市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
早期の段階ではほとんど自覚症状などのないがん。自覚症状が現れた段階では既に手遅れなどと言われても患者は途方に暮れるばかり。PET診断は早期発見の切り札か。
「F-18-FDG PET/CTの「がん」を診るチカラ (2)」

セントヒル病院 セムイPET診断・放射線治療サイト
放射線室長 菅 一能
そこが聞きたい
QPETが登場したころは、PET,PETと言っておりましたが、特にFDG PETと表現するのは、何か意味があるのでしょうか?

A PET(陽電子放出断層撮影)は、体内における集積分布を追跡したい物質を陽電子を放出する放射性同位元素で標識し、それから出るエネルギーを受けて光る検出器を用い画像化するものです。FDG PET では、追跡したい物質はブドウ糖であり、ブドウ糖に類似したFDGをF-18という陽電子を放出するもので標識したものを用います。FDG以外にも、アミノ酸の一種であるメチオニンの集積分布を追跡する場合には、これをC-11という陽電子を放出する放射性同位元素で標識したものを用います。この場合は、メチオニン(MET) PETと呼ばれ、アミノ酸代謝を反映した画像が得られます。さかんに増殖する悪性腫瘍では、ブドウ糖、アミノ酸ともに取り込みが亢進しており、PET画像では周囲の正常組織よりも強く集積します。PET腫瘍イメージングには、この他にも、血流状態、腫瘍増殖(細胞分裂)、低酸素状態をみるための薬剤もありますが、現在では保健適応のあるFDG が広く使われており、断りが無い限りは、通常はPETというとFDG PETのことを指しています。

Qがんを見つけたり、治療後の状況を調べたり、転移の状態を知ったりすることができるのは患者にとっても大変ありがたいことですが、PETの性質を知って有効に活用する知恵が大切ですね。

A 大多数の方は、既にMRI(磁気共鳴画像)がX線を使用せず磁場と電波により身体の断層像を撮像する検査であることはご存知と思います。脳ドックなどで、MRIで脳や脳血管の状態を検査された方も多いと思います。MRI装置が出始めた頃には、装置を保有する施設は限られ、診療には既に広く普及していたX線CTがもっぱら使用されていました。しかし、MRIは身体の臓器や腫瘍の性状が、CTとは違う面から観察でき有用性が高いため、今では広く普及し診療に必要不可欠な検査の1つになっています。同様のことが、PETにも起きているようです。PETでは、CTやMRIとは違い、機能や代謝面から身体の臓器や腫瘍の性状を観察でき、「がん」診療において有用な検査法です。全身検索を一度に検査できる点も大きな利点で、CTやMRIで気付かれていなかった転移巣や予期せぬ他の悪性腫瘍が発見されることは、決して稀ではありません。治療後に他の悪性腫瘍が見つけられたり、転移や再発が起きたとしても、比較的小さいうちに見つけ出せば、最近では進歩した治療により克服する機会があります。また、治療後にCTやMRIでは腫瘍があまり小さくならず不安になる場合でも、PETではブドウ糖代謝が顕著に低下していることが判り、治療が有効なことを確認できることも少なくありません。今後、PETの良さは広く知られるようになり、「がん」診療に必要不可欠なものとして普及するはずです。ただし、「がん」診療において、CTやMRと同様に、PETも万能ではありません。一般には、悪性腫瘍が5-10mmより小さい場合にはFDG集積が乏しく見つけ出すことが難しく、比較的大きい腫瘍でもFDG集積が乏しい組織型のものもあります。炎症巣など、「がん」以外の病巣にも集積しますので、組織検査が必要となる場合もあります。PET検査の利点と限界を考慮した上で、必要に応じてCTやMRI、超音波検査なども合わせて行ない、総合的に正しい診断に導くことが重要です。私も含め、PET診療に携わる医師は、各領域毎の腫瘍のFDG 集積の性質を熟知し、FDG PETに弱点がある場合には、他検査で補って活用することが大事で、受診者の皆様にはPETの利点ばかりでなく限界点も十分に説明することが重要と考えます。

なお、日本核医学会と社団法人日本アイソトープ協会から、PET検査について核医学専門医がわかりやすく解説したパンフレット、「PET検査Q&A」が出版されています。いずれのPET施設にも置いてあると思いますので、皆様にはご参考いただければと思います。

Q PETが登場したころは何しろ20億円近くもする小型原子炉のようなもので、放射線を標識した薬剤をつくり、検査料も10万円ぐらいするけれど、「これで早期発見ができる!」とみんな夢の検査機器のように思いました。ちょうど電子レンジが登場したころ、10万円ぐらいでしたから当時の家電製品としては目の玉が飛び出るような金額。私たちは往々にして高いものだとそれなりに性能も良いものだと思うものです。電子レンジも何でもできる魔法の家電製品と思われました。PETも万能というわけではないですね。

A 前の質問でもお答えしましたように、FDG PET は「がん」診断において万能ではありません。一般に「がん」が小さい場合にはFDG集積が乏しく、比較的大きい腫瘍でも組織型によってはFDG集積が乏しく見つけ出すことが難しいものもあります。「がん」以外の病巣にも集積し得ます。PETとCTの合体装置による検査では、CTで形態像も観察でき、PETの弱点を補うことができますが、CTも万能ではないため、「がん」の早期発見に万能とは言えません。確かに万能ではないですが、私の施設を含め国内の多くの施設では、「がん」の早期発見のために、FDG PET/CT検診を行っています。FDG PETは、全身を見渡し、多種類の悪性腫瘍をFDG 異常集積として見つけ出す能力がありますから、「がん」のスクリーニングに使用するのに適した面があるからです。通常の臓器別の健診(胸部X線写真、腹部超音波検査、胃や大腸の内視鏡/透視検査、マンモグラフィ、子宮がん健診など)で、「がん」が無いとされた場合でも、検査をされていない臓器や部位に悪性病変がある場合があり、FDG PETまたはFDG PET/CTは、その病変も見つけ出すポテンシャルを持っています。

 ただし、「がん」のスクリーニングにおいて、FDG PETは、FDGの排泄経路の近傍にある腎癌や膀胱癌や、FDG集積程度が一定しない前立腺癌、肝癌などでは有用性が低く、胃癌、食道癌の発見には上部消化管内視鏡の方がFDG PETより優れています。逆に頭頚部癌、悪性リンパ腫ではFDG PETは他検査より優れています。従って、「がん」検診をPET単独で行うのは適切でなく、PETの弱点を補う検査を併用し総合的に行なう必要があります。このため、多くの施設のFDG PET検診では、超音波検査、MRI, 内視鏡検査、腫瘍マーカー(血液検査)、喀痰細胞診など他検査を組み合わせて総合的に行われています。

 本文中にも述べましたが、FDG PETまたはFDG PET/CTで「がん」検診を行っている施設の全国調査では、受診者の1.27%(100人中1.2人)に見つけ出されていました。通常の臓器別に行われる健診に比べ、相当(10倍前後)に高い率です。これは、FDG PETが、全身の多種類の悪性腫瘍をFDG 異常集積として見つけ出す能力を持つためと考えられます。また、自覚症状のない受診者が対象者であるため、私の施設も含め早期がんが多く発見されています。

 FDG PETやFDG PET/CT検査料(社会保険診療報酬)は、確かに高く申し訳なく思っております。自施設で陽電子を出す核種を産生するためのサイクロトロン装置を持ちF-18 FDGを作る方法だけでなく、最近では、製薬会社のサイクロトロン施設から配給されるF-18 FDGを用いる事も可能になりました。しかし、この場合でも検査料が安くなるわけではありません。

 検査料が高いのは、サイクロトロンやFDG PETやFDG PET/CT装置の設備費や装置のメンテナンス費用に加え、複数の診療放射線技師、看護師・薬剤師、医師、事務員が携わる必要があるからだと思います。それでも、米国メディケアのFDG-PET検査料が12万円〜18万円なのに対し、本邦での検査料は8万6千円ほどで世界中で最も低額のようです。このため、国内で黒字状態にある施設は少なく、医療の質を向上を図るため採算面は度外視して導入する施設も多いです。皆様には、この辺の事情も周知していただければ幸いです。

 FDG PET検査の検査料は高めですが、CTやMRなどに本検査を加えることで、「がん」の種類にもよりますが、約1/3ほどの患者さんの治療方針が変更がされます。有効性に欠しい手術が回避でき、早期「がん」が見つけられた場合には、治療費が安く入院期間も短くて済みます。また、手術や他治療後の予後も良くなります。一例として、「大腸がん」におけるFDG PET検査の医療経済効果は、日本アイソトープ協会PETワーキンググループの試算では、日本全体で年間65億6,071万円の節減になり、患者さん一人当たりでは58万9,299円の節約になると報告されています。

Q何にでも得手不得手がありますが、PETもすべてのがんを発見できるというのではなく、PETでは診断が難しい、あるいはその有用性が低いがんというのはどんながんでしょうか。

A FDG FDG PETは全身の多種類の悪性腫瘍を、身体的負担が少なく一度に評価できる利点がありますが、「がん」を見つけ出す上で決してパーフェクトではありません。FDG PETで診断が難しい、あるいは有用性が低い「がん」としては、腫瘍細胞の体積が小さいもの、中枢神経系、尿路系に近接するもの、腫瘍組織内の細胞密度の低いもの、分化度の高いもの(低悪性度のもの)、FDGを代謝する脱リン酸化酵素(グルコース-6-ホスファターゼ)活性が高くFDG集積が欠しいものなどが挙げられます。具体的には、腎細胞癌、前立腺癌、膀胱癌、胃硬癌(スキルス)、気管支肺胞型肺癌、高分化型肺腺癌、高分化型肝細胞癌などが、 FDG 集積が乏しく有用性が低いといわれています。粘膜に表在する胃癌や食道癌にもFDG集積が欠しく、発見にはFDG PETより上部消化管内視鏡の方が優れます。子宮頸癌の中でもFDG 集積が乏しい非浸潤癌や微小浸潤癌は検出し難く、子宮頸部細胞診の方が優れます。悪性リンパ腫では、大部分はFDG集積が高く有用ですが、腫瘤を形成しないタイプのものや粘膜関連リンパ様組織腫(MALT リンパ腫 )など低悪性度のものはFDG 集積が乏しいことがあり注意を要します。ただし、FDG PET が不得意な「がん」は、いずれも検査する意義がまったく無いかというと、個々の状況で異なります。例えば、他の検査で骨や他部位の転移巣が先に見つかったが、どこの原発巣からのものかが判らない場合にFDG PETを行うと、約1/3の受診者では、転移巣、原発巣ともにFDG異常集積が認められ解決できます。気管支肺胞型肺癌や高分化型肺腺癌、高分化型肝細胞癌、腎細胞癌などは、FDG PET単独検査ではFDG集積が乏しく見つけられない場合でも、PET/CT合体装置による検査では、同時に撮影されるCT像で異常として検出される場合があります。

 原発巣のFDG 集積が乏しい悪性腫瘍でも、リンパ節転移巣や他部位の転移巣にはFDG集積が認められ、ステージングや再発巣の検出においてFDG PET検査が有用であることは少なくありません。これは転移巣における細胞構築や悪性度が変化するためと考えられます。脳は生理的にFDG集積が高いので、悪性腫瘍がFDG異常集積として認め難い例もあり、他領域に比べFDG PETの有用性は低いとされています。しかし、FDG集積の高い腫瘍もあり、また放射線壊死と再発の鑑別には有用です。脳領域では、FDG PET検査の弱点を改善するため、保険適応はありませんが、FDG の代わりにメチオニン(MET)を使用した検査も行なわれます。

Q大きさは1cm 以下は検出が困難と言われているようですが。

A FDG PET装置の性能にもよりますが、一般には腫瘍が5-10mmより小さい場合には、FDGが集積していても検出は困難な状況にあります。これは、主に部分体積効果と呼ばれる現象によるもので、同じFDG集積を示す病変でも、大きいものに比べると、径が約2 cmより小さくなるほどFDG集積が低く描出される現象です。さらに、肺下部や上腹部で、呼吸による動きが大きい部位では、小さい病変のFDG集積が不明瞭化します。また、前述したように、たとえ大きい腫瘍でも、組織型によってはFDG集積が乏しいものがあり注意は必要です。

 一方、腫瘍の病気分類(ステージング)では、組織型にもよりますが、多くの固形癌では大きさが1-3 cmのものは早期癌に入るものは多く、FDG PETで1cmを越えた大きさのものが検出されることは、十分に意義があると考えます。少なくとも痛みなど自覚症状が出て初めて発見される状況よりは、手術や治療、生活の質、費用の負担などの面で有利になることが多いはずです。

 肺癌検診に用いられる胸部CTに眼を向けてみると、大きさが2-5 mmの小さい病変でも鋭敏に検出されます。しかし、5 mmより小さい病変は、小さ過ぎて特徴に乏しく組織検査も行ない難く、「がん」と他病変の鑑別が困難なことが多く、通常は1年後の経過観察で大きさの変化をみることが行なわれます。FDG PET検査でも、一定の期間をあけた経過観察により、早期「がん」を見過ごさないようにする方法もあると考えます。

Q粘膜に薄く広がっているようなタイプのがんも見つけにくいようですね。

A 粘膜に薄く広がっているようなタイプの「がん」は、FDG集積し易い腫瘍細胞を有していても体積が小さいためFDGは集積し難く、一般にFDG PETの有用性は低いです。代表的なものとして、粘膜に表在する胃癌や食道癌が挙げられ、発見にはFDG PETより内視鏡の方が優れます。特に胃癌では比較的広い範囲に腫瘍が広がっていても粘膜に薄く広がっているようなタイプのがんは少なくないので、たとえFDG PET/CTで異常を認めなくても胃内視鏡検査を行なうように勧めています。一方、癌のリスクを高めるといわれているピロリ菌感染や萎縮性胃炎、あるいは他の良性の胃炎などにもFDGは集積し、これがFDG PETで拾い上げられることは少なくありません。粘膜に表在する胃癌や食道癌の他にも、胆道癌で胆管壁に薄く広がるタイプのもの、比較的大きい気道の肺癌で粘膜に薄く広がるタイプのもの, 子宮頸癌の非浸潤癌や微小浸潤癌、膀胱癌などはFDGは集積し難く注意が必要です。

繰り返しになりますが、FDG PETやFDG PET/CT検査も他の各種画像検査と同様に強い部分と弱い部分を持ち合わせておりパーフェクトではありません。弱点を熟知しておき、必要に応じ弱点を補う他画像検査や内視鏡検査、尿検査、細胞病理検査などを合わせて行ない、検出能力の向上を図ることが重要です。
Qがん細胞が糖質を取り込む性質を利用して集積を検出することによってがんを見つけ出すということで、血糖値が200 mg/dl以上の人は検査できないのでしょうか。

A 腫瘍のFDG集積は、血糖値に影響されますので、検査の4-6時間前から食事及び糖分の含まれる飲み物は控える必要があります。血糖値が150-180mg/dlを超えると身体全体のFDG集積が低下し、比較的小さい病変へのFDG異常集積が検出されにくくなります。このため、検査前に血糖値を測定します。200 mg/dl 以上では診断能が著しく低下しますので、検査は中止した方が良いと考えます。無理やり血糖値を下げようとして空腹時に経口薬剤やインシュリンの注射をするのは、低血糖発作を起こし危険な状態になる恐れがあり問題です。このため、血糖値の変動をよく把握されているかかりつけの主治医との連携により、良好にコントロールして検査を受けられることをお勧めします。
Q妊娠の可能性のある人も禁忌でしょうか。

A まずは一般的に、放射線被曝の影響の話をします。放射線被曝の影響は、ある被曝線量(しきい値)を越えると障害が起こり発生率が線量に比例して増加する確定的影響と、確率は低いが低い線量でも影響が起こり得る確率的影響の2つに分けられます。後者の確率的影響には発癌と遺伝的影響があり、放射線によるDNA損傷、突然変異に基づく影響とされています。しきい値はなく、被曝線量が増加すると突然変異の確率が増加し,発癌と遺伝的影響の発生頻度は増加するとされています。このため、放射線を使用する検査を依頼する医師を含め,放射線診断に関わるすべての医療従事者には,放射線が発がんのリスクを増やす可能性があることを認識し,撮影の条件,範囲,回数などに留意し,可能な限り線量低減に努め、検査を受ける受診者に,より大きな利益がもたらされるよう,適切な診療を行うことが求められています。肺癌CT健診学会でも、健診でCTを撮像する際には、必要最低限の低電圧で撮像するよう勧告しています。マンモグラフィ健診においても同様です。

 FDG PETやFDG PET/CTに限らず、放射線を利用する検査に共通して言えることですが、妊娠女性では、胎児や出生直後の新生児の放射性感受性は高く、奇形の発生や出生後の小児白血病などの発がんの確率は高くなると言われています。また放射線の影響は胎児の週齢によって異なりますが、10mSv以下の胎児被曝でこれらの影響が発生することはないとされています。しかし、妊娠期間中は一度に2mSv (ミリシーベルト)以上の被曝はさけるべきです。特に、妊娠して8-15週までが放射線の感受性が高い時期は注意を払うべきです。したがって妊娠中・妊娠の可能性がある方は検査を避けるべきと考えて下さい。

 ちなみに、私たちは、年間平均で2.4 mSVの自然放射線被曝を受けています。宇宙線、自然界や食物中にある放射線同位元素によるものです。ブラジルのガラパリ地方という所では、モザナイトという鉱石からの放射線による被曝も加わり、年間平均約10mSvの自然放射線被曝があります。この地域のWHOと各国の調査が行われており、この地域住民の乳幼児死亡率、出産児の性比、生殖能力(妊性)、染色体異常、先天性異常などについて放射線の影響は認められなかったとされています。

 日常診療でやむを得ず放射線を利用した検査をしたとしても、堕胎をする必要はありません。放射線被曝の胎児に起きる影響としては、流産、奇形、発育障害が知られていますが、胎児被曝と奇形発症との関連性はICRP Pub.84に明記されていて、100〜200mSvの放射線被曝以下では有意な増加は無いとされています。

 FDG PET単独検査の被曝線量は、F-18 FDGの投与量にもよりますが、約2.2〜4 mSvです。PET/CT検査ではCT撮像も加わりますので、約2〜12 mSv 分が加わり、合計約4.2〜16 mSvほどになりますが、放射線障害が起きることはありません。なお、検査後の授乳は、検査当日のうちは、母乳に少量ですがF-18 FDGが含まれているので、直接授乳はさけ、母乳は検査前に搾乳しておいたものを与えるのが良いです。翌日からは通常通りにされて下さい。
Q2.2 mSv程度の被曝をするようですが、CTと併用されるともっと被曝量が多くなりますね。安全性は問題ないのでしょうか。

A 前の質問の中でもお答えしましたが、FDG 前の質問の中でもお答えしましたが、FDG PET単独検査の被曝線量は、F-18 FDGの投与量にもよりますが、約2.2〜4 mSvで、胃のバリウム透視検査とほぼ同等です。PET/CT合体装置による検査では、CT撮像も行ないますので、2〜12 mSv分加わり、合計約4.2〜16 mSvほどになりますが、放射線障害が起こる線量ではなく問題はありません。

 放射線を使用する診療行為では、受診者の利益と不利益を考慮し、必要性があれば検査を行なうが、可及的に必要最低限の被曝線量で済むように努めることが重要です。現在、3人に1人は「がん」で死亡する状況にあります。放射線被曝のリスクを避けるために、放射線を利用した検査を含む検診を受けないでおいた場合、「がん」に罹っていることを知らずに過ごし、克服する機会を逃すリスクは大きいのではと考えます。

 なお、CT検査をする場合は、FDG PET/CT検査でのCT撮像も含め、心臓ペースメーカーの機種によっては、胸部CT 撮像が禁止されているものがあり注意が必要です。胸部CT撮影をして良いかどうか、あらかじめ医療機関にご相談ください。
QPETはがん以外にも、心臓病では、狭心症や心筋梗塞の際、治る可能性のある心筋を診断できるもっとも良い方法のひとつがPET診断法だそうですね。

A FDG PETは、虚血に陥った部分の心筋が、どの程度機能を温存(バイアビリティ)しているかどうかをみるのに適した検査とされており、手術やステント挿入により冠動脈の狭窄を広げることで、回復し得る心筋かどうかを判断するのに役立ちます。虚血に陥った心筋でも、バイアビリティが保たれていればFDGが取り込まれますが、完全に壊死に陥った(梗塞)心筋ではFDGが取り込まれなくなります。バイアビリティが保たれている心筋は、冠動脈の狭窄を広げることで、機能を回復するチャンスが高いです。

 心筋のPET検査としては、FDG PET以外にも、心筋の血流状態を見るため、陽電子を出すアンモニアを使用した PET検査もありますが、現在、保健適応はありません。
Qまた、PET検査では、ブドウ糖や酸素の代謝をみることによって、脳の局所の機能がわかるそうですね。脳梗塞などのほかアルツハイマーなどの検査にも使われるのでしょうか。

A 脳はブドウ糖を使って神経活動をしているので、FDG が強く集まります。アルツハイマー病の初期は、記憶・認知機能などの障害によって診断されますが、FDG PET検査では、CT、MRIなどで局所的な脳萎縮が認められる前でも、特徴のある代謝異常が認められます。また、酸素の消費や血流も低下するので、O-15というガスやO-15水を用いたPET検査でも異常が鋭敏に検出されます。PET を用いればアルツハイマー病の早期診断ができ、早期治療に結びつくと期待されていますが、現在、保健適応は得られていません。ただし、アルツハイマー病の診断は、PET検査やMRI検査単独ではなく、神経学的な検査も合わせて総合的に行なうことが重要です。なお、アルツハイマー病では脳にアミロイドという物質が蓄積し、発症前から蓄積します。最近では、アミロイドに結合する放射性薬剤を用いて、PETで脳のアミロイド蓄積を画像化する方法も開発されています。まだ保健適応はありませんが、近い将来には活用されるようになるでしょう。
Qということは3大死亡原因のすべての疾患の検査などに役立つすごい装置ということになりますね。

A FDG PETやFDG PET/CT検査は、必要に応じ他画像検査との併用が必要ですが、3大死亡原因のすべての疾患に有用な検査法と言えます。他の画像検査では得難い代謝・機能情報が得られ、いずれの疾患の診断にも役立ちます。前述したように、将来は、個々の悪性腫瘍や、臓器、病変に対して「より特異的な核種」が使用されてきて、ますます重要な検査法になるはずです。
Qところで標識とするフッ素18の半減期が極めて短いので、フッ素18を作るためのサイクロトロンを併設しなければなりませんが、これはいわば原子炉ですね。大都市に原子炉がゾロゾロあるというのもすごい話ですね。

A サイクロトロンは電気的に苛電粒子を加速させて標的物質に当てて陽電子を放出する核種を産生する装置です。フッ素-18(F-18)はそのうちの1つであり、半減期(放射能が半分になるまでの時間)は110分ほどです。FDG PET検査施設に、この核種を生産するサイクロトロンを備えている所もありますが、最近では、サイクロトロンを有したセンター施設でF-18 FDG を作り、PET装置やPET/CT合体装置のある各病院や診療所にデリバリーすることも行われています。サイクロトロンは電源のon, offで制御でき、原子炉とは異なりはるかに制御し易いものです。皆様には、この点は御承知おきください。検査の種類によっては、F-18よりもかなり半減期の短い核種が必要となる場合がありますが、この面でもサイクロトロンは有用です。
Q政治経済の世界でも、単一の政策で対応できることはないといえましょう。そこで例えば金融政策と財政政策を同時に行ういわゆるpolicy mix というような手法が取られます。PETも非常に得意とする性能と、生理的にブドウ糖の集まりやすい臓器等の原発巣の診断には向かなかったり、空間分解能が悪い点をCTやMRIといった、空間分解能のよい画像と対比させて診断するなどの方法と組み合わせることによって飛躍的な成果が得られる事になるわけですね。

A 前述しましたが、FDGや他の核種を用いた PETやPET/CT検査も他の各種画像検査と同様に、強い部分と弱い部分も持ち合わせておりパーフェクトではありません。必要に応じて弱点を補う他画像検査や内視鏡検査、尿検査、細胞・組織検査などを合わせて行ない、検出能力の向上を図ることが重要です。PET装置や使用するソフトウエア自体も進化しており、上述したPET装置の弱点となる小さい病変の部分体積効果によるFDG集積低下を補正するソフトウエアや、呼吸による動きによる画像劣化を改善するための呼吸同期や息止め撮像法などが工夫されています。また、従来の画像データ収集法と異なる画期的なtime-of-flight方式により、小さい病変を鮮明に検出する装置も開発され市販されています。PET/CT合体装置では、同時に撮像されるCTによる形態や位置情報とPETが提供する代謝・機能情報の対比が行なえ、PET単独検査の持つ弱点を補うことが出来ます。最近では、PET/CT検査時に、これまでは別に検査されていた造影剤を使用したCTを撮像して、受診者の負担を少なくすると伴に、CT検査の形態情報を最大限に生かして診断する方法も普及しつつあります。また、PET/MR合体装置も開発されており、PETとMRIの両者の利点を最大限に生かして診断する方法も、近い将来には普及していくと考えます。
 
 一方、進化する装置になればなるほど高額になり、所有する施設の経済的負担が大きくなるのも現実です。地域医療の中で、医療機関が連携をとって共同医療資源として活用し支えて行くと言う考え方が、医療の質を担保し高めて行く上で重要と考えます。皆様には、この点もご理解いただければ幸いです。


略歴
セントヒル病院 セムイPET診断・放射線治療サイト
放射線室長 菅 一能 (すが かずよし) 

昭和54年山口大学医学部卒業、山口大学医学放射線科に入局、下関市立病院、厚生連長門総合病院放射線科勤務を経て、平成8年から山口大学医学部附属病院放射線部 助教授。この間、平成7年にアメリカ合衆国コロンビア大学プレスビテリアン医学センターに文部省在外研究員として留学。平成18年から、医療法人聖比留会セントヒル病院セントヒル病院セムイPET診断・放射線治療サイト 放射線室長として現在に至る。日本医学放射線学会専門医認定医、日本核医学会認定医、PET核医学認定医、マンモグラフィ乳癌検診認定医。連絡先:〒755-0155 山口県宇部市今村北三丁目7−18(電話0836-51-5111)E-mail:sugar@sthill-hp.or.jp


Copyright (C) Citizen Oriented Medicine. All rights reserved.