『母や友人の「がん」で、30歳過ぎてからは検診と早期発見の大切さを実感』
山本佳奈
転載ご許可に感謝申し上げます。
二十歳になってから、案内の葉書が来るたびに受診していた子宮頸がん検診。 がんがあると分かること以上に、がんが進行している方が怖いという思いから、毎度検査に行くのですが、何度やっても内診台に座っての検査自体は慣れないもの。 「1週間後に結果を聞きに来るように」と指示されますが、結果を聞く直前まで「もし、がんだったらどうしよう……」と不安でいっぱいになります。
30歳を超えてからは、友人の一人が「子宮頸部異形成」という子宮頸がんの前がん病変を指摘されたこともあり、検診の継続と早期発見が大切であることを実感しました。
子宮頸がんは、20代後半から40代前半の女性が発症しやすく、「マザーキラー」とも呼ばれています。 子宮頸がんを発症した母親が、幼い子どもを残して亡くなっていることからついた呼び名のようです。
日本では、2013年4月、子宮頸がんの原因の多くを占めるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防に効果のあるワクチンであるHPV ワクチンの定期接種(小学校6年生から高校1年生相当の女子が該当)が開始されました。 しかしながら、その2カ月後には、副反応の懸念から「積極的な接種勧奨」は中止されることに。
2022年4月、ようやく定期接種の推奨が再開されることになったものの、10政令市に行ったサンプリング調査 によると22年4〜7月の接種実施率は約16%程度(第1回目の接種を対象)と低い水準にとどまっています。 接種勧奨を中止した影響が、いまだに尾を引いていると言えそうです。
●接種率は目標の半分に満たない
大阪大学の八木氏ら[※1] [※2] が、HPVワクチンの生まれ年度ごとの定期接種の累積接種率(全国値)を算出した調査結果が、2024年7月「JAMA Network Open」に掲載されました。 それによると、個別案内を受けた2004~2009年度生まれでは平均16.16 %まで累積接種率は回復していたものの、公費助成で接種が広がった1994~1999年度生まれの平均71.96 %に比べるとはるかに低率に留まっていたといいます。
また、八木氏らは、2023年度以降も2022年度のHPVワクチン接種状況が続いた場合、定期接種終了(高1終了)時までの累積接種率は、43.16 %で頭打ちとなると推計され、 これはWHOが世界の子宮頸がん排除(罹患率:10万人あたり4人以下)のために設定した接種率の目標値である90 %の半分にも満たないことを指摘しています。
私は、母の強い勧めもあり、公費助成で接種が広がる前に、自費でHPVワクチンを接種しています。 とはいえ、当時は、なぜ接種が必要かを理解しておらず、どちらかというと、しつこく接種を勧めてくる母の思いに負けて、渋々接種しに行った私でしたが、今となっては接種しておいて良かったと、母に感謝しています。 日本を離れてからは、私の怠慢もあり、実は、子宮頸がん検診を受けられていません。 あれだけ欠かさず受診していた子宮頸がん検診でしたが、アメリカでは日本のように自治体から連絡が来るわけではないため、すっかり失念していたのです。 どうやら加入している医療保険で、検診もカバーされているようなので、これ以上先延ばしにせず、予約して受診しにいこうと思っています。
●がんが身近な存在に
昨年まではがんに縁のなかった私ですが、今年は、思いがけずがんが身近な存在となりました。 前回、母に消化管間質腫瘍(ジスト)があることがわかり、祖母は骨髄線維症であったことがわかった話をお伝えしましたが、 さらに、アメリカに来てからひょんなご縁で家族ぐるみのお付き合いをすることになった友人が、腎臓がんを患っていることも判明したのです。
彼とは、昨年一時帰国した時に、行きと帰りの飛行機の便がまったく同じだったことから親しくなり、定期的に食事をご一緒するようになりました。 友人とはいえども、20歳で日本を出てからというもの、アメリカで学位と取得し、数年前に退職するまで中国やアメリカで日本語を教えていたという方ですから、私にとっては人生の大先輩です。
ちょうどコロナ禍の時に、がんで奥様を亡くされたということは伺っていたのですが、数年後には自分も腫瘍があることが分かり、とてもお辛かったであろうと思うのですが、 予想外にも「腎臓は2つありますから、なんとかなると思うのです」なんておっしゃいます。 彼とは対照的に、私の方が、思いがけない知らせに、受け入れることができず、あたふたしていたような気がします。
普段から頻繁に連絡を取り合うような関係でありませんが、しばらく連絡がなかったため、「どうしたのだろう」と不安に思っていた矢先、 1度目の術前検査がうまくいかず、2度検査をすることになったこと、そして転移はなく、手術を受けることになったという連絡が届きました。
体調が良くなってきて、最近は趣味のバイオリンも弾いているという彼に、久しぶりにカフェでお会いすることになりました。 「転移していないとわかると、ドクターは手術しましょう、と乗り気になっちゃって。私は気が弱いものですから、断れず、手術をすることにしました」と、いつもの調子でそう話す彼。 少し痩せてしまったような印象を受けましたが、「手術は6週間後だそうで。ちょっと拍子抜けしましたよ」と笑顔で話す様子に、ホッとしたことを覚えています。
「手術が無事に終わり、翌日には退院し、自宅で療養しています」という連絡が届いたのは、つい最近のことです。 思った以上に体へのダメージは大きいようで、寝たきりの状態が続いていて、回復には時間がかかりそうだとおっしゃいます。
1日も早く体調が良くなり、また彼のバイオリンの音色が聴ける日を今か今かと楽しみにしている今日この頃です。
さて、がんといえば、一般に、年齢が高くなるにつれて、発症リスクが高まることで知られていますよね。 しかしながら、最新の研究結果によると、どうやらより若い世代で多く見られるがんがあることがわかってきたというのです。
今年の8月、医学誌「ランセット」[※3] に掲載された調査結果によると、 より年齢の高いグループよりも、より若い世代で多く見られるようになっている17種類のがんが特定されたというではありませんか。
この研究では、2000年1月1日から2019年12月31日までの期間に、 25歳から84歳までの、34種類のがんと診断された約2,370万人の患者と、25種類のがんにより亡くなった約735万人のデータが抽出され、1920年から1990年まで、 5年ごとに区切った出生年別のがん発症率とがん死亡率を計算し、統計解析が行われました。
その結果、研究者らによってすでに特定されていいたがん(大腸、子宮体部、胆嚢およびその他の胆道、腎臓および腎盂、膵臓、骨髄腫、非胃噴門、精巣、白血病)に加えて、 8種類のがん(胃噴門部、小腸、エストロゲン受容体陽性乳がん、卵巣、肝臓および肝内胆管、女性のHPV非関連口腔および咽頭、男性の肛門およびカポジ肉腫)が追加され、 より若い世代で発症率が増加している17種類のがんが特定されることになりました。
また、研究者らは、若い世代で発生率が上昇している17種のがんのうち、 結腸および直腸がん、腎臓および腎盂がん、胆嚢およびその他の胆管がん、子宮体部がん、膵臓がん、胃噴門がん、エストロゲン受容体陽性乳がん、卵巣がん、骨髄腫、肝臓および胆管がんの10種が肥満に関連していたことが判明したと報告しています。 なお、この論文では、若い世代で多くの種類のがんの発生率が上昇していることは、幼少期または若年成人期の発がん性物質への曝露の有病率の増加を示唆しているものの、まだ詳細は解明されておらず、 今後、根本的なリスク要因を特定して対処する必要性があると結論づけられています。
50歳未満の若い世代のがんの発症率が上昇傾向にあるという、米国がん協会による最新の報告もご紹介したいと思います。
人口ベースの癌の発生と転帰に関する最新のデータをまとめた米国がん協会の2024年の報告[※4] 書によると、 1995年から2020年の調査期間において、65歳以上の成人、50歳から64歳の成人、50歳未満の成人の3つの年齢群の中で、50歳未満の成人だけが、これら3つの年齢層の中で、この期間にがん罹患率全体が増加したのは50歳未満だけであったというではありませんか。
また、若年成人の子宮頸がん(30~44歳)と大腸がん(55歳未満)の罹患率は毎年1~2 %増加しており、 1990年代後半には男女とも50歳未満のがん死亡原因の第4位であった大腸がんが、今では男性で第1位、女性で第2位のがん死亡原因になっているといいます。
これらの結果に対し、米国がん協会の最高科学責任者であるウィリアム博士[※5] は、 「米国の人口全体は高齢化しているが、高齢者層に患者が増えているにもかかわらず、がんの診断を受ける人が若年層に移行している動きが見られる。つまり、癌の診断時期が早まっているのです」と述べているのです。
若い世代のがんの発症率が上昇傾向にあるとなると、私も他人事だと言っていられません。 がんについては解明されていないことも多く、「こうすればがんにならない!」という予防法は残念ながらありません。 がんの発症要因の一つとして遺伝的要因が挙げられる一方で、若い世代で増えている一部のがんが肥満に関連していたことが分かったということは、これからの食生活や運動習慣といった生活習慣次第で、がんの予防に繋がると言えるのではないでしょうか。
【参照URL】
- [※1]https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2821163#google_vignette
- [※2]https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2024/20240717_1
- [※3]https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(24)00156-7/fulltext
- [※4]https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.3322/caac.21820
- [※5]https://www.cnn.com/2024/01/17/health/cancer-incidence-rising-report/index.html
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。 2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。 2022年東京大学大学院医学系研究科修了。南相馬市立総合病院(福島)・ナビタスクリニック内科医を経て、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。 著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。