市民のためのがん治療の会
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「いわゆる健康食品」などはがんに効くのか?

『健康情報を見極め、信頼性を見抜くのは、「あなた」(2)』


市民のためのがん治療の会
代表 會田 昭一郎
もともと情報公開は上場会社の経営内容を誰にでも明らかにして、投資をしようとする人は誰でも投資情報を得ることができ、条件をイーブンにしたうえで投資しようというところから始まったと言われています。有価証券報告書などがそのいい例です。ですから情報公開はまずは投資家保護から始まったと言っても良いでしょう。その後同じような考え方を事業者と消費者という圧倒的に情報量でも資金力でも優位に立つ事業者に対して弱い立場を救うという形で消費者保護政策がとられるようになりました。それが証拠に、最初に消費者保護の理論的な指導をされたのは東大の商法の竹内昭夫先生でした。

多くの方々が金融情報などについては眼の色を変えて探したり、お子さんの進学先や塾、はては美容院からグルメ情報まで一生懸命情報収集されますが、健康食品や健康法、水などについての情報について、もっと真剣に情報収集されるべきではないでしょうか。

以下は独立行政法人「国立健康・栄養研究所」のHPの「健康食品の安全性・有効性情報」からの転載です。
科学的根拠のある情報とは?
ある食品(もしくは食品成分)が、わたしたちの体に対して有益(あるいは有害)な作用を持っているという情報が、テレビや雑誌などを介して数多く流されています。それらの中には科学的根拠に乏しいものがあります。情報を適切に評価するため、「科学的根拠」を理解する上でのポイントをQ&Aとして下記に示しました。

Q1 「科学的根拠のある情報」とはどういうものですか?
A 何かの現象を調べるときに、再現性のある実験を行い、得られた実験事実を忠実に反映した情報です。偶然性や人間の作為などをできるだけ排除した条件で実験を繰り返し、それによって得られた「一定の法則をもつ、統計的な事実」にもとづいている情報のことで、これは「科学的な裏付け」ともいえます。
Q2 再現性とは何ですか?
A 字のとおり「再び現れる性質」のことです。ある人がおこなったのと同じ実験を、別の人が、別の時に、別の場所で実験しても、再び同じ結果になる、ことをさします。科学的であるためには「再現性が高い」ことが必要です。再現性を確認できないものはもちろん、「実験のたびに結果が異なる」ことは再現性が低く、科学的とはみなされません。
Q3 テレビ、新聞、雑誌などで取り上げられていたのですが…?
A マスメディアで取り上げられたことは、必ずしも科学的な裏付けにはなりません。こういった情報は、時間や紙面などの都合で内容が省略されたり、研究の一部分だけが大きく取り上げられたり、実験の条件などが提示されていないことがあるからです。たとえ科学的に正しい内容を紹介していたとしても、すべてを正確に紹介しきれていない可能性があります。また、情報の紹介とは違って、番組や編集部が独自におこなった実験結果を発表している場合がありますが、再現性はどうか、偶然性や人為的要因の影響はないか、統計的に解析した結果はどうか、などの情報がなければ、科学的な裏付けがあるものとはいえません。
Q4 「専門家」「博士」「研究者」が言っていたのですが…?
A 「専門家が言っていた」ことが必ずしも科学的な裏付けにはなりません。情報の発信者がたとえ専門家であっても、その情報が「その人1人だけが主張していること」であったり、論文報告がなかったり、再現性が確認されていない、という場合もあるからです。通常「科学的根拠」とされる情報は、学術論文として既に発表されているもので、かつ、多くの科学者によって再現性の確認や多角的な評価がなされているものです。また、テレビや雑誌などマスメディアを通しての発表であれば、そこには必ず「編集」という第三者の手が加わっています。専門家の示す内容が正確に伝わらない可能性も考えられますので、これも科学的根拠とするには不十分です。
Q5 細胞や動物の実験で効果が証明されているようですが…?
A 食品の有効性や安全性を評価するには、通常「試験管内での実験→動物実験→ヒトでの試験」と3つの段階的な実験がありますが、それぞれ以下のような問題点があります。
・試験管内での実験…その研究結果が体内でも同様に再現されるかどうかわからない。
・ ネズミなどの動物実験…ヒトとネズミの違い(種差)があるため、その結果をヒトに直接当てはめることができない。動物実験だけでは「ヒトが食べても大丈夫な量」の推測には不十分である。
・ヒトを対象とした実験…各個人の体質等の違い(年齢、性別、遺伝的要素)、食習慣など、種々の要因によって影響の受け易さが異なるため、必ずしも多くの人に適用できるとは限らない。

ヒトでの実験は、倫理的・コスト的な両面で最も実施が困難な研究ですが、科学的根拠として実生活に最も必要なのは、ヒトでの試験結果と考えられています。なぜなら、食品は人間が口に入れて食べるものなので、有効性だけでなく安全性まで確認しなければなりません。そのためにはヒト試験の結果が必要だからです。
Q6 特許番号は科学的根拠ではないのですか?
A 特許番号は科学的根拠にはなりません。特許とは、前例のない技術、発明、アイデアなど(の発明者)に対して政府が一定期間の独占権を保証するものです。科学的な発明に対して特許が与えられることはありますが、特許をとっていることが科学的であることの証明にはなりません。
Q7 「体験談」は科学的根拠にはならないのですか?
A 体験談の多くは「ヒトがある食品(食品成分)を摂取して、なんらかの効果があった」とするものですが、実験とは違いますので科学的根拠にはなりません。科学実験の信頼性には「他の人が実験しても同じ結果になること(再現性が高いこと)」が求められますので、論文などに実験の条件が示されているのが一般的です(つまり他人によって再現性が確認されることを前提としています)。体験談は実験ではないのでそのような条件が示されていないものが多く、条件が分からなければ再現性を確認することはできません。「ヒトでの効果が認められた」ことを科学的に裏付けるには、以下のような情報が必要です。
・ 対象者はどのように選んだか、何人が摂取してそのうちの何人に効果があったのか
・ 食品(食品成分)以外の条件はどうか(年齢、性別、体格、遺伝素因、食生活、運動歴、その他生活習慣)
・ 「その食品(食品成分)を摂取しなかった群」と比較したデータはあるか、統計処理をした結果はどうか
・ プラセボ(偽薬)効果はなかったか  など
Q8 「学会発表」と「学術論文」の違いがよく分からないのですが。
A 学会発表も学術論文も「研究の成果を公表する」という点では同じものですが、このうち科学的根拠となりうるのは、「学術専門雑誌に掲載された論文」に限られています。
・ 学会発表…研究成果を発表したい者に平等に開かれている場で、学会員であれば誰でも(論文を書いていなくても)発表できます。一般的に学会への入会や研究発表に厳密な審査などはありません。
・ 学術論文…研究成果を書きたい人は誰でも(学会発表をしていなくても)書くことができますが、書いた論文を公表するには、専門誌に投稿して掲載されることが必要です。掲載に当たっては、各分野の複数の専門家が個々の論文内容(実験方法、結果の解釈、記述内容など)を審査し、掲載する価値があるかどうかを判断しています(査読といいます)。従って「専門誌に掲載された学術論文」は、査読によってある程度の客観的な評価がされたものと解釈できます。

 専門誌に掲載された論文は、データベース(PubMedなど)にも蓄積され、多くの科学者に参照・引用されながら繰り返し評価をされます。これが次の研究へとつながり、膨大な研究成果が蓄積・共有されていきます。自然科学の分野では、一つ一つの研究から得られた結果を事実としてとらえ、再現性のある研究情報を積み重ねることで「より真実に近い情報」がつくられていきます。このようなことから、「学会発表のみの研究」や「専門誌に掲載されていない論文」は審査・参照・引用などされる機会が少ないため、客観的な評価が不十分である可能性があります。
Q9 専門誌に掲載になった学術論文ならば信頼できますか?
A 信頼のおける情報ではありますが、それは「現時点での評価」にすぎないので注意が必要です。なぜなら、研究が進めば一度掲載となった論文とは異なる事実が判明することもあるからです。具体的な例として、緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンの情報があります。過去の研究ではβ-カロテンのがん予防効果が示唆されていましたが、そののちの研究によって、肺ガンのリスクの高い人がサプリメントとしてβ-カロテンを摂取するとがんの発症率が増加することが分かりました。緑黄色野菜を摂取することと、β-カロテンを精製・濃縮したサプリメントの形で摂取することは違うことであるため、緑黄色野菜の摂取とがん予防の可能性は今でも否定されてはいませんが、このように、研究を続けていくと「それまで常識とされていたこと」が覆されたり、同じ物質でも「効能がある」ことと「害がある」ことが別々の時期に分かったりすることがあります。近年は特に技術の進歩によって実験法などが改良されるスピードも速いため、次々と新しい研究成果が蓄積されています。科学的根拠の信頼性を維持していくためには、常に新しい情報をチェックする必要があります。

さらに論文自体がもつ問題もあります。「(有用でも有害でも何かしら)作用があった」という研究結果は、研究者が進んで公表し、論文を書いて投稿し、専門誌にも掲載されやすい一方で、「(益も害も)作用がなかった」という研究結果は公表されにくい、という問題があります。たとえばある食品成分について「1日×mgを×ヶ月に渡って×人に投与したが、統計的に有意な身体的変化は認められなかった」という研究結果は、一見すると価値がないように思われるかもしれませんが、こうした情報は「ヒトが食べても大丈夫な量」を推測するときには重要な資料となることがあります。このようなことから、情報の信頼性を高めるためには、掲載になった論文だけではなく、複数の科学的情報を総合的に解析する必要があります。
Q10 インターネットなどで情報を調べる場合、どんな点に注意すればよいですか?
A 注意点として以下のことがあげられます。
1.情報の出典が明記されているか…学術論文では、他の多くの論文を参照(引用)し、文末にその出典を一覧としてまとめて書くのが一般的な形式です。学術論文でなくても、その情報の引用元、著者名、発行年、などが書いてあれば信頼性の判断材料になります。
2.情報ソースはどこか…健康や食品に関する情報であれば、医学・薬学・栄養学などの専門誌、厚生労働省や研究機関などが信頼性の高い情報ソースとなります。テレビや新聞の情報は、いわば、これらの専門誌や公的機関が発表したことを「二次的に報道した」ものに過ぎません。また、「報道者(情報の発信者)の主観的なコメント」と「実験による客観的な事実」は別のものですが、それらが混同されて「ひとかたまりの情報」として提供されている場合もあります。「誰かの主観的意見」と「自然科学の客観的事実」は区別してとらえることが必要です。
3.新しい情報かどうか…科学的根拠となる情報は毎日のように発表・蓄積されています。古い情報をそのまま引用していないか、最新の情報をフォローしているかどうかもチェックポイントになります。
4.情報と広告がきちんと区別されているか…いろいろなところで見られる「健康に関する情報」は、「ある商品を販売するための広告」として流されている可能性があります。「科学的根拠のある情報」と「企業のための広告」は区別するべきものですが、閲覧者に分かりづらいこともありますので注意が必要です。
Q11 情報がどれくらい信頼できるか、どうやって見分けられますか?
A 以下は、「科学的根拠のある情報」のまとめにもなります。参考にしてください。
1.具体的な研究か:体験談は具体的な研究ではない
2.研究対象はヒトか:細胞や動物の実験結果は、そのままヒトには当てはめられない
3.論文報告があるか:学会発表ではなく学術論文として専門誌に掲載されたものか
4.研究デザインはどうか:信頼性を評価できるだけの研究規模はあるか、統計的に意味はあるか
5.複数の研究で評価されているか:ひとつの研究だけでは信頼性が高いとはいえない
健康情報の信頼性
(健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック(第一出版)第3版 p332 より引用)
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