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新しい注射による放射線治療
『前立腺癌骨転移に対する新規治療薬:ラジウム-223(ゾーフィゴ)』

JCHO東京新宿メディカルセンター 副院長・泌尿器科部長
赤倉 功一郎
放射線治療というと大多数の方が、健康診断の時に行う肺のX線間接撮影のように外部から放射線が照射されるイメージをもたれるだろう。だが、放射線治療には編集子が受けた、密封小線源による組織内照射(がんに放射性物質を密封したものを刺入する方法)や、注射などで放射性物質を体内に送り込む方法(放射線内用療法)などがある。
今回は最近認可されたばかりの新しい放射線内用療法で研究者も少ない中、JCHO東京新宿メディカルセンター 副院長・泌尿器科部長の赤倉功一郎先生にご寄稿いただいた。
ご多用のなかご寄稿いただきましてありがとうございました。
なお、ラジウム-223による治療については、12月末頃からhttp://www.xofigo.jp/ja/patients/about_xofigo/にて施行可施な医療機関が検索できるようになる予定です。
(會田 昭一郎)

はじめに

骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌に対する新たな治療薬として、塩化ラジウム(223Ra)(商品名:ゾーフィゴ)が2016年6月よりわが国でも発売されました。この薬剤による治療は、放射性物質を血管から注射して、病巣に集まった薬剤が放射線を発して癌を治療する、いわば「注射による放射線治療(放射線内用療法)」です。前立腺癌は骨に転移することが多い癌であり(図1)、ラジウム-223を適切に使うことで、恩恵を受ける患者さんはたくさんいらっしゃるはずです。

図1 前立腺癌の転移部位:剖検例60例の検討

ラジウム-223治療の原理

ラジウムはカルシウムと同族の金属です(図2)。ラジウムを注射すると人間の体の中ではカルシウムと同じような動きをします。すなわち、カルシウムと同様に、骨、それも盛んに代謝している部分の骨、すなわち癌の骨転移に集まります(図3)。ラジウム-223は放射性同位元素であり、放射線を放出します。つまり、注射されたラジウム-223は、癌の骨転移の病巣に集まり、そこで放射線を出すことによって、周囲にある癌細胞を治療することができるわけです(図4)。ラジウム-223の出す放射線はα線といって、非常に強力ですが、ごく近くまでしか到達しません。飛程距離は100マイクロメーター未満とされており、細胞2-10個分程度です。したがって、周りの正常細胞への影響が小さいために、副作用が少なくてすみます。ラジウム-223の治療は、4週間ごとに合計6回、つまり約半年間にわたって行われます。もちろん外来通院で治療可能です。なお、ラジウム-223は1回分684,930円と非常に高額ですが、高額療養費制度によって患者負担額を抑えることが可能です。

図2 カルシウム・ストロンチウム・ラジウム

図3 前立腺癌の骨転移

図4 ラジウム-223の作用機序

ラジウム-223の臨床効果

これまで、塩化ストロンチウム(89Sr)(商品名:メタストロン)という類似の放射性医薬品が使用されてきました(図2)。ストロンチウム-89も骨転移病巣に集まって放射線(β線)を出し、骨転移の痛みに効きます。しかし、ストロンチウム-89は痛みを軽くするのみで、生存期間の延長効果はありませんでした。これに対して、ラジウム-223は生存期間を延ばすことが証明されています(図5)。

図5 ラジウム-223の臨床効果

ラジウム-223治療における注意点

前立腺癌の患者さんがラジウム-223の治療を受けるうえで、いくつかの注意点があります。

第一に、骨転移の病巣にしか効果がないことです。ラジウム-223は代謝の活発な骨に集まって、そこで放射線を出して癌を攻撃します。しかし、肺、肝臓、リンパ節や前立腺局所にある癌には効きません。そのため、骨以外の臓器に転移のある患者さんには用いないことになっています。

第二に、去勢抵抗性の前立腺癌にしか使用できないことです。進行した前立腺癌の治療としてホルモン療法がしばしば行われます。かつてはホルモン療法の種類も限られたものでしたが、最近は新しいホルモン治療薬や抗がん剤化学療法薬などが登場しています。そこで、去勢(男性ホルモンを抑えるLHRH製剤または睾丸摘出術)という基本的なホルモン療法が効かなくなった段階を、去勢抵抗性前立腺癌と呼んでいます。ラジウム-223はこの去勢の効果がなくなった進行癌が対象となっています。まだ治療を始めていない、またはホルモン療法がよく効いている患者さんには用いません。

去勢抵抗性前立腺癌の治療薬は、ラジウム-223の他に、エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)やアビラテロン(商品名:ザイティガ)などのホルモン治療薬、ドセタキセル(商品名:タキソテール)やカバジタキセル(商品名:ジェブタナ)といった抗がん剤化学療法薬などがあります。しかし、これらの薬剤のうち、どの薬剤をどのような順番で使用するのがよいのかは、まだはっきりとはわかっていません。

ラジウム-223の副作用は比較的少ないのですが、やはり骨の中にある骨髄に悪影響がでる場合があります。具体的には、赤血球、白血球、血小板が少なくなることがあります。また、もともと重い血球減少のある患者さんには使用できません。

注射されたラジウム-223はおもに便のなかに排泄されます。ラジウム-223は放射性物質であるため、治療をうけた患者さんの血液や便の取り扱いには注意が必要です。

最後に、ラジウム-223は放射性物質であるため、医療機関においてその取り扱いや使用量は厳しく定められています。ラジウム-223治療を開始するにあたっては、担当する医療従事者が講習を受けたり、病院での放射性物質排出基準を満たしたりする必要があります。したがって、現在のところラジウム-223治療が施行可能な病院は限られています。

おわりに

骨転移のある前立腺癌患者さんにとって、このラジウム-223治療は期待の大きい新たな治療選択肢といえます。治療にあたっては、病状やタイミングを見定めることが大切ですので、主治医の先生とよく相談なさってください。ラジウム-223は、現在のところ前立腺癌の骨転移にのみ保険承認されていますが、今後、乳癌などの他の癌種にも適応拡大されるものと期待されます。

略歴
赤倉 功一郎(あかくら こういちろう)

1984年 千葉大学医学部 卒業
1984年 千葉大学医学部附属病院 泌尿器科 医員(研修医)
1985年 国立国府台病院 泌尿器科 臨床研修医
1990年 千葉大学大学院 修了(医学博士)
1990年 ブリティッシュコロンビアがんセンター (カナダ)  留学
1994年 千葉大学医学部附属病院 泌尿器科 助手、講師、助教授を経て
2002年 東京厚生年金病院 泌尿器科部長
2007年 同 院長補佐・泌尿器科部長
2014年 JCHO東京新宿メディカルセンター 院長補佐・泌尿器科部長
2015年 同 副院長・泌尿器科部長

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