市民のためのがん治療の会
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『乳がん術後の乳房再建について』


医療法人社団ブレストサージャリークリニック院長 岩平佳子
 乳がんはいまや日本でも女性のがんの第一位となり、20人に一人の女性がなると言われています。しかしきちんとした専門施設で早期発見、早期治療をすれば、予後は決して悪いものではなく、手術後も快適に生活していらっしゃる患者さんはたくさんいらっしゃいます。
 最近では乳房温存手術が増え、今や日本では温存手術が全摘手術を凌駕するようになってきました。新聞や雑誌などでは温存手術をたくさんしている病院がいい病院としてあげられています。もちろん乳房を残せるということは非常に喜ばしいことです。けれどまず皆さんに覚えておいていただきたいのは、乳房温存手術というのは、決して夢の手術ではないということです。たとえば同じ3cmの乳がんが見つかったとしても、外科の先生は3cmギリギリで取るわけではありません。周りに目に見えないがん細胞を取り残すことのないように、1~2cm大きく取ることになります。その結果、乳房の大きい人と小さい人では温存手術の後の変形は全く異なってきます。また術後の乳房の変形は腫瘍ができた部位や切除範囲(術式)によっても大きく異なります。私のところにいらっしゃる患者さんは「こんなふうになるとは思っていなかった」「温存すれば少し小さくなるだけ。小さい傷ができるだけだと思っていた」とおっしゃる方がとても多いです。でもそれは患者さんの思いこみに他なりません。同じ温存手術でも変形の程度は千差万別であり、乳房再建を行うとしても個別の対応が必要となります。
 なお乳房温存手術後に再発を抑えるために残存乳房に対して放射線治療を行うことが標準的な治療として行われています。しかし乳房が照射されていれば、乳房再建手術は創傷治癒の問題などがあり、一般的には行っていません。したがって乳癌の手術後に乳房再建を考えておられる方は術後照射は避けなければなりません。その場合は術後照射をしないで済む「全摘+再建」という選択肢もあります。手術の前に乳腺外科医と十分に協議されることをお勧めします。

 乳房再建には自分の組織を使用する自家組織再建と人工物を使用する人工物再建があります。自家組織再建は最低でも2週間の入院を要しますが、人工物再建は日帰り手術でできます。自家組織は保険適応となっていますが、人工物は保険がきかないので高価ですが、年末の確定申告で高額医療の還付が受けられます。
 どちらの方法をなさるかの一番大切なことは、ご自分のライフスタイルの中で「人工物を使うことに抵抗があるか。自分の組織でやりたいか」ということだと思います。
 乳がん手術を受けた方、これから受けるかもしれない方が、温存や再建に正しい知識を持って、より快適な社会生活を送れるように、乳腺外科医だけなく、形成外科医もお手伝いしていることをどうぞ忘れないでください。そして乳房再建をご希望の方は形成外科医に相談し、貴女にとって最適な方法で美しい乳房再建を行ってください。
治療前後の写真

略歴
岩平 佳子(いわひら よしこ)
東邦大学医学部卒業後、同大学医学部付属大森病院、慶應義塾大学医学部形成外科学教室を経て平成元年6月東邦大学医学部形成外科学講座講師。平成8年1月東邦大学医学部形成外科学講座助教授を経て平成15年 4月 ブレスト サージャリー クリニック開設、院長。日本形成外科学会認定医。 この間、マイアミ大学形成外科、エモリー大学形成外科留学 日本形成外科学会評議委員、日本乳癌学会評議委員、日本乳房インプラント研究会(JAMP)理事、アメリカ形成外科学会会員
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