市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
がん病巣に直接放射性物質を封入した小線源を刺入するという分かりやすい、有効性の高い治療法である小線源治療。患者としてはその副作用も知って選択したい。
【低線量率(LDR) 前立腺小線源治療
    VS. 高線量率(HDR) 前立腺小線源治療】
―その特徴と現実的な使い分けについて(2)―

東京慈恵会医科大学 放射線医学講座
青木 学
1.副作用の比較

低線量率小線源治療を行うのが比較的難しいケース

  1. 前立腺肥大症に対するTURP((transurethral resection of prostate )経尿道前立腺切除術。尿道に内視鏡を挿入し、肥大部を見ながら前立腺を切除する手術)の既往がある人。
    尿失禁の割合が最大32%まで増加すると報告されています。

  2. 前立腺体積
    前立腺の体積が大きければ、沢山の線源個数の刺入が必要となります。本邦では退出基準の線量限度の関係から、一般的に言って総線源量が1300MBq以上の線源は挿入することは難しいと考えられています。この場合には、通常3〜6ヶ月間のホルモン療法を行い、前立腺体積を縮小させてから組織内照射を行いますが、前立腺体積が40〜45cm3以下にならない場合にはLDRの適応外となることが多くなります。

  3. 年齢:80代(期待予命:10年) / 50代(20~30年:長期報告がまだない)
    本治療の最もよい適応は低リスク群ですが、一方でこのリスク群の患者は無治療であっても生存期間の短縮が生じる可能性は低いと考えられています。近年低リスク群であっても10年以上の経過では無治療患者において生存期間の短縮が起こることが報告されてきました。このようなことからも少なくとも5年以上の期待余命が無い場合には適応外と考えられています。 若年者における適応については、これまでのところコンセンサスが得られるほどのデータはありません。若年者ほど性機能温存の希望が強いものですが、一方で再発後の治療法の選択肢の関係から手術を勧められることも実際には多いと考えられています。しかし近年放射線治療後の再発例に対する手術症例が米国を中心に増加していることを考慮すると、まずは侵襲性の少ない方法を選択するという方針も妥当と考えられます。

高線量率小線源治療を行うのが比較的難しいケース

  • HDRにおける相対的禁忌は一般にLDRに比べ少ないと考えられています。HDRではLDRに比べ線量率が高いものの、尿道および直腸への投与線量の最適化が図れること、刺入針から線源の逸脱がないことおよび外部照射の併用などによってHDRにかかる負担が少ないことなどから禁忌は少ないと考えられています。

副作用について

  1. 尿道の副作用について
    尿路の副作用についてはその程度や持続期間に治療法による特徴が現れています。急性期の副作用については、尿失禁および尿閉を除けばいずれもHDRに比べLDRの方が頻度が高くなっています。この原因としてHDRでは1回の投与線量は高いものの、これまでの報告では外部照射の併用が行われているため副作用が想像よりも少ないのかもしれません。また、LDRでは一般に処方線量より高い尿道線量が投与されることも原因と考えられます。加えて副作用の持続期間もQOLに大きな影響をもたらすと考えられています。HDRでは全治療終了後1ヶ月程度の間に急速に症状の改善が見られるのに対して、LDRではその半減期(60日)のために頻尿および切迫尿が3〜6ヶ月程度まで症状が持続することが多いようです。これらはいずれも重篤であることは少ないもの治療後1ヶ月〜3ヶ月の間ではQOLを低下させることが多いようです。

  2. 直腸の副作用について
    直腸の急性期副作用には頻便などが見られるものの、HDRおよびLDRで大きな差はありません。急性期にまれに見られる出血についてはほとんどが一過性のものであり、QOLを左右することもありません。一方、慢性期に見られる直腸出血に関してはHDRの頻度が高くなっています。

  3. 性機能の温存について

    HDRの性機能温存率に関する長期報告は比較的少ないものの、外部照射が併用されているにもかかわらずHDRにおける性機能温存率は比較的良好です。一般に性機能温存に関してLDRも有利と考えられているものの、報告によるとおおむねHDR≧LDR≧外部照射の順となっています。

  4. 被ばくについて
    被ばくについては、HDRでは周囲への被ばくの心配がないことから大きな利点といえます。ただし現実的にはLDRにおいても乳児および妊婦を除けば被ばくが問題となることは極めて少なく、精神衛生上の問題とも言えます。

結論

HDRの長期成績に関しての報告はLDRに比して少ないが、HDRとLDRのこれまでの成績を比較するとおおむね以下の通りとなります。低〜中リスクに関してはほぼ同等と考えられますが、高リスクに関してはHDRが有利と考えられています。

副作用やQOLに関しては、治療(手術)自体の負担はLDRでは短時間(2~3時間)で済むため患者さんにとって明らかな利点が認められます。一方HDRでは数日(2〜5日)かけて行うことから患者さんの身体的負担は大きいものの、治療後のQOLの観点からは主に半減期の関係からLDRでは副作用の持続する期間が長く、HDRに有利と言えます。また、HDRにおいてもアプリケーターの改良によって数日間の治療に高齢者であっても十分耐えられる方法も報告されつつあります。 治療時の身体的負担や治療成績を考慮すると、低リスクにおいてはLDRに歩があるように思われます。当院におけるLDRとHDRの使い分けは以下の通りです。
  1. 低リスク群に対してはLDR単独療法

  2. 中リスク群に対してはLDR単独療法(グリソンスコア:3+4)、LDR+外部照射(グリソンスコア:4+3)、LDR+1年程度のホルモン療法の併用(外部照射なし)

  3. 高リスク群に対してはHDR + 外部照射 + ホルモン療法(放射線前6ヶ月、放射線後2年)


そこが聞きたい
QLDRは照射期間が長いとのことですが、これまで大きな副作用があったのでしょうか?

A 放射線が長い期間出るため、長い期間尿道を刺激することは避けることは出来ません。従って3ヶ月ぐらいは切迫尿や頻尿などの症状が出現しやすくなります。ただし、これらの症状も耐え難いほどではなく、薬物療法もありますので安心して治療していただけると思います。

Q2種類の小線源療治療法の手術数は、これまで日本においてどれくらいの症例数が行われたのでしょうか?

A 現在では低線量率(永久挿入=LDR)小線源治療は日本で100施設ぐらいですが、大体年間3000例ほどで、すでに6年以上経過し、14000人ぐらいでしょうか? 一方高線量率(HDR)を施行できる施設は日本全体で15〜20施設です。こちらは年間1000人まではいかないだろうと思います。

Q通院に時間の掛るような地方におられる患者が高リスクと診断された場合、LDRとHDRとどちらがよいでしょうか。

A 高リスクであれば、治癒する可能性の高いHDRによる治療を勧めます。 HDRの治療自体は入院で行いますので近い・遠いは関係ないでしょう。 一方併用する外部照射は場合によっては近くの病院でも受けられますのでHDRを行う施設でご相談されれば良いと思います。前立腺がんに対してHDRを行っている主な施設については、「前立腺がんに対してLDR、HDRを行っている主な施設」をご参考になさってください。

Q小線源療治療法をやっている施設はどうやってしらべればよいのでしょうか。

A こちらも前の回答と同様に、「前立腺がんに対してLDR、HDRを行っている主な施設」をご参考になさってください。また日本メジフィジックスのホームページ
( http://www.nmp.co.jp/CGI/public/hospital/main.cgi )でも全国のLDR治療を行っている施設は調べられます。

Qこの治療にはどのくらいのお金がかかりますか。

A LDRの方は入院や手技料で50〜60万円、それに加え線源代が50万円近くかかります。 合計100万円ほどですが、保険がききますので実際には30万円ぐらいで、さらに高額医療になりますので20万円ほどはいずれ返ってきます。
一方、HDR治療の方も入院等を含めると70〜80万円ほどかかるでしょうか?さらに外部照射を入れると100万円ほどになるのではないでしょうか?こちらも保険がききますので同様です。



略歴
青木 学(あおき まなぶ)
昭和63年東京慈恵会医科大学卒業後、癌研究会附属病院放射線治療科医員を経て平成6年東京慈恵会医科大学放射線医学講座助手。その後東京慈恵会医科大学放射線医学講座講師を経て平成22年東京慈恵会医科大学放射線医学講座准教授、現職。

Copyright (C) Citizen Oriented Medicine. All rights reserved.