市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
早期の段階ではほとんど自覚症状などのないがん。自覚症状が現れた段階では既に手遅れなどと言われても患者は途方に暮れるばかり。PET診断は早期発見の切り札か。

『F-18-FDG PET/CTの「がん」を診るチカラ (1)』


セントヒル病院 セムイPET診断・放射線治療サイト
放射線室長 菅 一能
1 FDG PET/CTとは?
F-18-FDG(エフディージー)PET(ポジトロン-エミッション-コンピューティッドトモグラフィ:陽電子断層撮影装置)は、ブドウ糖に似た2-デオキシ-2-フルオロ-D-グルコース(FDG)を陽電子を出すF-18(フッ素-18)で標識した薬剤を注射し、身体がブドウ糖を取り込む様子を画像にする検査法です。盛んに増殖しブドウ糖を多く取り込む「がん細胞」を見つけ出すことができます。食事を抜き注射後1時間ほど安静にし、検査台の上で約30分程じっとしているだけの穏やかな検査で、現在、全国で200を超える施設で稼動しています。腫瘍の形や大きさを見るCTなどの他画像検査と異なり、代謝活性に基づいて腫瘍を診断します。最近では、PET単独装置よりも各臓器や病変の形を詳細に描出するCTを組み合わせたPET/CT合体装置によるFDG PET/CT検査が主流になっています。FDG異常集積が身体のどこにあるのか正しく判定できCT形態像との対比も行なえ、より精度の高い検査が可能です。

2 FDG PET/CTによる「がん検診」
近年、2-3人に1人は「がん」で亡くなる状況にあります。「がん」を早期に見つけ出し克服するためには、「検診」が重要であることに異論はありません。厚生労働省では、「がん検診受診率50%達成」を目標にして、「がん検診」を推奨しています。最近ではFDG PETを「がん検診」に用いる施設が増加しています。日本核医学会と臨床PET推進会議が行なった、2008年度の「FDG PETがん検診」を実施した全国58施設の総受診者38,929人の調査では、発見されたがんは合計496件あり受診者の1.27%(100人に1.2人)の割で「がん」が見つかっています(FDG-PET所見陽性0.98%、陰性0.30%)。しかし、さまざまの「がん」を見つけ出すのにFDG PET やPET/CT検査はパーフェクトではありません。このため多くの施設では、血液中の腫瘍マーカーや内視鏡検査、超音波検査などを併用して「がん検診」を行なっています。発見された「がん」では、大腸癌、肺癌、甲状腺癌、乳癌が多く、他にも前立腺癌、胃癌、悪性リンパ腫などさまざまの悪性病変が見つかっています。「がん」は早期に見つけ出せば、最近の進歩した治療により苦痛が少なく短期入院と少ない費用で克服できるチャンスがあります。一般に「がん検診」の有効性は、受診者集団のがん死亡率を低下させるかどうかで評価されますが、「FDG PETがん検診」のこの観点からの有効性は、まだ結論は出ていません。しかし、冒頭に紹介した受診者のように、本検診を受けられ「がん」を克服された方が多くおられるのも事実です。医療は「治療してもらう」という受身ばかりではなく、能動的に予防し自己管理(セルフメディケーション)すべきという考え方が広まりつつあり、「がん検診」を積極的に受けられる方が増えています。全身を見渡して検査のできるFDG PET/CTは、他検査と組み合わせて行うと、「がん」発見の精度が高まるといわれています。高い精度を強調すればするほど「がんが見つかったら恐い」と尻込みされる方もおられますが、勇気を奮って検診を受けて下さい。検診はご自分の為だけでなく、ご家族やご自分が支え、あるいは支えられている人のためにもなると考えます。

3 FDG PET/CTによる「がん診療」
 FDG PET/CTは、全身臓器の「がん診療」において、病変の検出のみならず、良悪性の判定や悪性度、治療方針決定に重要な病変の広がりの評価、さらには放射線・化学療法の治療効果判定や手術後の経過観察にも幅広く有効です。病変の良悪性の判定は、悪性の方がFDG集積程度が高いことによりなされます。悪性の中でもFDG集積が高いものは、腫瘍の増殖する力が強く、転移や再発をきたし易い傾向があります。「がん」が見つかった時の治療方針の決定や、手術後に再発が起きた時の適切な対処のためには、病変局所のみならず、リンパ節や他臓器や骨に転移がないかどうかの判定が重要です。全身を一度に検索できるFDG PET/CT検査は、これらの判定を行うのに他の画像検査以上の能力を持っています。「がん」が他の画像検査で見つけられた時、本検査で予期せぬ転移巣や再発巣が見つかることも稀ではありません。他の画像検査に本検査を追加することで、1/3以上の患者さんで治療方針が変更されるため、最近では「がん診療」において必要不可欠な検査の1つになっています。また、リンパ節転移が先に見つかったものの、どこの悪性病変から転移したのか他の画像検査で見つからない場合がありますが、FDG PET/CTでは、約3割の例で原発病変を見つけ出すことができるとされています(図1)。1つの「がん」に罹った患者さんの100人に2-8人の割合で、他の「第2のがん」が同時または年数を経て重複して発症すると言われています。「第2のがん」は治療方針に大きく影響を及ぼし重要で、早期に見つけ出せば、治療により克服できるチャンスがあります。高齢化社会になり「第2のがん」も増加傾向にありますが、FDG PET/CT検査は「第2のがん」の発見にも有用です(図2)。

 FDG PET/CTの「がん診療」における有用性が広く認識され、平成22年4月から、本検査の保険適用は、早期胃癌を除く悪性病変に拡大されました。保険適用の詳細は、医師向けの出版物で恐縮ですが、核医学会から出されたFDG PET、PET/CT診療ガイドライン 2010を参照ください。
http://www.jsnm.org/guideline/20100330


図1
原発不明癌のFDG PET/CT検査:肺転移巣や頸部リンパ節転移巣が先に見つけられていたが(左;矢印)、どこの悪性病変から由来したものかが不明であった。 FDG PET/CT検査により右咽頭へのFDG異常集積を認め、ここが原発巣であったことが判明した(右;矢印)。

図2
重複した肺癌と乳癌のFDG PET/CT検査:胸部X線写真とCTで見つかった肺癌の質的評価と初期ステージングのためF-18 FDG PET/CT検査で、左上葉の肺癌と同側縦隔リンパ節への転移巣と左腸骨骨転移巣に加え(左、中央;矢印)、右乳腺にもFDG異常集積が認められ(右;矢印)、肺癌と同時に乳癌があることが判明した。

4 FDG PET/CTによる「がん治療計画」
FDG PET/CTは、治療前に「がん」の広がりを評価する病期診断に有用で、これに基づいて最良の治療戦略が選択されます。放射線治療を行なう場合の治療計画に本検査を参照する施設は増加しており、腫瘍床を正確に放射線照射野に入れるのに活用されます。米国では、肺癌にFDG PET/CT を放射線治療計画シミュレーションに導入すると、約30%の例で放射線の照射量や照射範囲を変更するなどの必要が生じたと報告されています。FDG PET/CTにより正確な放射線治療計画をたてるためには、呼吸の動きによる位置ずれの改善や、腫瘍床の大きさをより正確に描出する手技などに解決すべき課題もありますが、今後、改善されていくと考えられます。

5 FDG PET/CTによる「がん治療効果判定」
最近では、各種の「がん」に対し、進歩した化学療法、放射線治療が行われており、治療効果を早期に正しく判定することが重要になってきています。治療効果判定は、通常、サイズの変化を診ることで行われますが、治療効果があるのにも関わらずサイズの変化に乏しく、治療効果を正しく判定し難いこともあります。治療により壊死した「がん」細胞が吸収されていくのに時間がかかるからです。治療が有効であった「がん」では、サイズの変化に関わらず、ブドウ糖の取り込みは早期から減ってきますので、ブドウ糖の取り込みを診るFDG PET/CT検査は、『実質的な治療効果』を早期に判定するのに適しています(図3)。化学療法後や化学放射線治療後に手術が行われる場合には、第一段階の治療完了後の治療方針決定のために有用です。全身を見渡せるFDG PET/CT検査は、病変が複数ある場合でも総合的な治療効果判定が行なえる利点があります。
 「がん」の種類や治療法により、治療に反応したFDG集積低下の程度や速さは一律でないため、FDG PET/CTで『治療効果』を判定するのに適した時期は、異なります。一般には、化学療法後では2-12週後、放射線治療後では8週-3ヶ月後に判定するのが良いとされています。


図3
FDG PET/CT検査による肺癌の治療効果評価と経過観察:①に示すように治療前には左肺の肺癌にFDGの高集積が見られたが(矢印)、②の放射線・化学療法後では、CTで腫瘍はまだあるがFDG集積は顕著に低下した(矢印)。手術され組織検査で肺癌細胞は見られず瘢痕化していた。③に示すように手術後1年経過した時点で、再発や転移は見られない。

6 「がん」治療後にも役立つPET/CT
化学療法や放射線治療後、手術後には、病変局所のみならずリンパ節や他臓器の転移などの再発がないかどうかを監視することは大事です。最近では、比較的小さく限られた再発巣に対する治療戦略も発達しているからです。全身を見渡せるFDG PET/CTは、「がん」治療後の経過観察において、他の画像検査以上の能力を持っているとされています。治療後に再発がないかどうかは、血液検査で腫瘍マーカーの動きでも判定されますが、異常値を示しても他の画像検査で検出できない再発巣や転移巣が、FDG PET/CTで見つかることは稀ではありません。手術、放射線治療による変形や瘢痕などのため他画像検査で再発の有無が確認困難な場合にも有効です。

以上、FDG PET/CTは、各種「がん」の発見から診断、治療前の病期診断と治療方針の決定、治療計画に加え、治療効果判定、手術後や治療後に再発がないかどうかの監視にも幅広く役立つ検査法です。読者の皆様には、「がん検診」が「がん」克服の最も有効な方法であり、その1つの検査法としてFDG PET/CTがあること、「がん診療」においてFDG PET/CTが必要不可欠な検査法となっていることをご理解いただければ幸いです。


略歴
セントヒル病院 セムイPET診断・放射線治療サイト
放射線室長 菅 一能 (すが かずよし) 

昭和54年山口大学医学部卒業、山口大学医学放射線科に入局、下関市立病院、厚生連長門総合病院放射線科勤務を経て、平成8年から山口大学医学部附属病院放射線部 助教授。この間、平成7年にアメリカ合衆国コロンビア大学プレスビテリアン医学センターに文部省在外研究員として留学。平成18年から、医療法人聖比留会セントヒル病院セントヒル病院セムイPET診断・放射線治療サイト 放射線室長として現在に至る。日本医学放射線学会専門医認定医、日本核医学会認定医、PET核医学認定医、マンモグラフィ乳癌検診認定医。連絡先:〒755-0155 山口県宇部市今村北三丁目7-18(電話0836-51-5111)E-mail:sugar@sthill-hp.or.jp
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