市民のためのがん治療の会
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『離れた病院でも即時に医療画像の共有を!効率化した救急体制の構築の取り組み
~仙台厚生病院仙石病院(宮城県東松島市)救急診療連携遠隔での医療画像共有~』


福島県県立医科大学 放射線健康管理学講座 博士研究員
医師 医学博士
齋藤 宏章
なお、本稿の初出は、2024年9月30日MRIC by 医療ガバナンス学会Vol.24185(http://medg.jp)で、齋藤先生のご許可をいただきここに転載させていただきました。 ご厚意に感謝いたします。
(會田 昭一郎)

医療D X(デジタルトランスフォーメーション)が話題になっていますが、医療現場での情報の取り扱いはまだまだ驚くほどにアナログな面が多々残されています。 今回は遠隔での医療画像共有を使った、病院間での救急診療連携を円滑化した結果をまとめた論文と、プロジェクトについてご紹介いたします。

論文はTeleradiology-Based Referrals for Patients with Gastroenterological Diseases Between Tertiary and Regional Hospitals: A Hospital-to-Hospital Approach (三次病院と地域病院間の消化器疾患患者に対する遠隔画像に基づく紹介: 病院間連携の事例)というものです。
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s10278-024-01264-x

この論文は米国の医療画像情報の学術団体が発行するJournal of Imaging Informatics in Medicineに9月17日に掲載されました。 私は、現在は福島県相馬中央病院で勤務していますが、前職は宮城県の仙台厚生病院で働いていました。 今回の論文は仙台厚生病院と同じく宮城県東松島市にある仙石病院の患者紹介の際に、遠隔での画像共有を行うことで、効率化して実施したという内容になります。

今回の病院間の連携のプロジェクトは2020年6月、ちょうど新型コロナ感染症が今後広がっていきそうだというタイミングで導入が進められました。 仙台厚生病院は仙台市の中心に位置する中核病院です。 循環器、呼吸器、消化器の3つの診療科のいずれもが全国でトップクラスの診療実績を誇っています。 多くの患者さんの紹介を宮城県内のみならず広くは県外からも受けています。

その中で、患者さんの紹介を受けることの多い病院の1つが仙石病院でした。 仙石病院は宮城県の東松島市、仙台市よりも東側の沿岸地域に位置しています。 医療地域としては石巻地域の患者さんを中心に診療している地域の中核病院の1つです。 宮城県の中でも医療機関の手薄な地域でもあり、仙台厚生病院は仙石病院との連携を推し進めていました。

仙石病院では多くの患者さんの治療を行っていますが、より大きな病院への紹介を必要とする事例も多々存在します。 例えば大動脈解離の外科的治療や、高度な治療が必要になる胆膵領域の内視鏡治療時には仙台厚生病院のような高度治療を提供する病院へ患者さんを紹介することになります。 仙石病院から仙台厚生病院までは直線距離で50kmほどあり、救急搬送でも1時間はかかります。 緊急症例では、患者情報の共有から治療までをどのように円滑に繋げるかが課題になっていました。

一般的に、病院間で患者さんを紹介する場合の情報伝達には非常にアナログな方法が取られます。 例えば、膵臓癌で黄疸(癌によって肝臓から胆汁を排泄する管が詰まってしまう状態)を発症した患者さんがいるとします。 地域病院ではC Tと採血検査で担当医が膵臓癌による黄疸であろうと診断し、患者さんを紹介したいと考えます。 その後行われる紹介方法は ①紹介先の病院に担当医が電話で連絡し、場合によっては医師間で情報伝達を行う ②得られた情報を診療情報提供書として文書で作成し、F A Xで送る ③患者さんにこれらの情報を直接持っていってもらう、といういずれかが多いです。

問題となるのは、口頭や文章で画像の情報を伝え切るのは難しい、という点です。 膵臓癌の治療であれば、癌の大きさ、周囲の血管や臓器への浸潤、胆管の狭窄の程度、胆管炎の有無、そもそも膵臓癌の診断で問題がないか、ということを治療する医師は必要とします。 もちろん、従来通り、これらの評価は患者さんが紹介先の病院に到着してから行っても問題ないことが殆どです。

一方で、例えば当日に救急搬送される場合や、超緊急で治療が必要になる場合、あるいは予期せぬような症例である場合、 紹介の時点で紹介元の医療画像をすぐに紹介先の医療機関でも閲覧できれば、患者さんを受け入れた後の治療の流れを迅速化することができます。 実際、最近では知り合いの医師に相談する場合にはLINEやメールなどで患者情報を特定できない形で医療画像を共有し、内々に相談する事例もあると聞きます。

この課題に挑戦するために、仙石病院と仙台厚生病院に共有できる遠隔画像閲覧システムを構築しました。 エムネス社( https://mnes.life/ )の提供するLOOKRECというシステムはクラウド型の遠隔画像閲覧のシステムで、 クラウドに医療画像をアップロード、保管でき、かつオンラインでそれらの医療画像を閲覧できます。 日本でもクラウド型の医療画像サービスを提供している会社は複数ありますが、エムネス社は早くから遠隔画像読影などに着手した、その先駆けです。

このプロジェクト以前から仙台厚生病院とエムネス社ではLOOKRECの基盤を使った肺がんのAIの研究などを行っていた実績があり、導入が進みました。 私もそちらのプロジェクトに関わっていたため、この連携プロジェクトに関わりました。

連携の流れはこのようになります。 仙石病院で仙台厚生病院に紹介したい患者が生じた場合、仙石病院側では共有のクラウドスペースに医療画像を共有します。 患者紹介の際に、仙台厚生病院の担当医師はあらかじめその画像を確認することができます。 実際に画像を見ながらその後の治療方針や管理のスケジュールなどを検討することができるわけです。

先に紹介した論文では、2020年7月から2023年6月までの期間にLOOKRECを用いて、仙石病院から仙台厚生病院に紹介された消化器病症例の特徴をまとめています。 この期間には56例の症例が紹介されていました。 このうち8割(45例)は高度な内視鏡治療を必要とする胆膵疾患の症例で、残り11例が腸閉塞や腸管穿孔、虫垂炎などの消化管に関連する疾患でした。 紹介時には9割の症例でC T画像が共有され、4割弱ではMRI画像も合わせて共有されました。

この論文ではLOOKRECを使った連携の流れにも注目しています。 56例中、49例が入院での治療が必要と判断され仙石病院から転院の対応となりました。 患者紹介が行われてから実際に患者さんの受診や転院が行われた時期については、16例は当日に転院搬送が行われ、33例は翌日以降に待機的に搬送の流れとなっていました。

事前に画像を共有することで、治療の予測を行いやすくすることで、急ぐ必要がある人はその日のうちに転院し、 急がない場合には受け入れ側の治療予定や入院患者の混雑状況などによって転院日を調整できていました。 実際、手術や内視鏡治療などの侵襲的な治療が行われた症例に関しては、8割弱が転院したその日に治療を受けていました。 幸い、49例全員が生存し退院できていました。

この紹介システムは消化器病領域だけでなく、循環器疾患や呼吸器疾患でも有用です。 特に、循環器領域では一刻一秒を争う疾患があります。 この連携プロジェクトを立ち上げた当初は特に、急性大動脈解離での実用例があり、重宝されていました。 急性大動脈解離は大血管の壁が裂けることで循環状態が急激に不安定化しますが、その解剖的な分類で治療方針が異なります。 先に画像を確認することができれば、受け入れ側の病院では手術の準備を始めることもできますが、口頭での情報共有だけではそうもいきません。 こちらのシステム導入後は、実際に、転院搬送後の手術までの時間が短縮されているのではないかという話をいただいています。

このような画像共有を用いた連携の取り組みは広大な土地を持つ米国からの報告が多く、古くから議論が進んでいます。 例えば脳外科的治療が必要な症例で病院間の紹介を行う場合に遠隔画像共有を行うことで、 搬送前の予備的な治療の開始が開始されやすくなる、搬送時間が短縮できる、不要な搬送が減るという報告が2009年にすでに行われています(1)。 他にも外傷センターへの紹介については、遠隔画像共有が不要な紹介を減らせるという議論があります(2)

実は日本でも、多くの地域で病院間の情報連携をオンラインで行うという、同様の試みが行われていますが、残念ながら日本国内の成果については報告が乏しいのが実情です。 こうした取り組みの普及を妨げている要因を調べる必要もあるでしょう。

今回の事例では、導入にあたり、通常の業務の流れを妨げないこと、手順や決定の障壁を簡単なものにし、日常的に使ってもらえるものにすることを心掛けました。 その為、仙石病院、仙台厚生病院双方の先生方や、実際にデータの移動などを行ってもらう技師さんに頻繁にお話を伺い、細かな手順を調整し、実際に利用されているかも定期的にチェックを行っています。 導入後に実際に利用されているかを確認する、利用に関わる当事者にヒアリングをする活きた運用を続けることもこのような連携のシステム構築には重要なのだと感じています。

このようなシステムは特に地域の医療連携の円滑化に貢献するだけでなく、高度医療へのアクセスの悪い地域へのサポートにも有用かもしれません。

参考文献

  • 1.Y. C. GOH CKL& WSPK. The impact of teleradiology on the inter-hospital transfer of neurosurgical patients. Br J Neurosurg. 2009;11(1):52–56.
  • 2.Ashkenazi I, Zeina AR, Kessel B, et al. Effect of teleradiology upon pattern of transfer of head injured patients from a rural gen- eral hospital to a neurosurgical referral centre: follow-up study. Emergency Medicine Journal. 2015;32(12):946-950.

齋藤 宏章 (さいとう ひろあき)

内科医、医学博士 2015年東京大学医学部卒 2022年9月福島県立医科大学大学院修了
北見赤十字病院で初期研修医を行ったのち、2017年に一般財団法人厚生会 仙台厚生病院 消化器内科、2022年6月より相馬中央病院 内科勤務
2019年2月の米国医学会雑誌内科版(JAMA Internal medicine)への論文発表を始め、日本の医学会の利益相反問題の研究に取り組む。 一般診療では上部・下部内視鏡検査をはじめ、消化器内科診療全般の修練を行ない、仙台厚生病院では内視鏡AI研究にも取り組んだ。
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