
あまりなじみのない温熱療法。だが、高温の岩盤に横になってからだを熱するなどの民間療法などとは違い、がん細胞が高温に弱いという性質を利用した、れっきとした科学的な治療法で、放射線治療との併用などで健康保険の適用にもなっているものだ。
『温熱療法』
原三信病院
放射線科顧問 寺嶋廣美
放射線科顧問 寺嶋廣美
1.温熱療法(ハイパーサーミア)とは
温熱療法という言葉はいろいろな分野で用いられていますが、ここで言う温熱療法は、人体が局所的に耐容可能な40℃~45℃の、体温より3~8℃高い範囲の温度を用いた癌の治療法です。これをHyperthermia,ハイパーサーミアと言います。40℃から42℃と、やや低めの温度領域の治療はマイルド・ハイパーサーミアと言います。マイクロウエーブやレーザーを用いた、100℃以上の高温で行う凝固療法や蒸散療法も熱を利用した治療法ですが、ハイパーサーミアとは区別されています。一般的な代替療法に含まれる「民間療法としての温熱療法」とも明らかに異なります。以下、温熱療法とはハイパーサーミアのことをさすことにします。
2.温熱療法の生物学的根拠、40℃~45℃下での反応
培養細胞を温水で加温しますと温度と時間に比例して細胞の生存率が低下し、特に42.5℃を境にして急激に低下します(1977,Dewey, 図1)。

がん細胞も正常細胞も同じように死んでいきます。ところが組織レベルの熱に対する反応は違ってきます。正常組織では温度が上がるにつれて、血流が増加し冷却効果が働き、温度の上昇はゆるくなります。癌の組織では血管壁の筋肉層や結合組織、神経組織が未熟なため、温度調節が働かず41-42℃までは血流が増加しますが、さらに温度を高めると血流は減少し、鬱血や出血を起こし癌組織の温度は上昇します(図2)。生体内では、癌組織は温まっても周りの正常組織はあまり温まらず、両者の間で温度差が生じ、治療効果が現れてきます。

がん細胞も正常細胞も同じように死んでいきます。ところが組織レベルの熱に対する反応は違ってきます。正常組織では温度が上がるにつれて、血流が増加し冷却効果が働き、温度の上昇はゆるくなります。癌の組織では血管壁の筋肉層や結合組織、神経組織が未熟なため、温度調節が働かず41-42℃までは血流が増加しますが、さらに温度を高めると血流は減少し、鬱血や出血を起こし癌組織の温度は上昇します(図2)。生体内では、癌組織は温まっても周りの正常組織はあまり温まらず、両者の間で温度差が生じ、治療効果が現れてきます。

3.医学的根拠(エビデンス)に基いた治療法
温熱療法が医学的根拠に基いた治療であることは、1980年代から行われた、無作為臨床比較試験(CRT: 多数の同じような患者さんを二つのグループに分けて、治療法別に治癒率を比較する。)で確かめられています。
1) 頭頸部癌
欧米にて1980年代に行われたCRTでは、局所制御率は放射線治療のみでは22-86%,ハイパーサーミア併用では34-100%と有意に併用群が優れていました。わが国でもCRTが行われ、局所制御率は放射線治療のみでは85%、ハイパーサーミア併用群では100%と有意に併用群が優れていました。
2) 乳癌
ヨーロッパ、カナダで行われた5施設によるCRTでは、治療後の局所再発までの期間はハイパーサーミア併用群が優位に長く有効性が認められました。日本においてもCRTではありませんが、局所進行乳癌にて腫瘍制御率が放射線単独群では50%、温熱併用群では89%と有効性が認められています。
3)子宮頸癌
子宮頸癌は 手術と共に放射線治療がよい適応となります。放射線治療はシスプラチンとの併用が標準治療とされており、さらに温熱療法を加えたCRTが行われました。2000年に欧米で発表された論文では、局所制御率、3年生存率において有意に温熱併用群が優れており、オランダでは化学・放射線療法に温熱療法を併用することが標準治療となっています。日本においても2001年にCRTの結果が報告され、3年非再発生存率が有意に温熱併用群において優れていました。
4) 肺癌
非小細胞肺癌lll期、lV期例において、CRTではありませんが、同施設の同時期症例の比較では、3年生存率は放射線治療単独例で6,7%、温熱併用例で37,0%と併用群が優れていました。縦隔リンパ節転移例では、十分な放射線の治療が出来ない場合は、放射線治療のみでは制御は不可能ですが、温熱併用はよい適応になります。また、放射線治療後の再発例では、すでに耐容線量が照射されておりますので、少量の追加照射しか出来ません。化学療法も血流が乏しく効果が期待できません。しかし温熱療法の追加は十分に可能ですので、化学療法と温熱療法の併用は局所治療効果の増強が期待できます。欧米よりも日本で多くの症例が治療されています。産業医科大学病院で、放射線治療が温熱療法と併用で根治的に行われた1例を示します(図3)

5)食道癌
切除可能な食道癌の術前治療に放射線治療と化学療法に温熱療法の併用が行われました。臨床比較試験では切除標本にて非併用群では7.7%、併用群では26.9%に組織学的に癌細胞を認めず、術前の温熱併用は有効であることが報告されています。進行食道癌では化学療法と放射線治療の併用が推奨されていますが、さらに外部加温の併用にて治療効果、生存率の向上が期待されます。放射線治療後の再発例においても、化学療法との併用にて長期間の治療も可能で、局所制御やQOLの向上に役立つと考えられます。産業医科大学病院で、放射線治療が温熱療法と併用で根治的に行われた一例を示します(図4)。

6)直腸癌
直腸癌に対して術前の温熱・化学・放射線療法(HCR療法}が行われました。手術後の5年生存率では温熱非併用群が64.0 %に対し併用群が 91.3%, と優れていました。また、手術不能進行直腸癌や術後再発例に放射線と温熱の併用が行われ、放射線単独例では10/28(36%)、温熱併用例では19/35(54%) に腫瘍縮小が認められ、温度が42℃以上に加温された症例では10/15(67%)に効果が認められました。
7)その他
胃癌、膵臓癌、肝臓癌、軟部組織腫瘍、皮膚癌などにも放射線や化学療法との併用で有効例が報告されています。
1) 頭頸部癌
欧米にて1980年代に行われたCRTでは、局所制御率は放射線治療のみでは22-86%,ハイパーサーミア併用では34-100%と有意に併用群が優れていました。わが国でもCRTが行われ、局所制御率は放射線治療のみでは85%、ハイパーサーミア併用群では100%と有意に併用群が優れていました。
2) 乳癌
ヨーロッパ、カナダで行われた5施設によるCRTでは、治療後の局所再発までの期間はハイパーサーミア併用群が優位に長く有効性が認められました。日本においてもCRTではありませんが、局所進行乳癌にて腫瘍制御率が放射線単独群では50%、温熱併用群では89%と有効性が認められています。
3)子宮頸癌
子宮頸癌は 手術と共に放射線治療がよい適応となります。放射線治療はシスプラチンとの併用が標準治療とされており、さらに温熱療法を加えたCRTが行われました。2000年に欧米で発表された論文では、局所制御率、3年生存率において有意に温熱併用群が優れており、オランダでは化学・放射線療法に温熱療法を併用することが標準治療となっています。日本においても2001年にCRTの結果が報告され、3年非再発生存率が有意に温熱併用群において優れていました。
4) 肺癌
非小細胞肺癌lll期、lV期例において、CRTではありませんが、同施設の同時期症例の比較では、3年生存率は放射線治療単独例で6,7%、温熱併用例で37,0%と併用群が優れていました。縦隔リンパ節転移例では、十分な放射線の治療が出来ない場合は、放射線治療のみでは制御は不可能ですが、温熱併用はよい適応になります。また、放射線治療後の再発例では、すでに耐容線量が照射されておりますので、少量の追加照射しか出来ません。化学療法も血流が乏しく効果が期待できません。しかし温熱療法の追加は十分に可能ですので、化学療法と温熱療法の併用は局所治療効果の増強が期待できます。欧米よりも日本で多くの症例が治療されています。産業医科大学病院で、放射線治療が温熱療法と併用で根治的に行われた1例を示します(図3)

5)食道癌
切除可能な食道癌の術前治療に放射線治療と化学療法に温熱療法の併用が行われました。臨床比較試験では切除標本にて非併用群では7.7%、併用群では26.9%に組織学的に癌細胞を認めず、術前の温熱併用は有効であることが報告されています。進行食道癌では化学療法と放射線治療の併用が推奨されていますが、さらに外部加温の併用にて治療効果、生存率の向上が期待されます。放射線治療後の再発例においても、化学療法との併用にて長期間の治療も可能で、局所制御やQOLの向上に役立つと考えられます。産業医科大学病院で、放射線治療が温熱療法と併用で根治的に行われた一例を示します(図4)。

6)直腸癌
直腸癌に対して術前の温熱・化学・放射線療法(HCR療法}が行われました。手術後の5年生存率では温熱非併用群が64.0 %に対し併用群が 91.3%, と優れていました。また、手術不能進行直腸癌や術後再発例に放射線と温熱の併用が行われ、放射線単独例では10/28(36%)、温熱併用例では19/35(54%) に腫瘍縮小が認められ、温度が42℃以上に加温された症例では10/15(67%)に効果が認められました。
7)その他
胃癌、膵臓癌、肝臓癌、軟部組織腫瘍、皮膚癌などにも放射線や化学療法との併用で有効例が報告されています。
4.温熱療法の現在の問題点
1)加温機器と加温方法
温度は生体内では低いほうへ拡がり、血流によって冷却されます。放射線は病巣にピンポイントの線量集中が可能ですが、加温では病巣部に集中した加温が難しく、領域加温にならざるをません。また、局所をもっと効率よく加温する機器の開発が待たれています。
2)測温技術
温度センサーを組織内に刺入して測温します。したがって腫瘍内の数点の温度の把握しか出来ません。立体的な非侵襲的測温技術の開発が待たれています。
3)人的、経済的な問題
1人の患者さんの治療に60分ほど要しますので、RF加温装置1台に付き1日に7-8人しか治療できません。医師か医師の監督の下で看護師または技師が付き添った治療ですので、人手が不足し一般病院では対応が困難です。1990年に保険診療として認可されましたが、保健点数が低く設定されていますので、経営上の問題で温熱療法を導入したくても出来ない施設が多いことです。
温度は生体内では低いほうへ拡がり、血流によって冷却されます。放射線は病巣にピンポイントの線量集中が可能ですが、加温では病巣部に集中した加温が難しく、領域加温にならざるをません。また、局所をもっと効率よく加温する機器の開発が待たれています。
2)測温技術
温度センサーを組織内に刺入して測温します。したがって腫瘍内の数点の温度の把握しか出来ません。立体的な非侵襲的測温技術の開発が待たれています。
3)人的、経済的な問題
1人の患者さんの治療に60分ほど要しますので、RF加温装置1台に付き1日に7-8人しか治療できません。医師か医師の監督の下で看護師または技師が付き添った治療ですので、人手が不足し一般病院では対応が困難です。1990年に保険診療として認可されましたが、保健点数が低く設定されていますので、経営上の問題で温熱療法を導入したくても出来ない施設が多いことです。
5.まとめ
温熱療法は確かな医学的根拠に基づいた治療です。代替療法や緩和療法とも異なります。通常は温熱単独では用いず、放射線や抗がん剤との併用で行います。治療が困難な癌や放射線感受性の低い癌であっても、温熱療法の併用で抗腫瘍効果を増強させ、進行を止めたり制御することも可能です。臨床応用が始まって30年経過しましたが、まだ十分普及するに至りません。根治的な癌治療に組み入れられたらもっと効果が確認されると期待されます。最近は、大病院や癌センターなどで「もう治療方法がない。」と言われた、いわゆる“がん難民“と呼ばれる人々も多く、そのような患者さんたちにも、ハイパーサーミアは可能な場合が多くあります。広くハイパーサーミアを知っていただき、今後さらに普及することを願っております。
6.日本ハイパーサーミア学会について
1970年代半ばから電磁波、超音波などを用いた装置による臨床応用が始まりました。日本においても、1975年から「がん特別研究班」で研究が開始され、1978年には「ハイパーサーミア研究会」が発足し、1984年には「日本ハイパーサーミア学会」が設立されました。学会にてまとめられたデ-タを基に、1990年には保険診療として認められました。毎年、学術大会が行われ、多くの研究者が集まって研究発表がされ、市民公開講座も開かれています。2009年9月には千葉市で第26回大会が行われました。学術論文は学会誌、国際学会誌にも掲載されています。学会でまとめられたガイドブックも作られています。
日本ハイパーサーミア学会 (JSTM)ホームページ:http://www.jsho.jp/
ホームページには、温熱療法に関する解説、Q&A, 認定医、認定施設なども掲載されています。
日本ハイパーサーミア学会 (JSTM)ホームページ:http://www.jsho.jp/
ホームページには、温熱療法に関する解説、Q&A, 認定医、認定施設なども掲載されています。


譬えが良くないですが、ゴキブリはものすごい繁殖力ですね。ですからあの繁殖力で増えて行ったらたちまち世の中ゴキブリに占領されますが、そこがうまくできていて、彼らは生息できる温度帯が非常にせまいので今のところ日本などでは増え続けるということはない。
がんも非常に繁殖力は旺盛だが、温度と放射線には弱い。
世の中は必ず何か天敵のようなものがあって歯止めになっている。がんにもきっとそういうものがあると思っているんです、その一つが温熱。











もう一つは、人手がかかる割には診療報酬が低いことです。一人60分間、一日に7-8人、それを週に1-2回で、10-20回行って効果が出ます。経営上からも実施が出来ない事情もありますが、それでも行っておられる病院が全国各地にあります。












日本ハイパーサーミア学会 (JSTM)ホームページ:http://www.jsho.jp/
そのなかで、他にも保険診療で温熱療法を行っている施設の一部は「百万遍ネット」で紹介されています。(http://www.taishitsu.or.jp/hyperthermia/hyp5.html)。
略歴
寺嶋 廣美(てらしま ひろみ)
昭和45年山口大学医学部卒業後、九州大学医学部附属病院放射線科助手、国立病院九州がんセンター放射線科、産業医科大学放射線科助教授等を経て、平成11年九州大学医療技術短期大学部診療放射線技術学科教授。平成14年九州大学医学部保健学科放射線技術科学教授、平成19年九州大学大学院医学研究院保健学部門医用量子線科学分野教授。平成20年原三信病院放射線科(顧問)、現職。
日本放射線専門医、日本ハイパーサーミア学会認定医・指導医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医。
日本ハイパーサーミア学会理事、日本放射線腫瘍学会評議員
医学博士、九州大学名誉教授
昭和45年山口大学医学部卒業後、九州大学医学部附属病院放射線科助手、国立病院九州がんセンター放射線科、産業医科大学放射線科助教授等を経て、平成11年九州大学医療技術短期大学部診療放射線技術学科教授。平成14年九州大学医学部保健学科放射線技術科学教授、平成19年九州大学大学院医学研究院保健学部門医用量子線科学分野教授。平成20年原三信病院放射線科(顧問)、現職。
日本放射線専門医、日本ハイパーサーミア学会認定医・指導医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医。
日本ハイパーサーミア学会理事、日本放射線腫瘍学会評議員
医学博士、九州大学名誉教授