市民のためのがん治療の会はがん患者さん個人にとって、
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市民のためのがん治療の会
昔、国民病であった肺結核は結核菌の侵襲が原因。一方現在の国民病がんは、トリガーは色々あるようだが、原因は例外を除いていまだによくわからないばかりか、いわば身内の反乱という厄介な病気。それ故、科学的な治療以外の様々な補完代替医療が。
「がんの補完代替医療」

埼玉医科大学国際医療センター
大野 智
 我が国では、国民皆保険制度のもと現代西洋医学を主体とした医療が提供されています。しかし、近年、国民の自己健康管理への関心、患者の治療選択における自己決定意識の高まりに加え、インターネットの普及によって個人による健康・医療情報へのアクセスが容易になってきたことから、医療現場では、通常医療以外の医療、補完代替医療の利用者が急速に増加していることが指摘されています。

 補完代替医療とは、米国の国立補完代替医療センターの定義によると「現段階では通常医療と見なされていない、さまざまな医学・健康管理システム、施術、生成物質など」とされています。さらに最近では、この補完代替医療と現代西洋医学を組み合わせることによって、患者さんの心と身体そして精神を総合的に考えて治療を行う「統合医療」という考え方も生まれてきています。

 それでは、がんの医療現場では、実際にどれくらいの頻度でこの補完代替医療が利用されているのでしょうか。厚生労働省研究班が行った調査では、がん患者のおよそ2人に1人が、なにかしらの補完代替医療を利用していることが明らかとなっています。しかし、この補完代替医療の利用にあたっては、いくつか問題点が指摘されています。

 ひとつめは、健康食品をはじめとした補完代替医療の多くは、ヒト臨床試験によってその安全性や有効性が証明されておらず、科学的な根拠に乏しいということがあります。その一方で、インターネットや書籍などでは、その効果を喧伝するような経験談をはじめとした様々な情報が溢れています。このような状況は、日本特有のものではなく、海外においても同様に社会問題となっています。米国では、これらの問題点を解決するために、補完代替医療に関する正確な情報の発信や補完代替医療について研究・教育が行うことができる人材の育成に取り組んでいます。さらに年間100億円以上の研究費を投入して補完代替医療の有効性についても検証を行なっています。我が国においても、補完代替医療に関連した学会が設立されたり、昨年には厚生労働省に統合医療のあり方を考えるプロジェクトチームが組織されたりするなど、徐々にではありますが、補完代替医療への科学的な取り組みが進められています。

 問題点の二つ目としては、補完代替医療の利用に関して、医療者と患者との間でコミュニケーションが殆どとられていない点が挙げられます。その原因のひとつとして、医療現場における補完代替医療の位置付けや現時点での標準的な考え方などが確立されていないことがあります。また、医学教育においても、わが国の大学医学部では、補完代替医療に関する系統だった講義は殆ど行われておらず、医療者の知識不足も、患者とのコミュニケーション不足に影響している可能性もあります。そのようなことから、利用者の多くは正確な知識を得ることなく不安を抱えながら利用している実態があります。そこで、筆者も加わっている厚生労働省研究班では、患者向けの情報提供資料として「がんの補完代替医療ガイドブック(推薦書籍)」を作成しました。インターネットから無料で入手可能ですので、是非、一度手に取ってみてください。

 さいごにわが国の医療システム全体の問題点として補完代替医療の将来的なあり方を考えると、患者にとって医療が主流・非主流あるいは通常・補完代替などと相対していることは、ある意味患者にとって不幸であり、それを許容することは医学の怠慢とも考えられます。今後、よく計画されたヒト臨床試験による科学的根拠が蓄積され、多くの不確かなことが補完代替医療の名のもと漫然と継続されることなく、順次、有効・無効、有害・無害が明らかにされていくことが望まれます。

推薦書籍
・「がんの補完代替医療ガイドブック」
http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/index.html
からPDFファイルが無料でダウンロード可能。


そこが聞きたい
Q患者や家族が補完代替医療を求める気持ちは「がんの補完代替医療ガイドブック」でも「医学的治療によって完治するという保証がない場合や、治療が終了しても再発の不安に悩まされている場合、患者さんは効果が明らかにされていない不確実な治療法であっても、民間療法などの補完代替医療をさまざまな理由から受けようとすることが多い」としておられますが、先生方はじめ皆様の懸命なご努力によってがんの寛解率は5割を超えたといっても半数近くが残念な結果になる恐ろしい病気ですので、患者としてはその気持ちは、痛いほど良く分かります。

A 厚労省研究班の調査でも、標準治療といわれている手術、抗癌剤、放射線治療を受けている患者さんより、標準治療が効かなくなってホスピスで緩和ケアを受けている患者さんの方が、補完代替医療の利用頻度が高いという結果になっています。そこには、患者さん本人の藁にもすがりたい気持ちや、周りにいる家族の「できる限りのことはしてあげたい」という思いがあるようです。ですが、そのような、患者さんの不安や家族の気持ちにつけ入るような悪徳業者も存在していますので注意が必要です。また、本文中にも書きましたが、補完代替医療の利用に関して、病院はきちんとした対応ができていません。そのような状況を何とかしたいという思いから、厚労省研究班では、「がんの補完代替医療ガイドブック」を作成しました。補完代替医療を利用してみようかと考えたとき、利用をはじめる前に是非読んで頂きたいと思います。

Q補完代替医療といっても色々なものがあるようですので、「がんの補完代替医療ガイドブック」のアメリカ国立補完代替医療センターの分類を参考にさせていただきました。伝統医学などもありますので、地域によっても違うこともあるでしょうが、参考になりますね。
独自の理論体系を持つ医療 (Whole Medical Systems)
 ホメオパシー医療、自然療法医学、中国伝統医学、アーユルヴェーダなど
心身医療 (Mind-Body Medicine)
 瞑想、祈り、心理・精神療法、芸術療法、音楽療法、ダンス療法、バイオフィードバックなど
生物学的療法 (Biologically Based Practices)
 ハーブ、食品、ビタミン、ミネラル、生理活性分子など
手技療法と身体技法 (Manipulative and Body-Based Practices)
 整体、カイロプラクティック、オステオパシー、リフレクソロジー、マッサージ、
 ロルフィング、アレクサンダーテクニック、フェルデンクライスなど
エネルギー療法 (Energy Medicine)
 気功、レイキ、セラピューティック・タッチ、電磁療法など


A ご指摘の通り補完代替医療は、地域によって、その対象となるものが異なります。例えば、日本では医薬品になっている漢方薬が、欧米ではハーブや食品などに分類されています。逆に、欧米では医薬品になっているハーブが、日本では食品として分類されているケースもあります。今後は、世界各国が補完代替医療の分類や概念を共有していく必要があるかもしれません。また、現在、補完代替医療として分類されている伝統医療、ハーブ・食品、種々の施術などを、将来的には医療としてどこまで国がサポートするのか、国民自身も一緒に考えていくことが求められていると思います。

Q何かしらの補完代替医療を利用している人はがん患者の半数とのことですが、うろ覚えですが以前国立がんセンターでの調査では85%ぐらいに上っていたように記憶しております。私も調査は色々しておりましたが、調査の傾向として、「かっこ悪いことは言わない」式の意識がどうしても働きます。例えば国勢調査などでは学歴などは高卒は大卒などとワンランク上に○がつきやすい。かっこ悪いかどうかは別にしても、補完代替医療を行っていることは隠したがる傾向もあるのではないでしょうか。現に主治医に黙って健康食品などを摂っている人も多いようですね。極端な話をすれば全員なにがしかの補完代替医療を行っていると言っても良いのではないかとおもいます。

A 本文中で紹介したデータはある一定期間に利用している人を調べた結果になります。ですが、近年、がん治療は長期間継続して行われるケースもあり、また再発の不安や悩みは、数年間、場合によっては数十年間にも及ぶと思います。最近行われた調査では、実際に現在利用している人が4割、今後利用を考えている人が4割、合わせて8割の人が補完代替医療に何かしらの興味を持っているという結果も得られています。ご指摘の通り、がん患者さんのほとんど全員が補完代替医療を利用する可能性があると思います。そして、がん患者の多くは、補完代替医療の利用に関して主治医に話をしていません。これまでの調査では、主治医に相談しなかった理由として、「質問されなかった」「話す必要がないと思った」「話しても理解されないと思った」などが挙げられています。そのようなことからも、患者さんは、補完代替医療の利用は隠したがる傾向があるといってよいかと思います。ですから、主治医をはじめとした医療者が、積極的に患者さんから情報を収集する必要があると思います。

Q実は補完代替医療についてはいくつかの問題点があり、まずは効くのか効かないのか、はっきりしたエビデンスがない、効果がないばかりか、病状や健康を悪化させる場合がある、総じて非常に高額である、販売方法としてマルチ・マルチまがい商法のような方法がとられることも多い、などです。
まずは「健康食品をはじめとした補完代替医療の多くは、ヒト臨床試験によってその安全性や有効性が証明されておらず、科学的な根拠に乏しいということ」という点ですが、独立行政法人「国立健康・栄養研究所」のご厚意で「がん医療の今」のNo.20(1月27日掲載)『健康情報を見極め、信頼性を見抜くのは、「あなた」(2)』に「健康食品の安全性・有効性情報」を転載させていただきましたので、その該当部分を改めて示しますが、参考になりますね。

Q11 情報がどれくらい信頼できるか、どうやって見分けられますか?
A以下は、「科学的根拠のある情報」のまとめにもなります。参考にしてください。
1.具体的な研究か:体験談は具体的な研究ではない
2.研究対象はヒトか:細胞や動物の実験結果は、そのままヒトには当てはめられない
3.論文報告があるか:学会発表ではなく学術論文として専門誌に掲載されたものか
4.研究デザインはどうか:信頼性を評価できるだけの研究規模はあるか、統計的に意味はあるか
5.複数の研究で評価されているか:ひとつの研究だけでは信頼性が高いとはいえない

(健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック(第一出版)第3版 p332 より引用)


A 非常に参考になると思います。患者さんには、是非とも知っておいてもらいたい情報ですね。

Q国民生活センターの危害情報などでも健康食品は、化粧品と並んで危害の多いワースト3に入っています。効果がはっきりしないばかりか、からだに障害が発生するのでは大変です。

A 健康を願って利用した健康食品で健康被害にあっては本末転倒です。安全性の確保や医薬品との相互作用の検証は、企業自らの努力も必要であることは間違いありませんが、今後は、国も何かしらのルール作りを行なうべきだと個人的には考えます。

Q先日あるところで患者さんたちとバスで移動していたのですが、その時健康食品の話が出て、科学的根拠のあるものはほとんどないというような話になった時、こそこそと「だけどあれは効くんだよね」などとささやく声があちこちから聞こえました。なんだかんだ言っても皆さん、なにかしら補完代替医療をやっておられるようですね。

A 実体験の基づく経験談や体験談などは、話が分かりやすくメッセージ性が強いので、口コミやインターネットのブログなどでも情報が伝わりやすいのかもしれません。

Q患者や家族にとって、こういう情報について、「ちゃんと調べてよ」といいたいですが、アメリカでは100億円もかけて調べているというのは羨ましい限りです。日本では、補完代替医療に関する公的な研究予算は1億円程度と言われています。米国のおよそ100分の1です・・・・。

A 昨年、自民党から民主党に政権交代がおき、鳩山首相の掛け声で統合医療に関するプロジェクトチームが厚生労働省内に組織されましたが、本年度予算では、既に日本では医薬品となっている漢方薬について再検証を行なうことにのみ研究費が計上されていて、がん患者さんに利用頻度の高い健康食品に関する対策や取り組みは残念ながら行われる予定はありません。また、先般行われている事業仕分けにおいても、国立健康・栄養研究所が取り組んでいる栄養情報担当者(NR)養成の取り組みが、「廃止」「縮小」という意見が大勢を占めていました。繰り返しになりますが、補完代替医療の今後のあり方について、国も真剣に考えて欲しいと願っています。

Q補完代替医療の費用も大変ですね、「がんの補完代替医療ガイドブック」によれば、補完代替医療に支出する金額は月平均約6万円、年に70万円ですね。

A 日本には、がんと診断されて現在もご存命の方、いわゆるキャンサーサバイバー(がん生存者)が300万人いると言われています。厚労省研究班の調査結果では、およそ二人に一人が補完代替医療を利用しているわけですから、年間にすると約1兆円というお金ががんの補完代替医療に使われているわけです。経済的に見れば、一大産業になるのかもしれませんが、健全な経済活動のみが行われているわけではなく、さまざまな問題を抱えているのが現状です。

Q「よく計画されたヒト臨床試験による科学的根拠が蓄積され、多くの不確かなことが補完代替医療の名のもと漫然と継続されることなく、順次、有効・無効、有害・無害が明らかにされていくことが望まれます。」というご提言は本当に患者も家族も待ち望むものです。 患者としてもただ漫然と、「宜しくお願いします」ではなく、「じゃあ、私たちにもできることからやっていこう」というような心構えも必要ではないでしょうか。 そういうことを踏まえて、患者はどのように対応してほしいとお思いでしょうか、患者との連携など何か将来に向けてのご提言などございましたら。

A 現時点では、補完代替医療の情報は、あやふやなものがほとんどです。まずは、そのことを知っておいて頂きたいと思います。そして、前述のQ&Aにもありましたが、患者さん自身、補完代替医療に関する情報の信頼性について、見極めるための知識と知恵を身に付けて頂きたいと思います。
 それともうひとつ、患者さんには、今現在あなたの身体の状況を一番よく知っている主治医に、補完代替医療の利用に関して、是非とも相談をして欲しいと思います。もし、主治医が難しいようでしたら、看護師、薬剤師、栄養士などの医療者に相談をしてみてください。誰にも相談せず、不安を抱えたまま利用するのが一番よくありません。相談した結果、「補完代替医療を利用しない」という選択肢もあってしかるべきです。補完代替医療を利用するにしても利用しないにしても、患者さん自身が、納得して結論を出していくことが一番重要だと思います。



略歴
大野 智(おおの さとし)

1998年島根医科大学(現島根大学医学部)卒業後、同大学第二外科入局。2002年同大学大学院修了(医学博士)。その後、金沢大学、大阪大学・東京女子医科大学を経て2010年4月から現職。2010年より東京女子医科大学消化器外科非常勤講師(兼任)、早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構客員准教授(兼任)。
2005年より厚労省がん研究助成金研究班にて代替医療の研究に従事。がん患者への情報提供資料「がんの補完代替医療ガイドブック」の作成や機能性食品の科学的検証(ヒト臨床試験)に取り組む。主な研究テーマは、腫瘍免疫学、がん免疫療法。


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