
改めて医療情報について考える
『医療情報は誰のものか』
立命館大学先端総合学術研究科特別招聘准教授
西田 亮介
西田 亮介
医療に関連する情報はいったいだれのものだろうか?
医者の診断を受けたり、高度な医療をうけると、派生して必ず情報が生じる。診断情報、進行の度合い、治療履歴など多岐にわたる。近年では電子カルテといったかたちで電子化され、共有されていることも多い。これらの情報はきわめて有意義なもので、皆が欲しがっている。医師、医学者、疫学者は言うに及ばず関連諸分野の研究者にとっては入手困難であるがゆえに、医療関係のビッグデータは垂涎の的だ。他の研究者を出し抜く、あるいは常識を覆す斬新な研究結果は大量データの解析から生まれることが多い。そして研究者はそうした結果を自身の手で発見することを心の底から欲している。
医者の診断を受けたり、高度な医療をうけると、派生して必ず情報が生じる。診断情報、進行の度合い、治療履歴など多岐にわたる。近年では電子カルテといったかたちで電子化され、共有されていることも多い。これらの情報はきわめて有意義なもので、皆が欲しがっている。医師、医学者、疫学者は言うに及ばず関連諸分野の研究者にとっては入手困難であるがゆえに、医療関係のビッグデータは垂涎の的だ。他の研究者を出し抜く、あるいは常識を覆す斬新な研究結果は大量データの解析から生まれることが多い。そして研究者はそうした結果を自身の手で発見することを心の底から欲している。
研究者のみならず企業も同様である。
臨床とQOLの改善はほぼ無限のビジネスチャンスを秘めている。製薬メーカー、関連用具のメーカー、周辺サービス事業者にとっては、潜在的な需要者の欲求を反映したデータでもある。こうした情報を入手できれば、同業他社を出し抜く事業を構築できるかもしれないというわけだ。
それではこうした「情報」はいったい誰のものだろうか。
個人情報保護法の観点では、情報を取り扱う事業者は利用者の同意なき再利用が禁止されている。したがってこれらの情報は、個別の病院のなかで極めて厳重に管理されている。セカンド・オピニオンの可能性は権利として認められつつあるが、その利用の可否は現状担当医との関係性のなかで決まってくる。権利として認められたとしても、それが実態として機能するためには時間がかかりそうだ。
世界に目を向けると情報検索最大手のGoogleは、米国で個人の医療情報とその履歴を集約することで、疾病やアレルギーの可能性、分割されがちな医療情報を一元管理するプラットフォームGoogle Healthというサービスを提供した。
これまで複数の医療機関個人の医療情報を蓄積し、結合することは困難であったから、長期にわたってこうした情報を、大量に蓄積していくことができれば医学の発展と個人の享受可能な便益を向上する可能性も否めない。
これまで見落とされていた発病のパターンや、早期発見の可能性が拓かれうる。
他方、一営利企業が提供するサービスに個人のセンシティブな情報を、しかも長期間にわたり提供することには当然不安も残る。情報漏洩や不正アクセスの話は情報関連企業にはつきものでもある。実際、米国においてさえ、法的に適正に認可された状態にはない。したがって極めてグレーな状態にあるのが現状だ。
個人情報についてより敏感な日本ではより厳格に利用されている。これまで電子化が難しいと思われていた多様な情報が収集、蓄積可能になっていくなかで、どのように個人情報の保護と、医学の進歩と個人の便益拡大に折り合いを付けていくのか。必ずしも他国のモデルが日本に適用できるというわけでもない。
まずは議論の大前提として世論を喚起していくことが必要だが、殊、日本社会においては医療をめぐる諸々の問題のなかで、医療と情報をめぐる問題が主要な問いとなるにはさらなる時間を必要としそうである。
臨床とQOLの改善はほぼ無限のビジネスチャンスを秘めている。製薬メーカー、関連用具のメーカー、周辺サービス事業者にとっては、潜在的な需要者の欲求を反映したデータでもある。こうした情報を入手できれば、同業他社を出し抜く事業を構築できるかもしれないというわけだ。
それではこうした「情報」はいったい誰のものだろうか。
個人情報保護法の観点では、情報を取り扱う事業者は利用者の同意なき再利用が禁止されている。したがってこれらの情報は、個別の病院のなかで極めて厳重に管理されている。セカンド・オピニオンの可能性は権利として認められつつあるが、その利用の可否は現状担当医との関係性のなかで決まってくる。権利として認められたとしても、それが実態として機能するためには時間がかかりそうだ。
世界に目を向けると情報検索最大手のGoogleは、米国で個人の医療情報とその履歴を集約することで、疾病やアレルギーの可能性、分割されがちな医療情報を一元管理するプラットフォームGoogle Healthというサービスを提供した。
これまで複数の医療機関個人の医療情報を蓄積し、結合することは困難であったから、長期にわたってこうした情報を、大量に蓄積していくことができれば医学の発展と個人の享受可能な便益を向上する可能性も否めない。
これまで見落とされていた発病のパターンや、早期発見の可能性が拓かれうる。
他方、一営利企業が提供するサービスに個人のセンシティブな情報を、しかも長期間にわたり提供することには当然不安も残る。情報漏洩や不正アクセスの話は情報関連企業にはつきものでもある。実際、米国においてさえ、法的に適正に認可された状態にはない。したがって極めてグレーな状態にあるのが現状だ。
個人情報についてより敏感な日本ではより厳格に利用されている。これまで電子化が難しいと思われていた多様な情報が収集、蓄積可能になっていくなかで、どのように個人情報の保護と、医学の進歩と個人の便益拡大に折り合いを付けていくのか。必ずしも他国のモデルが日本に適用できるというわけでもない。
まずは議論の大前提として世論を喚起していくことが必要だが、殊、日本社会においては医療をめぐる諸々の問題のなかで、医療と情報をめぐる問題が主要な問いとなるにはさらなる時間を必要としそうである。











略歴
西田 亮介(にしだ りょうすけ)
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、同大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同後期博士課程単位取得退学。
独立行政法人中小企業基盤整備機構リサーチャー、デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師等を兼務。東洋大学非常勤講師。
専門は情報社会論と公共政策。社会起業家、新しい公共、情報化と政治等を研究。
共編著に『「統治」を創造する』。共著に『大震災後の社会学』『グローバリゼーションと都市変容』など。 2012年4月より立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授。
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、同大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同後期博士課程単位取得退学。
独立行政法人中小企業基盤整備機構リサーチャー、デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師等を兼務。東洋大学非常勤講師。
専門は情報社会論と公共政策。社会起業家、新しい公共、情報化と政治等を研究。
共編著に『「統治」を創造する』。共著に『大震災後の社会学』『グローバリゼーションと都市変容』など。 2012年4月より立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授。