市民のためのがん治療の会
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『新・放射線治療装置「ハルシオン」の有用性』


北腎会 坂泌尿器科病院 放射線治療センター長
原田 慶一
令和6年(2024年)4月20日、札幌市「かでる2・7」で、「市民のためのがん治療の会北海道支部」主催の「令和6年 市民のためのがん治療の会 講演会」が、 北海道、札幌市、北海道医師会、札幌市医師会、北海道がんセンター、公益財団法人北海道対がん協会、北海道新聞社、北海道がん患者連絡会の後援を得て、行われた。
講演会は、第一部「新・放射線治療装置「ハルシオン」の有用性」と題して原田 慶一 先生の、第二部「放射線治療(被爆)の光と影」と題して西尾 正道 先生の講演が行われた。
今回はこのうち、「新・放射線治療装置「ハルシオン」の有用性」の概要を原田先生にご寄稿いただいた。
ご多用の中ご寄稿いただきました原田先生に、感謝申し上げます。
(會田 昭一郎)

2023年11月、坂泌尿器科病院に最新の放射線治療装置「ハルシオン」を備えた放射線治療センターが開設されました。 前立腺がんをはじめとするさまざまな種類のがんに対応し、診断から治療、その後のフォローアップまで、迅速かつ円滑な診療体制を整えています。

「ハルシオン」による高精度放射線治療

「ハルシオン(Halcyon)」は、強度変調放射線治療(IMRT)および強度変調回転放射線治療(VMAT)に特化した最新鋭の放射線治療装置です。 この装置は腫瘍の形状に合わせた複雑な照射を可能にし、正常組織への影響を最小限に抑えながら、腫瘍の局所治療を行います。

「ハルシオン」は北海道で初めて導入され、国内でも17台目と大変貴重な装置です。 さらに、国内初導入の最新システム「ハイパーサイト(HyperSight)」により、治療直前に腫瘍の位置を確認するためのコーンビームCT(CBCT)撮影を従来の17秒からわずか6秒に短縮して行うことができます。 これにより、患者様の負担が軽減されるだけでなく、治療精度も大きく向上しました。

「ハルシオン」には、光学式カメラシステム「アイデンティファイ(IDENTIFY)」も搭載されており、患者様の体表面を3台のカメラでモニタリングします。 治療寝台の上での身体の傾きやねじれを確認・調整し、毎回の治療精度を確保します。 また、呼吸などの体動もリアルタイムで監視するため、治療中の動きも考慮した精密な放射線治療が可能です。

前立腺がんに対する放射線治療

坂泌尿器科病院放射線治療センターでは、前立腺がんに対する最先端の治療を提供しています。 年間100例以上の前立腺がん治療実績を持ち、限局性前立腺がん、局所進行性前立腺がん、そして再発症例に対しても効果的な放射線治療を行っています。

治療内容:
  • 限局性前立腺がん: 前立腺および精嚢基部に対してIMRTを用いた精密な照射が行われます。
  • 局所進行性前立腺がん: 前立腺、精嚢、骨盤内リンパ節への予防照射を行い、がんの進行を防ぎます。
  • PSA再発・局所残存病変: 手術後にPSA値が上昇した場合や、局所病変が確認された場合には、救済放射線治療が実施され、腫瘍制御と長期予後の改善を図ります。
副作用管理:
  • 排尿障害、頻尿、直腸出血などの副作用が見られる可能性がありますが、医療チームが適切に管理し、生活の質を保つための支援を行います。

オリゴ転移への定位放射線治療

オリゴ転移は、転移が全身で1〜5個と限られた状態を指し、局所制御が可能なケースでは放射線治療の適用が考えられます。 定位放射線治療により、転移巣への高線量照射を行い、がんの進行を抑えることができます。

主な照射スケジュール:
  • 35Gyを5回(約1週間)
この治療により、局所制御と長期生存の可能性が期待されており、転移の早期発見と積極的な治療が重要です。
骨転移への放射線治療
骨にがんが転移した場合、疼痛の緩和、病的骨折の予防、脊髄圧迫の防止を目的として放射線治療が行われます。主な照射スケジュールは以下のとおりです。
  • 25Gyを5回(約1週間)
  • 30Gyを10回(約2週間)
  • 緊急時には8Gyを1回

脊髄圧迫症状への緊急照射

がん患者様の5〜10%に発生する脊髄圧迫症状では、神経を保護するために早急な治療が必要です。 手足のしびれ、感覚麻痺、排尿・排便障害が見られた場合は速やかに治療を開始します。 ステロイド投与や除圧手術と併用する場合もあります。

MRI画像融合前立腺生検とDWIBS

ドゥイブス(DWIBS全身拡散強調画像): ドゥイブス(DWIBS)は、体内の水分子の動きを捉えることでがん病変の存在を確認する高度なMRI検査技術です。 がん細胞が密集した病変は正常な組織と比較して水分子の動きが制限されるため、DWIBS画像ではがん病変が高信号として表示され、転移の有無や腫瘍の広がりが視覚的にわかりやすく示されます。 被ばくを伴わず造影剤を使わないため、患者様の負担を減らしつつ、全身のがん検査が可能です。

「コエリストリニティ」(KOELIS Trinity): 前立腺がんの精密診断を可能にするMRI画像融合針生検システムです。 MRIと超音波画像を組み合わせ、前立腺内の病変部位を正確に特定し、的確な標的生検を行います。 このシステムにより、早期発見と診断精度の向上が期待され、治療計画の精度がさらに高まります。

チーム医療体制でのサポート

坂泌尿器科病院放射線治療センターでは、以下の専門スタッフが連携して患者様の治療を支えています。

  • 医師(放射線治療専門医): 2名
  • 医学物理士(診療放射線技師兼務): 3名
  • 診療放射線技師: 5名(男性3名、女性2名)
  • 看護師: 2名

この多職種によるチーム医療体制により、患者様が安心して治療を受けられるよう、治療計画からフォローアップまで包括的なサポートが行われています。

おわりに

坂泌尿器科病院放射線治療センターでは、最新鋭の装置と高い専門知識を駆使し、患者様一人ひとりに最適な放射線治療を提供しています。 治療に関するご質問やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。 医療チーム一同、患者様の健康回復に向けて全力でサポートいたします。


原田 慶一(はらだ けいいち)

現職 北腎会 坂泌尿器科病院 放射線治療センター長
学歴 2008年3月 北海道大学医学部卒業
   2016年3月 北海道大学大学院医学研究科 放射線医学分野 博士課程修了
職歴 2008年4月〜2010年3月 卒後臨床研修(札幌東徳洲会病院・北海道大学病院)
2010年4月〜2013年3月 北海道大学病院 放射線科/放射線治療科 医員
   2013年4月〜2014年3月 恵佑会札幌病院 放射線治療科 医師
   2014年4月〜2017年8月 北海道大学病院 放射線治療科 医員
   2017年9月〜2018年5月 恵佑会札幌病院 放射線治療科 非常勤医師
   2018年6月〜2023年10月 北腎会 脳神経・放射線科クリニック 医師
   2023年11月〜 現職
所属学会・専門医資格
   日本医学放射線学会 放射線科専門医・放射線治療専門医
日本放射線腫瘍学会 放射線治療専門医
   日本磁気共鳴医学会
   日本泌尿器科学会
   日本内科学会
   米国放射線腫瘍学会
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