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市民のためのがん治療の会
光線力学的療法ってなんだろう?
『食道癌に対する光線力学的療法(PDT)について』

山形大学医学部放射線腫瘍学講座教授 根本 建二
昨年9月11日(日)午後、東京・大手町の日経ホールで、NHKエデュケーショナルの健康フォーラム「食道がんを克服するために」〜身体にやさしい治療と生活習慣の改善〜が行われました。このフォーラムには日本放射線腫瘍学会専務理事で山形大学大学院教授の根本建二先生もパネリストとしてご出壇されました。番組をご覧になった皆さんもおられると思います。
市民のためのがん治療の会の会員から根本先生がお話しになった光線力学的療法についてご質問がありましたので、ご多用の中、根本先生にご寄稿いただきました。
(會田 昭一郎)

光線力学的療法とはPDT(Photodynamic Therapy)とも言われ、がんに集まりやすく、光に反応しやすい薬剤(光感受性物質)を注射した後、がんにレーザー光を照射することにより、がんを狙い撃ちで破壊する治療法です。この効果はレーザー光と光感受性物質との光化学反応によって生成される活性酸素が、組織を変性・壊死させるものです。PDTは、レーザー光を照射した部位だけに破壊効果を示す局所的な治療法であるため、手術に比べ身体に対するダメージが少なく機能温存が可能です。

日本では1996年よりPDTが保険診療で受けられるようになりました。現在は第二世代の光感受性物質であるレザフィリンと低出力の半導体レーザーによるPDTが行われております。この薬剤は早期肺癌、悪性脳腫瘍の他に、2015年からは再発食道癌に対して保険診療が開始されました。

放射線治療後の局所再発食道癌(がんのあった場所からの再発)に対するPDTの対象は、化学放射線療法や放射線療法を受けた後に、遺残あるいは再発した場合で、内視鏡治療(EMRやESD)や外科手術が何らかの理由によりできない患者さんのうち、がんが固有筋層(T2と呼ばれます)までの深さにとどまっている場合です。繰り返し治療ができるのが特徴ですが、がんが広がっている範囲によっては、対象とはならない場合もあります。

保険診療が承認される前に行われた臨床試験(治験)の結果によると、試験に参加した26人中23人でがんが消失しました。その結果をがんの深さ別に分けて解析すると、がんが粘膜下層(T1bと呼ばれます)までの深さにとどまっていた浅い場合では100%の患者さんでがんが消失し、もう少し深い固有筋層(T2)の深さまで入っていた場合でも57%の患者さんでがんが消失したことがわかりました。

一方で、PDTを受けた後しばらくの間は光線過敏症に留意する必要があります。具体的には、レザフィリンを注射した後2週間程度は、直射日光を避けていただき、照度500ルクス以下の環境で過ごし、さらに最初の3日間は、目への影響を考慮し、サングラスの着用が必要です。とはいえ、500ルクス以下、目安はカーテン等で直接日光が入らないようにした室内で蛍光灯を点けたぐらいの環境であれば、テレビの視聴や読書も可能です。通常2週間後には、光線過敏反応を起こす可能性の有無を調べる簡単な試験を実施し、問題なければ遮光管理を解除できますが、しばらくの間は、外出に際して帽子、手袋、長袖の衣類やサングラスにより日光を避けることになっています。治療可能な施設もまだ限られていますが、化学放射線療法や放射線療法を受けた後は定期的に内視鏡検査を受け、もし深く浸潤していない再発が見られた場合は、手術や内視鏡切除に加えPDTも治療のオプションになってきそうです。

略歴
根本 建二(ねもと けんじ)

東北大学医学部卒業後、宮城県立成人病センター放射線科、東北大学医学部大学院、東北大学医学部付属病院助手、東北大学大学院量子治療学分野講師、東北大学大学院放射線腫瘍学分野助教授を経て平成18年4月山形大学医学部放射線腫瘍学分野教授。平成19年4月から山形大学医学部がん臨床センター長、平成28年4月より山形大学医学部附属病院病院長を兼務。

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