市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
  最適ながん治療を考えようという団体です。セカンドオピニオンを受け付けております。
   放射線治療などの切らずに治すがん治療の情報も含め、
  個人にとって最適ながん治療を考えようという気持ちの現れです。
市民のためのがん治療の会
患者が患者の情報を管理する
『どこでもマイカルテについて』

NPO法人 医療福祉ネットワーク千葉理事長 竜 崇正
(前千葉県がんセンター長)
 患者が診療所や病院(診療所等)で受けた医療に関する情報は、法的に5年間の保存義務があり診療所等で保存される。それらの診療情報は、患者が受診した診療所、一般病院、専門病院、介護施設などでそれぞれに保存されているため、継続した情報が患者自身にも手術などの治療を行う病院でもわからないのが実情である。このため、同じ検査が何回も行われるなどの重複診療を行なわざるを得ないのが現状である。本来、患者情報は患者自身のものであり、患者に代わって診療所等がお預かりしているに過ぎない。診療所等では、患者が他院を受信する際には診療情報提供書を渡すが、それは患者用ではなく他院受診用であり、患者がそれを見ることはできにくい。患者の治療方針決定の際には、患者は自分の画像や検査結果などを示され、納得して治療を受ける建前になっているが、限られた時間の診察室内で、説明の全てを理解するのは難しい。納得して治療を承諾したはずなのに、診察室を出て自宅に帰った後に、果たしてこの選択は正しいのか思い悩む患者家族も少なくない。勇気のある患者は、自分の検査データーをCDなどに焼いてもらい、セカンドオピニオンを受けに他院を受診することになるが、この時にITに強い患者は自分のコンピューターで自分の画像をじっくり見ることは可能である。患者は自分の受けた治療の結果が良い場合は納得したことになるが、結果が思わしくない場合は、これは医療ミスではないかと、疑心暗鬼になり、医療訴訟が増加し、委縮医療になる傾向にある。

 日本の医療レベルは世界一であり、他国では及びもつかない高度かつ先進的医療が、ほぼ等しく国民に提供されているが、日本国民はそれを十分理解していない。「医療費亡国論」の基本政策のもと、日本は低医療費政策が継続されているが、国民の期待は大きくなるばかりの中、医療者の負担は過度に増加し、米国の1/16の少ない人数で多くの患者を診て夜も寝ない生活を送っているのである。

 これらの状況を打開するには、患者にとって必要な情報は患者が持つか、いつでも見ることのできる体制の確立が急務であると考える。十分な情報開示の下、それが患者にとって嬉しくない情報であろうとも、患者が自分の病状を正しく理解し、それをサポートする医療体制が確立できれば、患者の医療不信も軽減するであろうし、委縮医療も無くなるに違いないと考える。

 患者が自分の医療情報を何時でも見られる体制確立の目的で、2010年7月29日に「どこでもマイカルテ研究会」がスタートした。基本方針は以下の2点である。患者にとって必要な情報を患者の携帯電話の中に取り込み、どこの診療所などでも利用できるようにすること。もう一つは、患者の全情報を患者の了解の下にクラウドに挙げて、診療所等の枠を超えて1患者の医療情報として統一する、そしてその医療情報を患者が了解した第三者が閲覧できるようにすることである。これにより同じ検査が繰り返し行われる重複診療が避けられ、複数の医療機関から診療内容をチェック出来ることになり、過剰診療の防止が期待される。現在、重複診療と過剰診療が2-3割あるとすると、35兆の医療費から10兆円が浮くことになる。これらで低医療費政策を改め、病院での正規雇用労働者を増員し、クラウド化IT化を推進して病病、病診連携を強化すれば、さらに安全で質の高い医療を国民が受けられるようになり、さらには雇用創出と産業振興にもつながると考えての研究会立ち上げである。

 一方国でも2010年5月に新たな国民主権の社会を確立するため「国民本位の電子行政の実現」,「地域の絆の再生」,「新市場の創出と国際展開」の3本の柱を掲げ、内閣官房IT推進室を中心に各省庁と連益して推進する体制ができた。その中で「地域の絆の再生」の医療分野の施策として「どこでもマイ病院構想」が示され、3本柱として患者の健康を護るためシームレスな地域連携医療の実現,レセプト情報などの活用による医療の効率化などを、目的とするものである。「どこでもマイカルテ研究会」で内閣官房IT担当室野口参事官から、「どこでもマイ病院構想」について報告があり、私達が目指す「患者情報は患者のもの」と同じで方向性であることが示された。

 2011年11月までの4回の研究会が開催され、各現場からは、分断された患者医療情報を扱う問題点が病院、介護施設、患者の立場から報告された。また、モバイルを用いた医療情報の有効利用について、モバイルへのQR変換コードでの取り込みや、赤外線通信を用いた取り込みなどが報告された。QRコードで読み取る場合は1800文字程度なので、その中で必要十分な情報は何かが議論された。最新の検査データー、投薬データー、JPEGにしたキー画像、要領よく書かれたサマリーがあれば良いとの結論であった。また各電子カルテベンダーの情報共有により、電子カルテが相互利用できるような仕組みの必要性も述べられた。また、第3回、4回研究会では東日本大震災による沿岸地域の医療施設の壊滅的被害の状況、津波により医療情報のすべてを失ったことから、病院に情報を置かないでクラウド化する必要性、事業体を越えた医療施設の連携と情報共有の体制が必要との認識が示された。クラウドに挙げられた患者情報を連結して一人の患者情報とするには、他先進国で導入されている「国民総背番号」が必須であり、昨年11月21日の第4回研究会では現在議論されている税と社会保障の一体改革の基本をなす、社会保障番号制度(マイナンバー)の現状と医療情報ネットワークとの連携について浅岡内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐から説明があった。

 「どこでもマイカルテ」の取り組みは第1回は50人程度の参加であったが、4回は200人を超える参加があり、医療機関、患者、関連企業の関心の高さが伺われた。国の薦める方向と我々の考える方向が一致しているので、現場の意向を研究会で十分詰めて、国の政策に反映させ、産業振興に寄与したいと考えている。皆さんの協力、ご意見を頂き、今こそ共に国の政策決定に関与しようではありませんか。


そこが聞きたい
Q確かに医療施設にある患者のデータなどは、患者のものですが、ほとんど重要なものだとも思っていない。考えてみると、土地家屋の所有権などを明らかにするために、法務局に登記をしますが、なんだか登記に似ているような気がします。よく「命の次に大事なお金」とかいって、日本は今はだいぶ下がってますが、不動産に執着して、登記簿の謄本などを後生大事に保管してますね。命はもっと大事なはずですが、意外に皆さん大事にしないのには驚くばかりです。10年近く患者会活動をしてますが、土地を買うときなどはさんざん詳しく調査するくせに、命のかかっている治療方針の決定なども、ファーストオピニオンで提示された治療方針を「ハイ、ハイ」といってすんなりその通りにしてしまう。

A そうですね。患者さん自身も自分の医療データーを大事にする考えが常識として広まるようになればと思います。

Q自分の大事なデータですから、本来は国の法務局のような人の医療情報を預かるところがあってしかるべきかもしれませんね。戸籍とか、税務資料とか、不動産、企業などのデータは国がしっかり保管していますが、それは国民を管理したり、徴税などの目的でやっているのでしょうが、こういうところにも命は二の次という考え方が出ているように見えますが

A 個人情報保護条例の壁が厚いので、お役所任せではだめでしょう。ただ税と社会保障の一体改革の中で、「マイナンバー」が閣議決定されましたので、先進諸外国のように国民に番号が付けば、連続した医療情報を患者自身が把握し、参照することが容易になると思います。

Qわたしも実は舌がんの小線源治療のあとで近所の病院で経過観察していただいていたのですが、ある時再発した、といわれ、仰天しました。で、別の病院で病理検査のデータを見てもらうので、プレパラートを貸してくれといったら、そんなことをしたことはない。それこそ前例がないからの一点張りで苦労しました。結局私もその時はすでに患者会を始めていたこともあってある程度頑張る下地もできていましたので、それなら事務長に交渉するなどと言ったりして、ようやく借りることができました。結果的にがんの専門病院での同じ標本の見方ですが、再発ではないということになりました。再発でしたら、今ここにいないでしょう。プレパラートだってわたしが費用を払って作っていただいた私のものですよね。

A そうですね。病理診断のレベルは施設によって差がありますので、プレパラートを借用する事は重要です。

Q「萎縮医療」について少しご説明いただけませんか。

A 現在医療行為で患者に不具合があった場合は、刑事責任を問われます。そうしますと、死中に活を求める、医療がやりにくい状況にあります。結果が悪いことが想定されたら、必要な治療を行うのを躊躇する傾向があります。これが委縮医療です。医師も看護師も医療従事者のほぼすべてが、損害賠償に備えて保険に入っています。情報がすべて公開され、治療で死んだとしてもやむを得ないということが明らかになり、刑事罰に問われることは少なくなると思うのですが。また、患者さんに不利益があったら保障するが医師の刑事責任は問わない「無過失賠償」のシステム構築が必須だと思います。

Qわたしなども5か所ぐらいの病院で定期検査を受けていますが、一定の期間ごとにそれぞれの医療施設でCTスキャンや核医学検査などを受けます。胸のレントゲン写真だって大した被ばくではないとはいえ、できるだけ少ない方が良いに決まってます。心臓の先生は心臓の肥大などを読影されるのでしょうが、同じ写真でも別の先生は肺がんのチェックに使われます。両方で撮る必要はないですよね、被ばくと費用の両方の減少に役立ちます。。

A そうですね。しかも安いよく映らないCTやMRIで撮っても点数は同じなので、民間病院では普及型の診断装置を使う場合が多いですし、造影剤の副作用を恐れて必要な造影剤を使わない検査が行われています。これらの画像診断がクラウドにあがって他施設の医師が見るようになれば、レベルの低い診断をしている医療施設は淘汰されていくと思います。

Qこうしたダブりを防げば、ずいぶん費用の節約になりますね。

A そうですね一般的には2割が重複診療との報告もありますので、医療費の軽減になりますね。また画像がクラウドにあがって、複数の医療機関のチェックがあれば、適応のない治療を行う過剰診療も激減するでしょう。

Qわたしも先生の「どこでもマイカルテ研究会」に2度ほど参加させていただきましたが、前回の第4回目の会合では、東京の便利なところで開催されたこともあったと思いますが、超満員で驚きました。

A やはり、「患者情報は患者のもの」だという考えが浸透しつつあること、この「どこでもマイカルテ」は新しい産業振興の起爆剤になるという期待もあると思います。

Qその時もご説明がありましたが、国民総背番号以外に個人をユニークする方法がないので、整備を進めるべきでしょうね。私の住んでいる国立市はずっと住基ネットを切断しておりましたが、今年の2月1日から接続されました。いろいろなご意見もあると思いますが、反対する人は住民票やパスポートを取るときぐらいしか役に立たないものに税金を投入するのは問題といいますが、誰もカルテの管理などに役立つ、このことは命にかかわることだというような説明はしません。総務省も患者会が反対するので、あまり医療面に使うことを言いたがらない。これは困ったことですし、不幸な状況です。何にでも光と影があるものですが、折り合いをつけることも大事ではないでしょうか。

A 国民総背番号は必須です。これがあれば、関係ない事象まで薬の副作用にされている状況を打破することができます、子供の命をまもるワクチン行政も先進国並みにすることができると思います。日本はエビデンスのない「通達」行政ですから、これを改め、きちんとしたデーターに基づいて国民の命を守る医療行政の変えていかなくてはならないと思います。このためには国民総背番号は必須です。


略歴
竜 崇正(りゅう むねまさ)

学歴及び職歴 
1968年千葉大学医学部卒業後、千葉大学第二外科入局、消化器外科学、画像診断の研究に従事。1974年国保成東病院外科医長、千葉大学医学部付属病院(第二外科)、千葉県がんセンター消化器外科主任医長、国立がんセンター東病院手術部長、千葉県立佐原病院院長を経て2005年から2009年千葉県がんセンター長。
2009年6月政策シンクタンク「医療構想千葉」設立、代表、2010年NPO法人「医療福祉ネットワーク千葉」理事長、筑波大学医学部臨床教授、千葉県がんセンター、千葉県立佐原病院非常勤職員、現職。
この間、2005年から2009年まで千葉大学医学部臨床教授。
公職等
千葉県がん対策審議会副会長、千葉県庁医師会会長、第45回日本胆道学会会長(平成21年9月)等歴任。
日本癌治療学会抗がん診療ガイドライン委員会評価委員、重粒子線ネットワーク会議評価委員

学会活動等
 International Hepato-Pancreato-Biliary Association 会員、International Gastro-Surgical Club 会員、International College of Surgeons 会員, 日本肝胆膵外科学会監事、日本胆道学会理事、日本腹部救急医学会評議員、日本臨床外科医学会評議員、日本消化器病学会地区評議員、日本肝癌研究会幹事、日本マイクロウエーブサージェリー研究会幹事、日本臨床解剖研究会幹事

専門領域
  消化器外科 特に肝胆膵外科, 肝胆膵の画像診断

著書 
 がん告知 患者の権利と医師の義務 2002年 医学書院、肝癌の治療戦略 A to Z 医学書院 2002等多数


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