市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
切れない肝臓がん治療の救世主となるか
『肝細胞がんに対する定位放射線治療』
山口大学医学部附属病院
放射線科講師 沖本智昭

 肝臓がんは、2006年にガンで死亡した日本人では、3番目に多いがんです。 肝臓がんには、直接肝臓にできた原発性肝がんと他のがんが肝臓に転移した転移性肝がんがあります。今回は、原発性肝がんの約94%を占め、主に肝炎ウイルスが原因で起こる肝細胞がんに対する定位放射線治療について紹介します。
 肝細胞がんの治療方法としては、手術療法、局所療法(特殊な針をがんに刺して焼灼するラジオ波焼灼療法や針からエタノールを注入してガン細胞を殺すエタノール注入療法)、肝動脈カテーテル療法(太ももの動脈から入れたカテーテルという細いチューブを、ガンに血液を送っている肝臓内の細い動脈まで進め、そこから抗がん剤を流し、その直後に細かいスポンジで動脈を塞ぐことでガン細胞を殺す)の三本柱が確立されています。最近の調査では、手術療法33.6%、局所療法31.2%,肝動脈カテーテル療法29.6%と、3本柱でほとんどの症例を治療しています。しかし、肝細胞がんの治療がこの三本柱で十分かというとそうではありません。発見時に切除可能な症例は半数以下です。切除できない症例は局所療法や肝動脈カテーテル療法で治療を行うのですが、がん細胞を全滅できない症例は決して少なくありません。がん細胞を全滅できない症例については、局所療法や肝動脈カテーテル療法を繰り返して、何とかがんの増大を抑えようとするのですが、治療はかなり困難となります。このような3本柱での治療が困難な症例に対し、近年、定位放射線治療が行われるようになり、その有効性が報告がされています。
 定位放射線治療は、ピンポイント照射とも言われ、腫瘍に対し3次元的に多方向から放射線のビームを集中させることにより、腫瘍には高い線量を照射し、周囲の非腫瘍組織には弱い線量しか照射しないという高精度放射線治療の一つです(詳しい事は、唐澤先生が書かれた「がん治療の今」N0.4をご覧ください。)。肝細胞がんの放射線治療を考える上で3つの重要なポイントがあります。まず、ウイルス性肝炎や肝硬変がベースにあるために、治療前から肝機能が低下している例が多い事。次に、一つの肝細胞がんを治療しても、別の肝臓内に次々と別の肝細胞がん(肝臓内への転移や新たにできる肝細胞がん)が出現して来る事。最後に、肝臓は放射線に比較的弱い臓器である事です。以上の3点を考慮すると、可能な限り肝細胞がんだけに集中して放射線を照射し、腫瘍以外の肝臓には出来るだけ弱い放射線を当てる事で、放射線による肝機能低下を可能な限り抑え、後に肝細胞がんが出現した場合でも、治療に耐えうる肝機能を保てる方法が、肝細胞がんに対する最適な放射線治療となり、まさしくこの方法が定位放射線治療そのものなのです。
 肝細胞がんへの定位放射線治療は、まだ症例数が少なく、未解明の部分もありますが、私が経験した約30例の経験からも、肝細胞がんに対する新たな治療法として患者さんのお役に立てると確信しています。現在、近隣の施設と協力して、肝細胞がんへの定位放射線治療の臨床試験を開始する準備を進めております。

肝がん

そこが聞きたい
Q がん患者大集会の大成功の後、がん患者団体が手をつないで国民病ともいえるがんに立ち向かおうということになり、多くの団体の方々と活動しましたが、そこに日肝協の方もおられ、立派なリーダでしたが、肝臓がんで失いました。本当に残念でした。「市民のためのがん治療の会」も会員の中のリーダ的な方をやはり失いました。肝臓がんは転移するケースが多いようで、なかなか手術でスパッと直るというのはむずかしいのでしょうか。

A 肝臓の外科手術の進歩により肝細胞がんの手術成績が非常に良くなっており、切除できるのであれば切除を選択すべきであるというのが、現在の考え方です。ただし、切除可能な症例は半数以下と言われています。しかも肝臓の外科手術には熟練が必要なので、どの病院でも上手に切除できるというわけではありません。

Q がんは一般に初期の段階では何も自覚症状がなく、自覚症状が出たときには既に手遅れという厄介な病気ですが、肝臓は「沈黙の臓器」と言われるとおり、自覚症状はなかなかでないものなのでしょうか。

A そのとおりです。肝細胞がん自体により自覚症状が出現するのは、非常に進行した場合です。 しかし、大部分の肝細胞がんは、ウイルス性肝炎、肝硬変をベースに発生するため、肝細胞がんが出来やすい人かどうかは、血液検査で肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べれば簡単にわかります。肝細胞がんができやすい人は、年に4−5回の超音波検査と年に1回の造影CT検査を受けることで、肝細胞がんを2cm程度の早期に発見できる可能性が高くなります。

Q でもその代わりと言ってはなんですが、肝臓は再生能力が強いそうですので、たくさん転移しても、バッサリ切除できないものでしょうか。

A 肝臓の再生能力は高いのですが、それはあくまで正常の肝臓の場合です。肝細胞がんの多くは肝臓の再生能力が低下した肝硬変患者に出来るので、無理に切除すると肝不全で亡くなることになります。

Q 「がん医療の今」の9回目の「脊椎骨転移・再発がんの治療について」で井上先生がおっしゃってますが、沖本先生のご研究も、最近のコンピュータ・テクノロジの進歩によって高精度放射線治療が可能になったために治療できるようになったということですね。

A おっしゃるとおりです。肝細胞がんの定位放射線治療は非常に有効な方法と考えておりますが、肝細胞がんの近くに十二指腸、小腸、大腸がある場合、現在の定位放射線治療の技術では治療ができません。しかし放射線治療技術は現在も日々進歩しており、このような症例を克服する方策も考案中です。

Q患者は自分がおかれている状況がきびしければ厳しいほど、常に治療法のブレイク・スルーを求めます、何とか現状を打破して一発逆転ホームランということにならないかと。で、こういうお話しを聞けば、どこでそういう治療を受けられるのか、いくらぐらいかかるのかと思いますが。まだ、研究段階・・・。

A 国内ですでに約100施設で体幹部定位放射線治療が行われていますが、肺癌への照射が大多数です。肝細胞がんへ10例以上定位放射線治療を行った経験のある施設は、かなり少ないと思いますし、どの施設で何例ぐらい経験があるのか私も把握しておりません。患者さんは、まず近隣で定位放射線治療ができる施設の放射線治療科を受診し、相談していただくのが良いと思います。仮にその施設で経験が無くても何らかのアドバイスをいただけるはずです。費用ですが、肺癌への定位放射線治療と全く同じ基準で保険適応が認められており、放射線治療の診療報酬は63000点という保険点数がついています。3割負担の方であれば、63万円の3割で約19万円となります。

Q個人で一度19万円を支払っても、もちろん高額療養費制度の適用も受けられるようですので、実際の個人負担額は8万100円ということになりますね。(高額療養費制度の金額は都道府県で異なっている)

A そうなります。ただし、あくまで定位放射線治療だけに対する費用なので、定位放射線治療を入院で行う場合や、定位放射線治療が可能かどうかを事前に調べる検査等については別途費用が必要になります。費用の詳細については必ず担当医にご確認下さい。

Q私は「特区」を使って、未承認薬なども含め色々な先進的な治療が行えると良いと思いますが。

A 賛成です。専門医の中で一定のコンセンサスが得られている治療方法であれば、特区等を使ってできるだけ早く患者さんに提供できるようにすべきだと考えます。


略歴
沖本 智昭(おきもと ともあき)
平成2年 長崎大学医学部卒業後同放射線科入局、同放射線科医員、広島県立広島病院放射線科医長を経て平成20年から山口大学医学部附属病院放射線科講師となり現在に至る。この間平成8年から2年間テキサス大学ヘルスサイエンスセンター・サンアントニオ研究員。 専門 放射線腫瘍学 放射線病理学 特に肝細胞癌・肺癌への定位放射線治療と放射線抵抗性細胞のイメージング法の研究 日本放射線腫瘍学認定医 日本医学放射線学会専門医 日本癌治療認定医機構がん治療認定医 医学物理士

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