市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
最強の発がん因子であるタバコ。二人に一人はがんになる時代と言われるが、ならないで済むならそれに越したことはない。これほどはっきりした原因物質はサッサと禁止するべきでは。現に禁煙に大きく踏み出した欧米先進国ではがん死亡率が低下してきている。来年度予算の策定に当たり、さあ、国はどうする!!

『「タバコ規制対策基本法」の制定を』


たばこ問題情報センター代表/禁煙ジャーナル編集長 渡辺文学
 受動喫煙や吸い殻の始末の問題など、喫煙で生じる社会問題は、個々の喫煙者がマナーの問題として自覚を深めていけば解決できるとして、喫煙の規制を「法制化」することに反対する見解があります。
 もちろんこれは、タバコ業界や禁煙運動を誹謗・中傷している一部の“文化人”などの見解ですが、これは、「タバコの依存性は極めて弱いものであり、人間の理性のもとに各人が十分管理・自己規制できる」とする考え方が前提にあるのでしょう。
 日本は長年、それなりに公衆道徳については歴史的に確立されてきました。しかしその日本において、タバコはいつでもどこでも吸い放題、ポイ捨ても当たり前でした。
 しかしここ数年、タバコの害・受動喫煙の害が幅広く社会的に認知されてきました。「健康増進法」の施行、「タバコ規制枠組み条約(FCTC)」の発効、「世界禁煙デー」のイベント、JR新幹線や駅の禁煙推進、さらに禁煙タクシーの劇的増加など、これまでとは明らかに次元の異なる状況となって参りました。
 ところが、職場や飲食店、ホテルなどはまだまだタバコの煙と臭いが溢れており、特に居酒屋などの喫煙規制はほとんど行われておりません。これは、国際的な規制水準からみて、大きくかけ離れた状況といえます。また喫煙に関する事項が一部盛り込まれている「健康増進法」も、「その施設の管理者は、受動喫煙を防止するよう努めなければならない」というだけで罰則規定がありません。したがって、非喫煙者をタバコの害から完全に守るまでには至っていないのです。
 そしてタバコ会社は、地方自治体などでタバコ規制の動きがあれば、それを会社ぐるみでつぶすための世論操作までやっており、法的規制の動きを封じ込めてきました。
 2007年7月、FCTCの第2回締約国会議(COP2)では、受動喫煙防止のガイドラインが策定され、「屋内禁煙法を制定する必要がある。この法制にブレーキをかけるタバコ産業の活動を監視し対応を行うことも含まれる」としています。ガイドラインで「法律を定めること、罰則をしっかり課すことが必要」と確認されたのですから、日本でも一日も早くそれを実現させることは、政府と国会に課せられた国際的な責務であるだけでなく、憲法上の義務でもあります。しかも、このCOP2で決定されたガイドラインのタイムリミットは2010年2月27日となっており、緊急の課題でもあるのです。
 喫煙に起因する病気で死亡する日本人は毎年11万人以上、また受動喫煙でも3万人以上が死亡しているにもかかわらず、国会やマスコミがこれを軽視してきたことは、きわめて重大な問題であり、責任が問われなければならないと考えています。
 一日も早く憲法と国際法に沿った「タバコ対策基本法」を制定し、それに基づいて国と自治体、医学団体等による実効性ある取り組みができるよう期待しています。

 そこが聞きたい
Q渡辺さんとは、私が国民生活センター勤務時代からのお付き合いでずいぶん長いお付き合いですね。私は消費者問題とか生活問題の立場で、タバコが身体生命の安全性にかかわることということで禁煙について活動してきましたが、渡辺さんは嫌煙一筋ですね。筋金入り・・・。

A 当時「公害問題研究会」で毎月『環境破壊』という月刊専門誌を発行していましたが、実はその頃は一日に60本以上というヘビースモーカーでした。1976年暮れ、中田みどりさんという方が「嫌煙権」という言葉を創り、私もそろそろやめたいと思っていたところでしたので、翌78年5月6日、文字通り「断煙」しました。それはやはり、身近な公害・環境問題であるという意識が禁煙を決意し、長続きさせていると思います。しかし、一部の作家・評論家の方々が「禁煙運動はファッショ」とか「魔女狩り」などと誹謗・中傷を続けていますが、運動の発足当初から私は「タバコの煙に悩んでいる非喫煙者を救い、同持にやめたいと悩んでいる喫煙者を救いたい」という考え方でこの運動に取り組んでいるのですから、これは全く無知・無理解な発言であり、残念でなりません。普通の喫煙者は70%以上「やめたい」と思いながらニコチンという非常に依存性の強い薬物によって「吸わされている」という側面があり、これが問題解決をやっかいにしています。ですから私は、「タバコ問題の正しい情報を一人でも多くの人に知っていただき、やめるきっかけをつかんで欲しい」と禁煙運動に取り組んでいるのです。

Q渡辺さんが主張されるように、国は「たばこ事業法」でタバコ産業の振興を図ってますね。そういうこともあって、国民生活センターなど、国の予算を使っているところではなかなか喫煙の害などについて取り扱えなかった。

A その通りですね。特に厚生労働省がもっと真剣に「タバコ規制対策」を進めなければなりませんが、大蔵省⇒財務省の厚い壁をはね返すことができません。やはり悪法も法ですから、「わが国たばこ産業の健全な発展を図り、もって財政収入の安定的確保を図る」という「たばこ事業法」が存在する限り、厚労省が主体的に取り組むことは不可能です。しかし、公衆衛生部門が「タバコ」の主務官庁でないのは日本だけです。WHOの加盟国で、財務省が酒・タバコの監督官庁というのはわがニッポン国だけで、世界の流れから完全に外れているのです。故平山雄博士は「タバコ行政は厚労省に大成奉還を!」と主張を続けており、私も1980年代から20年以上、これを力説しています。

Q今回の意見広告は、どういう経緯で行われることになったんですか。

A 昨年、日本財団の笹川陽平会長が、産経新聞「正論」欄で「タバコ千円引き上げ論」を展開し、大きな話題となりました。昨年、この「タバコ価格引き上げ」問題は、自民党の税制調査会と政府の弱腰によって見送られてしまいましたが、8月の総選挙で劇的な「政権交代」があり、民主党は選挙前の「INDEX 2009」で、「たばこ事業法の廃止」「タバコ価格の引き上げ」をうたっており、再度大幅引き上げを世論に訴えていきたいというのが「意見広告」の狙いでした。幸い、日本医師会、歯科医師会、結核予防会などの医学団体をはじめ多くの保健医療団体の賛同が得られ、日本禁煙学会が事務局となって朝日新聞全国版に全面広告を行うことができました。会田さんたちの団体にも加わっていただき、また衆参国会議員や松沢成文神奈川県知事にも加わっていただいて大きくアピールすることができました。

Q喫煙問題を取り上げる渡辺さんたちの会と、がんというものの最大の発生原因として喫煙問題に取り組んでいるがん患者団体がコラボしたのは、市民運動としても面白いものですね。

A 今後、どんどん「共闘」を続けさせていただきたいと考えております。そのためにも、この紙面を借りて恐縮ですが、私がライフワークとして発行を続けております日本で唯一のタバコ問題月刊情報紙『禁煙ジャーナル』を、一人でも多くの関心を持っておられる方々にご購読をお願いしたいと存じます。同時に、がん患者の方々に、ぜひご自身の体験談などもご寄稿をお願いしたいと思っております。
(たばこ問題情報センター:http://www.tbcopic.org/index.htm

Q新聞などの情報によると、政府はあまり大幅な値上げには消極的のようですね。それで12月7日に、禁煙議連などと都市センターホテルで集会を開かれたようですが、何かアピールでもしたんですか。

A はい。この日は、小宮山洋子衆議院議員(禁煙議員連盟幹事長)、笹川陽平氏、望月友美子氏(国立がんセンター研究所)、作田学氏(日本禁煙学会理事長)の講演の後、各地のがん患者の会の代表の方々、そしてさいごに市民運動団体から私がアピールさせていただきました。そして、会議の最後に、主催団体の日本医療支援機構の方から「タバコ千円引き上げ」を求めてアピールが読み上げられ、満場一致の拍手で採択されました。

Q護憲、護憲といいますが、いつも9条のことばかりです。私は再々主張してますが、護憲というなら25条が先では。そうすると先程の「たばこ事業法」との関係はどうなるんでしょう、明確な憲法違反では?

A 「たばこ事業法」は明らかに憲法違反の法律です。とにかく「国民の健康はどうなってもかまわない。タバコを1本でも多く売って、タバコの税収を1円でも多くしたい」というのが目的で、世界の常識に逆行しています。また、日本たばこ産業㈱(JT)の株の50.01%を財務大臣の名義で保有していますが、国際会議で「公害企業」「犯罪企業」と位置づけられている会社の株を50%以上も国が保有していることに、参加各国から厳しい批判の声が上がっています。民主党は、この「違法状態」を早急に改善すべきです。

Qがんの原因については色々あって、学説を異にすることもありますが、ほとんど争いのないのがタバコです。先進国中で日本だけががんの死亡率が増え続けている。欧米先進国ではタバコが悪いことが分かると、サッサと対策をとってどんどん喫煙率が下がっている、これが欧米でのがん死亡率が下がり始めた大きな原因だと思います。ぐちゃぐちゃ言ってないで、はっきり原因が分かっているものはサッサと実施したら良いのにね。

A 医学団体も、ようやくここ数年、「禁煙宣言」を行って取り組みを開始しました。しかし日本の「がん」「心臓病」「高血圧」などの取り組みの主体はいまだに「検診」(早期発見・早期治療)が主体であり、タバコと密接な関係のある様々な病気でも、その取り組みは後手後手でした。また、第4の権力といわれるメディアが、電通、博報堂などの大手広告代理店に頭が上がらず、しかもJTがテレビのスポンサーになったり、新聞、雑誌の広告がなくならないなど、タバコの有害性を追及する速度が実に鈍くなっているのです。また、地方自治体も、神奈川県や広島市を除き「タバコ税は貴重な財源」と考えている都道府県・市町村がほとんどで、これも禁煙推進の大きなブレーキとなっています。とにかく「タバコ」を厳しく規制する社会状況はまだまだ時間がかかってしまいそうなのが残念ですね。

Qその反動というか、自国で売れなくなったタバコを日本や発展途上国に大量に輸出するのは、現代のアヘン戦争じゃないですか。

A 全くその通りです。私は1988年にワシントンDCを訪ね、当時米のタバコ会社がアジアの国々にタバコの拡販政策をとっていることに対し「第二のアヘン戦争をやめて欲しい」とアメリカの医学団体や連邦政府の公衆衛生担当者に訴えました。その同じことをJTインターナショナルが、東南アジア、東欧諸国などの貧しい民衆に対し、ニコチン依存性患者を大量に作っているのです。

Q5月31日は「世界禁煙デー」ですが、来年の取り組みの目玉はなんですか。

A 毎年1月に、その年のスローガンを決めて、各国に取り組みを促しています。2009年は「タバコの警告表示強化」でしたが、日本のタバコは文字だけでインパクトがあまりありませんが、カナダ、タイ、EU、ブラジルなど、すでに30か国以上の国々が写真やイラストでタバコ病患者の姿をパッケージに表示し、その害がはっきりわかるものとなっています。来年は私の予測では「タバコ会社のスポンサーシップの禁止」や「企業イメージアップの諸活動の禁止」ではないかと考えております。

Q私は北海道がんセンタに入院していた時、病棟の喫煙室で点滴架台を引きずった年老いた女性患者が、やせ衰えた震える手でタバコを吸う姿に、本当にこんな惨いことがあっていいのだろうかと、つくづく思ったのを昨日のように思い出します。葉タバコの生産者やタバコ産業に携わる方々にとっては禁煙は死活問題かもしれませんが、作付転換など十分なバックアップ体制を考えて、こんなひどいことの一日も早くなくなることを望みたいです。

A WHOやFAO(世界農業機構)でも、「葉タバコに替わって人の健康・生命維持に役立つ農産物への転作支援を政府が責任を持ってやるべき」と勧告しています。特に日本の場合、食料自給率が40%を切るというような状況にあるのですから、もっと農民が自信と誇りをもって「健康に役立つ農産物」の育成に乗り出せるよう、政府・自治体が積極的に方針を転換すべきではないでしょうか。

Qこの度のタバコ値上げ共同提案意見広告にお誘いいただいてありがとうございました。また、当コラムにお忙しい中ご寄稿いただき、ありがとうございました。今後とも連携し合って行きましょう。

A これまで、会田さんから何回か「連携」を呼び掛けられながら、ついつい毎日の作業に追われてその呼びかけに充分対応することができませんでした。このことをお詫びして、今回の「意見広告」を契機に、「タバコの煙に悩まされない社会」⇒「タバコのない社会」をめざして、忌憚のないご意見をお聞かせ願えれば幸いです。


『禁煙ジャーナル』の渡辺編集長の呼びかけで、「タバコ値上げの意見広告」の共同提案者となり、平成21年11月21日付朝日新聞に下記のとおり一面広告が掲載されましたのでご報告いたします。
サムネール画像

略歴
渡辺文学【わたなべ・ぶんがく】(本名ふみさと)
1937年7月、旧満州ハルピン生まれ。72歳。1960年早稲田大学文学部卒業/1970年~1987年、公害問題研究会で月刊専門誌『環境破壊』の発行に関わる/1989年、タバコ問題月刊情報紙『禁煙ジャーナル』を創刊、現在に至る/全国禁煙推進協議会副会長/タバコ病訴訟を支える会代表幹事/タクシー全面禁煙をめざす会代表/嫌煙権確立をめざす人びとの会代表
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