
『がん患者さんのインフルエンザワクチン接種アンケート調査結果のご報告』
小坂真琴(医学生)・谷本哲也(内科医)
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20200818_kami
そのような折に当会の「がん医療の今」に再々にわたり有益なご寄稿をいただいているNPO法人医療ガバナンス研究所の谷本哲也先生から、 がん患者のインフルエンザワクチン接種についての意識調査をしたいので「市民のためのがん治療の会」の会員に協力してもらえないかとのご要請があり、ご協力させていただいた。 この度その調査結果がまとまり本調査を担当されたNPO法人医療ガバナンス研究所の小坂真琴さんとご指導に当たられた谷本哲也より、ご寄稿いただきましたので、ここにご報告いたします。 調査にご協力いただきました当会会員の皆様には改めまして御礼申し上げます。
【結果の概要】
・今シーズン(2020/2021の冬)のインフルエンザワクチン接種について、 主治医から勧められたのは46名(28.2%)、説明のみ受けたのは19人(11.7%)、何も言われなかったのは79名(48.5%)でした。 昨シーズン(2019/2020の冬)にワクチンを接種していたのは、全体では163名中100名(61.3%)、今シーズン主治医に勧められた46名中では37名(80.4%)、何も言われなかった79名中では46名(58.2%)でした。

・65歳未満の113名のうち、インフルエンザワクチンが公費であれば打つと答えたのは95名(84.1%)(昨シーズン接種あり70名(61.9%)、 接種なし25名(22.1%))、公費であっても打たないとしたのが18名(15.9%)でした。

・インフルエンザワクチンを接種した主な理由として挙げられたのは、 医療関係者に勧められたから(29名、29.0%)、自分で書籍やインターネットを調べて(23名、23.0%)、職場で受けることになっている(医療従事者等)(17名、17.0%)、 家族や友人の勧め(6名、6.0%)、市役所等からの案内(5名、5.0%)、定期接種だから(5名、5.0%)でした。

・一方、インフルエンザワクチンを接種しなかった主な理由として挙げられたのは、 心配していない(14名、22.2%)、効果を信頼していない(8名、12.7%)、副反応が心配(19名、30.2%)、 考えたことがない(2名、3.2%)、費用がかかるから(5名、7.9%)、副反応経験やアレルギー、医師からの指示(7名、11.1%)、面倒・時間がなかった(5名、7.9%)でした。

・今シーズン(2020/2021の冬)にワクチンを受けようと思うかどうかに影響を与える因子を解析したところ、 医師の勧め、治療での抗癌剤の使用、昨シーズンの接種、それ以前の接種、ワクチンの効果への信頼、ワクチン接種の必要性の考えがある、 周りの人にワクチン接種を勧める考え、新型コロナ感染症の流行下で必要性の考えが強くなったこと、が関係していました。
アンケートにご協力いただいた方の背景情報は以下のとおりです。
人数 (%) | |
年齢 | |
65〜87 | 50 (30.7) |
21〜64 | 113 (69.3) |
性別 | |
男性 | 65 (39.9) |
女性 | 98 (60.1) |
がんの種類 | |
白血病 | 98 (60.1) |
乳がん | 15 (9.2) |
前立腺がん | 8 (4.9) |
悪性リンパ腫 | 8 (4.9) |
大腸がん | 8 (4.9) |
肺がん | 5 (3.1) |
受けたがん治療の種類 | |
化学療法 | 106 (65.0) |
放射線療法 | 52 (31.9) |
外科的手術 | 47 (28.8) |
造血幹細胞移植 | 40 (24.5) |
ホルモン療法 | 24 (14.7) |
分子標的薬 | 11 (6.7) |
治療を受けた施設の種類 | |
大学病院 | 65 (39.9) |
市中病院 | 59 (36.2) |
がん専門病院 | 34 (20.9) |
クリニック | 5 (3.1) |
主たる診療科 | |
血液内科 | 68 (41.7) |
腫瘍内科 | 24 (14.7) |
総合内科 | 12 (7.4) |
放射線科 | 11 (6.7) |
治療の状況 | |
終了 | 89 (54.6) |
治療中 | 74 (45.4) |
同居家族の人数 | |
0人 | 18 (11.0) |
1人 | 44 (27.0) |
2人以上 | 101 (62.0) |
【解説】
今回の調査の結果、昨シーズン接種済みの方は回答者の約6割で、がんの治療を行った医師からインフルエンザワクチン接種の積極的な指示のない場合が約半数に上ることがわかりました。 また、無料であってもワクチンを打たないとしている方も一部におられ、その理由として、ワクチンの効果を信用していないこと、 ワクチンの副反応が心配であることを挙げられ、実際に副反応の経験者がある方もいらっしゃいました。 また、少数ながら接種の意義を理解した上で、公費であれば打つという方もいらっしゃり、高齢者の定期接種と同様、公費による補助で接種率が上がる可能性も考えられます。
がん患者さんはガイドラインなどを通じて、免疫の状態が弱い場合を除き、インフルエンザワクチンの積極的な接種が推奨されています。 接種率を向上させ、接種の不安を解消するためには、継続的に正しく情報提供していくことが重要と考えられます。
現在、さらに詳しい解析を進め、英語の医学専門誌での発表に向けて準備を進めております。 なお、今回の調査に関し製薬会社との利益相反はありません。
この度は多くの方にご協力いただきまして大変感謝しております。 今回の調査が少しでも皆様のお役に立つことを願っています。
1997年滋賀県生まれ。 灘中学校・灘高等学校を経て東京大学医学部在学中。 医療ガバナンス研究所やオレンジホームケアクリニックにてインターンとして研究に従事している。
1972年、石川県生まれ、鳥取県育ち。 鳥取県立米子東高等学校卒。内科医。 1997年、九州大学医学部卒。 ナビタスクリニック川崎、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会にて診療。 霞クリニック・株式会社エムネスを通じて遠隔診療にも携わる。 特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所に所属し、海外の医学専門誌への論文発表にも取り組んでいる。 ワセダクロニクルの「製薬マネーと医師」プロジェクトにも参加。 著書に、「知ってはいけない薬のカラクリ」(小学館)、 「生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり」(金芳堂)、 「エキスパートが疑問に答えるワクチン診療入門」(金芳堂)がある。