取り入れる病院が増えてきており、今後はシャント発声法を用いる患者が増加するものと思われます。

3.シャント発声法の利点

  • ①吐く息を使うので、食道発声よりも空気量が圧倒的に多く、健常者に近い会話可能
  • ②声に強弱、高低、抑揚が付けられ、感情を込めた会話や大声が可能
  • ③食道発声に比べ習得が容易で、シャント設置者の90%以上が短期に習得
  • ④人工鼻には防塵、保温、保湿の効果があり、衛生面、健康保持面で優れる

以上のことから、喉頭摘出者のQOLを格段に向上させます。

4.シャント発声法の課題

  • ①ボイスプロテーゼ設置のための手術が必要
  • ②数カ月ごとに病院でのボイスプロテーゼの交換が必要
  • ③永久気管孔に装着する人工鼻、関連製品を毎日交換
  • ④日に数回、専用ブラシでのボイスプロテーゼの清掃が必要

などがありますが、そのうち①と②は健康保険が適用されますが、③と④にかかる日常生活用具について、 現在のところ自治体によっては自己負担となっており、患者の経済的負担(月額2~3万円)が大きなネックになっています。

(神奈川銀鈴会シャント指導員:谷亀 理)

<補足説明>

人工鼻(HME)の仕組み

人工鼻(HME)は永久気管孔に装着します。 人工鼻から呼吸をすると空気が加温・加湿されます。 人工鼻は、はきだした空気から温度と水分を捉え、吸入した空気に温度と水分を与えます。

人工鼻を最大限活用するには、日常的に装着する必要があります。 人工鼻を使用し始めると、一時的に痰が増えるかもしれません。 これは普通の反応で、肺が人工鼻に適応すれば、数週間でおさまっていきます。



人工鼻(HME)で話す

ボイスプロステーシスを挿入している方は、人工鼻(HME)を指で押さえると話すことができます。


状況に応じてHMEを使い分ける

日常のシーンや状況に応じてHMEを使い分けることができます。 散歩をしたり、友達に会ったり、普段より多く話したり、活動的な状況は人により異なります。

プロヴォックスエクストラフローHMEは、活動的な時に吸気を加湿しながら楽に呼吸ができます。 痰や咳が減るのでご友人と会っている時も目立つことがありません。 話す時もHMEを押さえるだけなので簡単です。

日中は活動するだけでなく、時にはリラックスしてゆったりと過ごしたい時もあります。

例えば、朝起きて新聞を読んだり、簡単な食事の用意をする時などです。

いずれの場合も、プロヴォックスエクストラモイストHMEをお勧めします。 エクストラモイストHMEは吸気を十分加湿しながら楽に呼吸ができます。 咳や痰を抑えて、シャント発声するのも簡単です。


人が集まる場所に適したHME

プロヴォックスマイクロンHMEは、細菌やウィルスがいる可能性の高い、人が集まる場所に行く時に適しています。 例えば、インフルエンザシーズンに混雑した場所(公共交通機関、学校、スーパーマーケット)へ行くときや、花粉症シーズンに外出する時などに適しています。


ハンズフリーで話せるHME

シャント発声の方にはプロヴォックスフリーハンズフレキシボイスをお勧めします。 特殊なバルブとHMEを組み合わせた製品で、ハンズフリーで話すことができる機器です。

フリーハンズ用HMEは、活動量によって2種類からお選びいただけます。 活動的な時はフローHMEを、リラックスしたい時にはモイストHMEをお勧めします。


夜の使用に適したHME

夜を快適に過ごしたい方にはプロヴォックスルナをお勧めします。 プロヴォックスルナHMEは、柔らかい素材でできているので、睡眠を妨げることなく吸気を加温・加湿し、肺の健康維持をサポートします。


人工発声器=エレクトロ・ラリンクスと呼び略してELといいます

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