市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
碩学が語る、がんをどう考えるか
『私ががん予防にこだわるのは』
公益財団法人札幌がんセミナー
北海道大学名誉教授
小林 博
 私は長年、大学でがん研究に没頭し、ひとときは「がん細胞の異物化」という現象の発見で、「がん免疫」はこれで解決したと驚喜したことがあった(1969年以降〜)。学術論文も随分たくさん書いた。

 しかし「がん」は「がん」で、その真の解決は難しく、先がなかなか見えてこない状況は当時も今も変わらない。世界各国の研究者が競い合うなか、最近の進歩した遺伝子レベルの研究をもってしても、がんの本体解明は未だである。しかも進行した手遅れのがんの治療は、残念ながら不可能といわざるを得ない。

 私は次第に次のように考えるようになった。「人間はいずれ死ぬ。がんがあってもなくても必ず死ぬ。早いか遅いかの違いだけである。とすればがんになっても余りむきになったり絶望したりせずに、がんと上手に付き合っていくのもいいのではないか」と。  もし、現実的ながん解決への道が残るとすれば、それは要は出来るだけがんにならないようにすること、つまり予防が一番ではないか。昔から言われてきた「予防に優る治療はない」の格言を重く受けとめたのである。

 もしがんになってしまったときはどうするか。このときはがんをいかに早く見つけて治すか、に努力を集中する。最先端の治療をしてでも何とか治す。これは当たり前のことである。

 ただ、仮にダメとわかったときはどうするか。このとき私は単に延命のための治療は避け、むしろ潔く諦めるぐらいの気持ちの切り換えが必要でないか。肝心なのはがんになってからの延命を考えるのでなく、むしろがんになるまでの年月の延長を考えるほうがよいのではないかということである。

 このような思考を経て私は「がん予防」こそががんの解決のために、これから取り組むべき実学上のもっとも重要なテーマと考えるようになったのである。
略歴
小林 博(こばやし ひろし)

 1927年(昭和2年)5月札幌生まれ。1952年に北大医学部を卒業。北大医学部病理学教室で病理学の研鑽に励み、のちに米国国立癌研究所に留学。帰国後に新設の北大医学部癌研究施設病理部門の助教授、次いで1965年教授となり、北大癌研(6部門=その後、遺伝子病制御研究所に発展、改称)の創設と発展に関わった。
 がん研究一筋に歩み、1983年財団法人札幌がんセミナー(現在、内閣府所管の公益財団法人)を設立。1990年には日本癌学会会長。1991年に北大定年とともに北大名誉教授、(財)札幌がんセミナー理事長として現在に至る。その間に北海道医療大学教授、北海道医師会道民健康教育センター長、放送大学学園客員教授などを併任。
 著書は専門の学術論文や単行本(英和文)のほか、「がんとの対話」(春秋社)、「楡との対話」、「大学とがんと私」(ともに北大図書刊行会)、「がんの治療」、「がんの予防・新版」(ともに岩波新書)、「がんに挑む がんに学ぶ」(岩波書店)、「世界が研究室だった」(自費出版)、「いまアジア―とくに感染症とがん」(近刊)など。
 受賞は日本医師会医学賞(1986年)、紫綬褒章(1990年)、日本癌学会吉田富三賞(2000年)、第一生命保健文化賞(2008年)など。趣味は(というより健康にいいと思って)十数年前から始めた週1回ペースのテニス。


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