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市民のためのがん治療の会
往診を頼んだら、いくらかかるの? 在宅医療と往診ってどう違うの?
「在宅医療と往診」

医療法人社団裕和会長尾クリニック
理事長 長尾 和宏

よく駅などの医療機関の看板に、「往診可」と書いてあります。しかし、患者さんにとっては、「往診」は敷居が高いでしょう。初めて呼ばれる往診は、大抵、驚くほど重症です。いきなり救急搬送となることも多く、「せめてあと2、3日でも早く呼んでくれたら」と悔むこともしばしばです。

他人を家に入れるという心理的抵抗感だけでなく、「医療費はいくら請求されるの?」という恐怖心もあるでしょう。「往診を初めて依頼する」という敷居はかなり高いのだと思います。医療機関は値段表のないお寿司屋さんのようなもの。今回は、この素朴な疑問について、説明します。

往診の基本点数は、この4月から720点と定められています。これに初診料ないし再診料がプラスされます。さらに診察時間内の緊急往診なら1.5倍、夜間(日没から22時)は2倍、深夜(22時〜6時)は3倍という加算がつきます。交通費は実費請求です。当院では一切請求していませんが、医療機関によって設定が異なります。お車代を包む必要は決してありません。

めまいと吐き気で、初めてのお医者さんに電話で往診を頼み、往診してめまいの点滴とお薬(院外処方)が出されたケースの医療を考えてみます。初診270点+往診720点+点滴料70点+処方料68点で、合計が約1100点になります。血液検査などをすればさらに加算されますが、基本型は、だいたいこんな感じです。医療保険の場合、全国一律1点=10円ですから、3割負担の場合の自己負担は約3300円、1割負担なら約1100円になります。 3割負担の方でも、マッサージを頼むよりずっと安いと思います。

「意外だ」とは思いませんか? 自己紹介で在宅医療の話に触れたら、さっそく「訪問診療と往診はどう違うの?」という質問をいただきました。いい質問だと思います。私のクリニックには、沢山の医療者が研修に来られます。あちこちで在宅医療の講演もします。そうした時はいつも私は、「訪問診療と往診の違い」の話から始めます。訪問診療とは、毎週○曜日の○時にと約束して医師が訪問することです。1週間ないし2週間に1回が標準的です。

一方、往診とはまさに読んで字のごとく、電話等で請われて訪問することです。 両者は「似て非なるもの」です。在宅医療とは、「訪問診療+往診」で成り立っています。2006年に定められた在宅療養支援診療所には、全国約10万軒の医療機関のうち、約2万軒、すなわち全診療所の2割も届け出ています。そこには、私のようにまだ「在宅医療」という言葉さえなかった15年前から取り組んでいる診療所と、在宅誘導政策にとりあえず乗っておこう、という診療所が混在しています。

在宅療養支援診療所の第一要件は、「必要とあれば365日24時間往診すること」です。これは「言うは易し、行うは難し」で結構大変ですが、重要なことです。私は在宅医療のことを患者さんに「自宅に入院する」と説明します。ナースコールは携帯電話です。「呼ばれたら行く。けれどちょっと時間がかかるのが病院と違うところ」と説明しています。

後進にいつも言っていることは「在宅医療とは、患者さんとご家族に安心を与えること」です。この「安心」の第一歩は、「いつでも電話で話せることである」と私は思います。実際、大半は電話相談で済みます。深夜に車を走らせることは、月に2〜3回でしょうか。

もし、この世に携帯電話がなかったら、今のような在宅医療なぞ無理でしょう。
携帯電話の発展とともに普及してきたと言ってもいいでしょう。「いつでも往診します」という約束ほど、患者さんにとって安心を与える言葉はありません。 往診こそ、在宅医療の要なのです。ですから、「訪問診療だけなら在宅医療とは呼べない」、と私は思います。これは、あくまで個人的意見です。

さて、「訪問診療はするけど、往診はしません」というお医者さん。これは自分の都合のいい時間には行くけどもそれ以外は知りません、という意思表示です。医者ももちろん人間ですから夜中に起こされたり、往診したいわけではありません。健康上の理由があるならともかく、かりに医者本人がOKでも、奥さんがNOという場合もあるでしょう。

仕事とプライベートを確実に分けたい今風の医者なら、携帯電話対応など論外という方がむしろ普通かもしれません。実は、2通りの在宅医がいるわけです。深夜に亡くなった時に、すぐに往診する在宅医と、朝まで待ってもらって往診する在宅医です。在宅医療は、往診に始まり、往診に終わると思っています。


朝日新聞の医療サイト、asahi.comの「アピタル」の「町医者だから言いたい!」4月23日第4回、4月24日第5回から転載。
https://aspara.asahi.com/blog/ArticleList.do?siteId=ff80808127677aa801278973111a075f

略歴
長尾和宏(ながお・かずひろ)

1958年、香川県生まれ。1984年に東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。阪神大震災をきっかけに、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業、院長をしています。最初は商店街にある10坪程度の小さな診療所でした。現在は、私を含め計7人の医師が365日24時間態勢で外来診療と在宅医療に励んでいます。趣味はゴルフと音楽。著書に「町医者力」「パンドラの箱を開けよう」(いずれも、エピック)などがあります。

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