市民のためのがん治療の会
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『雑感-滅亡への道を歩む日本の現状』


北海道がんセンター 名誉院長
市民のためのがん治療の会 顧問 西尾正道

選挙が終わったが、投票率は極めて低い結果を見て、社会の問題に関心をない国民が増えていることを実感する。 本当にこれでいいのであろうか。 地球上にある放射性物質を原発稼働により、10億倍にすることが発電のためとはいえ許されると思っているのであろうか。 人間としての見識が問われているのである。 急遽依頼された原稿で、以前に講演などで使用していたスライドの図表を使用して最近考えていることを雑感として書かしていただく。

オランダでは資料1に示すが、高速道路の脇に約100m間隔で風車が立っていたが、低周波の影響も受けず、賢い方法だと感心したことがある。 コストも最も安い方法である。

資料1

福島原発事故で痛い目にあっても日本はまた老朽化した原発再稼働を推進しようとしている。 健康被害の原因となる内部被曝は1943年から軍事機密とされ、 放射線は当たったところにしか影響がないのにインチキな実効線量(Sv)という全身化換算する単位で被ばく影響を議論する物語を国際放射線防護委員会(ICRP)などの民間の国際機関が協力して作り上げ教科書としているため、 御用学者ばかりを排出している歴史が作られている。

かつては原発が発電技術として最も安いと宣伝していたが、これは稼働時だけのコストであり、建築費や核ゴミ処理などの費用は全く考慮していないインチキ計算だったのである。 実際には最近の報告では資料2に示すが、原発は最も高い発電技術なのである。

資料2

また、原発で発生させた熱の2~3割は発電に利用されているが、残りの7~8割の熱は温排水として海や川に流しているのであり、 原発はいわば海水暖め装置であり、こうした海水温の上昇が気候変動の原因なのである。 太陽の周りを楕円形に回っている地球の軌道や、太陽の黒点の数や、それにより影響を受ける宇宙線の増減など、 いわゆる宇宙の物理学の討論は全く無く脱CO2だけが議論され、CO2を出さないとして、原発稼働の理由としているが、まったくのデタラメなのである。 1800年の世界人口は18億人であっが、現在は80億人を超えた。 当然消費エネルギーも増えるし、CO2を吸収してくれる森林は伐採され、夏はエアコンで室外に熱風を出し、コンクリートやアスファルトで囲まれた町はヒートアイランドとなっている。 しかし、10万人以下の田舎では特に温度上昇は測定されていない。 地球温暖化キャンペーンも儲けが絡んだ陰謀の可能性も考えてもらいたいものである。

ロシア・ウクライナの戦争や北朝鮮のミサイル実験などを契機に戦争の危機を煽り、軍事費の倍増などが行われている。 しかし、配管の森のような原発施設にミサイルを撃ち込まれれば、戦争どころではなく、日本は敗北するが、こんなことも想定できないバカな政治家や行政官が日本を仕切っているのである。 また戦後の1947年~1949年の3年間は年間260万人~280万人が生まれていたが、昨年の出生者数は80万人以下となった。 団塊の世代が高度経済成長の原動力となったが、今になって少子化問題が議論されている。 人口が減る国で経済成長など望めないのに人口減少を考慮しない経済学者のレベルの低さにも呆れる。 退職して11年目を迎えるが、衣類は全く購入なしで買ったものは下着ぐらいである。 資本主義経済においては、少子化し消費が増えないのに経済成長など望めないのに、なぜ人口減少を問題としなかったのか。 資料3は20年前に講演のために作成したスライドであるが、人口減少は20年前から問題となっていたのである。 このままでは22世紀初頭には江戸時代の人口となる。

資料3

日本の医療はそれなりのレベルを保ちつつ比較的安い医療費で受けられる国であることは喜ばしいことであるが、 その原点は1950年代に東京大学経済学部教授であった大内兵衛氏が医療の経済学的側面を考察し、 労働力の確保が最も重要であるという視点で、国民皆保険制度と国民皆年金制度を提言したことによる。 医療の本分は労働力の確保なのである。資料4に医療の経済学的側面に関するまとめを示す。

資料4

このため、現在の日本のような強欲資本主義の社会では労働力とならない老人や身障者は切り捨てられることとなる。 医療費の増大につれ、政府は医療費削減策を画策し、色々な対応をしてきた。 まず、1996年に成人病(高血圧、糖尿病、癌など)と言われていた疾患群を『生活習慣病』と名称を改めた。 この意図は、中年以降にこうした疾患となった人に対して、『貴方の生活習慣が悪かったので、こうした疾患に罹患したので、自己責任なので、医療費は自分で払って下さい』という意味が含まれているのです。 具体的な近年の厚労省の医療費抑制策を上げると、
① 医療型は縮小、介護型は廃止して「高齢者は在宅へ」、 ② 療養病床を現在の38万床か15万床にまで削減、 ③ 一般病床入院医療費を「出来高払い」から「定額制」へ、 ④ 入院期間を短くして医療費を抑制、 ⑤ 割安な後発医薬品の普及促進、⑥混合診療の導入
などである。

現場の医療では、病名だけではなく、その病態や見通しなども考慮し、 更に患者さんの置かれている社会的要因も考慮して治療に当たらなければならないため、医師は医学的な知識や技量だけではなく、社会的な動向も含めて対応すべきなのである。 しかし、実際のデータを読み解くと、癌などの生活習慣病とされている多くの疾患は、遺伝的要因の疾患以外は『生活環境病』なのである。 この概念に最初に気付いたのは、50年前に医者となった時に、年間30例以上の上顎洞癌の治療をしていた。 犬歯窩より腫瘍を掻き出し軟膏ガーゼを挿入して管理しながら、術後照射をしていた。 土・日も病院に行ってガーゼ交換する日常であったが、現在では2~3年に1例来るか来ないかとなった。 何でこんなに上顎洞癌が激減したのかと考えた場合、蓄膿症がいなくなったことによると結論した。 私自身も子供の頃は慢性副鼻腔炎(俗に蓄膿症)で膿汁用の鼻水を出していたが、今は見かけることはなくなった。 胃癌も井戸水で生活していた時代はピロリ菌感染し、慢性胃炎を繰り返している過程で胃癌となるため最も多いがん種であったが、水道が普及し、ピロリ菌感染が少なくなり、胃癌は激減した。

更に、50年前は日本女性の乳癌は年間約1万5千人であったが、現在は9万5千人となり、5~6倍となった。 これは米国では女性ホルモン入りの餌を与えて飼育し、生産性を高めているため、米国産牛肉の消費量が5倍となり、乳癌が日米ともに5倍以上となったのである。 こうしたホルモン摂取の環境の変化で、ホルモンが関係しているがん種が増加している。 50年前、子宮癌と言えば、子宮頸癌(扁平上皮癌)が9割、子宮体癌(腺癌)1割であったが、 北海道がんセンター婦人科の2000年の資料では子宮頸癌と子宮体癌はほぼ半数ずつとなり、最近の全国がん登録の資料では子宮頚癌4割、子宮体癌6割となっている。 こうした食生活の影響で発生する癌種が異なってきているのである。 資料5に学会や週刊誌で発表されたデーターを示す。

資料5

更に1950年代から大気中の核実験が行われていたが、 核分裂により、大気中に放出された放射性微粒子がその影響で、最終的に人体に取り込まれ内部被曝することが健康被害に結びついているのである。 放出された放射性微粒子の気象庁の測定結果を資料6に示し、またその微粒子の環境中の動態を資料7に示す。 こうした環境中に放出された放射性微粒子が体内に取り込まれて被曝するため発がんが増加するのである。

資料6

資料7

資料8に戦後の日米の発癌者のデータを示すが、スエーデンも含め全世界で発がん者が増加している。

資料8

更に、厚生省勤務時代に母子手帳のしくみを作った立派な行政官であった瀬木三雄氏が晩年東北大学医学部公衆衛生学講座の教授となって公表した小児白血病と膵臓癌のデータを資料9に示す。

資料9

小児の白血病の増加は最も放射線感受性の高いリンパ球が癌化したためであり、 また膵臓癌の増加や戦後の食料難の時代でも糖尿病が増加したのは、Sr-90がβ崩壊し、イットリウム90に変化し、 イットリウム90が膵臓に臓器親和性があるため長く膵臓に留まり膵臓の内分泌機能を低下させたためであり、説明ができる。 その説明を資料10に示す。

資料10

更に、医療費問題については、少子化対策の一つとして、出産費も保険適応とすべきである。 基本的に医療施設で行う行為は医療保険の適応とすべきである。 現在の出産費は資料11に示すように都道府県で異なるという馬鹿げた現状である。 東京では56.5万円、鳥取では35.7万円であり、20万円の開きがある。 こんなバカ話はない。 健康でも医療行為は医療保険が使用できる体制を構築すべきである。 正規雇用が減り、経済的に厳しい若者達を支援すべきである。

資料11(2023年4月7日 日本経済新聞)

出産に伴うトラブルや帝王切開による出産では医療保険が使えるのに、正常分娩では保険が使えないという馬鹿な話である。 50万円程度の一時金を援助するという案も出ているようであるが、父親の酒代に変わる可能性もあり、しっかりと出産に伴う行為に対して保険適応とすべきなのである。 また学校給食は完全に無料とすれば、子育てのサポートとなり、また女性も社会に出て勤務しやすくなり、労働力不足も補うことができる。

更に国民病ともなってきた癌に対しては、がん検診も保険適応とすべきである。 症状を呈して病院を受診し、Ⅲ期と診断されれば約半数は命を取られ、抗癌剤の使用により、死ぬまでに数千万円の医療費となる。 しかし、無症状でもがん検診により、Ⅰ期で見つかれば、手術単独治療や機能と形態を温存した放射線治療で9割以上は治癒し、 治療費は100万円以下であり、本人が3割負担だとしても自己負担は30万以下で済むのである。

2019年には医療費は44兆円を超えたが、その内訳は、4割弱は循環器系の疾患である。 これは高血圧や糖尿病となれば多くの人は生涯にわたって投薬を受けるためである。 次に多いのはがん医療に関わる医療費であり、医療費全体の約1/3を占めている。 しかし、がん医療費内訳では、抗癌剤が8割を占め、外科治療費が2割弱であり、放射線治療は5%以下である。 訪米の先進国ではがん治療の現場で放射線治療は50~60%の患者さんに使われているが、日本は現在約23%にすぎず、【安かろう・悪かろう】の状態である。 切腹の美学の国で、外科治療優位であり、薬好きの国民性は抗癌剤も多用されている。 抗癌剤は分子標的治療薬などの開発で50年前と比較して薬剤費は3桁上がっているのである。 検診で早期に癌を発見すれば抗癌剤不要の治療となるため、医療費は激減するのであるが、現場知らずの人達が仕切るため、有効な対応ができないのが日本なのである。

ここまでは、少子化問題や医療費問題などを論じたが、以下は食の安全問題による健康被害について論じる。 まず原発事故後に日本人は世界一放射性微粒子を体内に取り込まれる生活環境となっており、放射性微粒子と接している細胞は超膨大に被曝することにより、 発がんなどの健康被害が憂慮されるが、すぐに発症するものではなく、10年~数十年という長い期間に影響は出現するのである。 子供の甲状腺癌の検査で多発が叫ばれ訴訟にもなっているが、あまりにもがんの増殖や進行についての医学的な知識を知らずに議論されている。 この問題に関しては、多発を叫ぶ人達には「がん医療の今」のNo.452 20210914 『小児甲状腺癌の問題について』 http://www.com-info.org/medical.php?ima_20210914_nishio を参考として再考して頂きたいと思う。 この福島事故後の対応としては、事故当時福島県に在住していた人は成人後に全国どこに住んでいても生涯に渡ってハイリスクグループとして甲状腺の癌検診を受けることができる体制を構築することが、大事なのである。

しかし人生を閉じる時期となり、気がかりなのは農薬や遺伝子組換え食品などの食の安全による健康被害が今後増加することを憂慮している。 第二次世界大戦において、米国は原爆と枯葉剤を開発し、枯葉剤を東北地方に撒いて東京の食を絶つ作戦と原爆投下の作戦を検討し、原爆投下を先行したが、 15年後に枯葉剤はベトナム戦争で使用し、多大な被害をもたらした。

枯葉剤を開発した米国企業のモンサントは1990年に枯葉剤を改良して除草剤として農業部門に参入し、農薬として販売することとなった。 モンサントの日本での代理店は住友化学であり、会長だった米倉弘昌氏は経団連会長だったこともあり、農薬の人体影響については不問にされることとなった。 しかし、脳科学者たちの研究により、子供の発達障害を引き起こす原因となっていることが突き止められても、 今だに報じられることは少なく、子供を産む可能性のある若い女性も知らない人が多いのが現状である。

枯葉剤を改良し、除草剤(農薬)として1990年から市販されたため、1990年代から子供たちの発達障害が増加した。 その実態を資料12に示すが、最近の文部科学省の発表では8.8%の子供が発達障害とされており、深刻な問題となっている。

資料12

このため、全国の小・中学校には発達障害児のための特殊学級が造設されている。 しかし、こうした子供達が卒業して社会人として活躍できるかどうかは別問題であり、閉じこもりの人生となる可能性も考える必要がある。 また発達障害の問題だけではなく、神経系に異常を発生させることも考えられるが、実際にパーキンソン病なども増加している。 資料13にフランスのデータとともにその実態を示す。 フランスではパーキンソン病は農薬が関係していると認定され、農業従事者の職業病として認定されているという。

資料13

また資料14に示すが、ネオニコチノイド系農薬が発達障害の原因とされているが、全く報じられることも無いし、 農産物に含まれている残留農薬の量も中国と肩を並べて世界一であり、残留農薬基準も世界一緩い基準であり、ますます発達障碍児が増加すると思われる。

資料14

最近脳科学の第一人者である黒田洋一郎氏は2014年に終活で書いた本を昨年改訂版を出したが、 そこではALPS処理後の汚染水の中に含まれているトリチウムの脳への影響について追記している。その部分を資料15に示す。

資料15

更に農薬の毒性として、WHOのIARC(国際がん研究機関)において、資料16に示すとおり、 農薬は発がん性も指摘されており、発がん物質としてグループ2Aにランキングされている。

資料16

また、遺伝子組換え食品の問題も日本は表示の義務も必要ないデタラメな状態であり、深刻な未来しか見えてこない。 資料17にフランスのセラリーニ教授の動物実験のまとめを示すが、実際には人体への影響もあると考えざるを得ないのである。

資料17

更に、自社の農薬を使用しても収穫できるように種子を遺伝子操作で改良し、販売しているのである。資料18にその実態を示す。

資料18

こうした要因も絡んでがん罹患者は資料19に示すが、100万人/年を超え、この60年で4倍となっているのである。

資料19

発癌性のある化学物質と放射線を同時に与えるとがんは相乗的に増加するという1980~1990年代の野村大成氏の報告を見れば、 人口比で比較すれば、世界一のがん罹患国となっている日本国民の現状が説明出来るのである。 日本人は健康を害し、滅びる方向に向かっているとしか思えない昨今である。 このままでは、生活環境の悪化により、多様な疾患が発生し、奇病・難病も増え、日本は壊滅する方向に向かっているように思われ心配している。 少しは先が見える藪医として、政府や行政などにも天唾発言をしてきた医師の最近の感想である。

資料20に野村大成氏の研究成果の要約を示し稿を終わる。

(了)

資料20

西尾 正道(にしお まさみち)

1947年函館市出身。札幌医科大学卒業。 74年国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現北海道がんセンター)放射線科勤務。 2008年4月同センター院長、13年4月から名誉院長。 「市民のためのがん治療の会」顧問。 小線源治療をライフワークとし、40年にわたり3万人以上の患者の治療に当たってきた。 著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、 『がんの放射線治療』 (日本評論社)、 『放射線治療医の本音-がん患者-2万人と向き合ってー』 ( NHK出版)、 『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、 『放射線健康障害の真実』(旬報社)、 『正直ながんの話』(旬報社)、 『被ばく列島』(小出裕章共著・角川学芸出版)、 『患者よ、がんと賢く闘え!放射線の光と闇』(旬報社) 『被曝インフォデミツク』(寿郎社)、など。 その他、専門学術書、論文多数。
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