市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
緩和ケアが、がん治療の初期段階から取り組むことが大切で、患者さんとご家族が自分らしい生活を送れるようにするための医療とケアであると理解されるためには

『Orange Balloon Project をご存知ですか?』


広島県緩和ケア支援センター長 本家好文
 このプロジェクトは、「がん対策基本法」において、がん患者さんの療養生活の質の向上のために「緩和ケアを推進すること」が定められたことから始まりました。2007年、厚生労働省から日本緩和医療学会に委託され、緩和ケアの普及啓発を目的として広く国民に親しまれるようにという願いを込めて「オレンジバルーンプロジェクト」と命名されました。

 プロジェクトのミッションのひとつは、がん治療の初期段階から緩和ケアに取り組むことが大切だと伝えることです。「緩和ケアは死を待つだけのあきらめの医療」と誤解している人が多いなかで、「緩和ケアが、がん患者さんの苦痛を取り除き、患者さんとご家族が自分らしい生活を送れるようにするための医療とケア」であることを知っていただくことです。

 もうひとつのミッションは、医療用麻薬をはじめとする薬剤への偏見をなくして、痛みをはじめとする心身の苦痛緩和にも目を向けていこうというものです。わが国のがん患者さんに対する痛みの治療は、決して満足できるものではありません。がんの痛みを取り除くために必要な医療用麻薬が、全国どこで生活している患者さんたちに対しても適正に使用できるように、「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会」も全国で実施されています。緩和ケアを専門とする医師だけでなく、がん診療を行っている多くの医師が緩和ケアの技術と知識を提供するための取り組みです。

 こうした活動によって、医療者と国民が「緩和ケア」を正しく理解することで、がん治療にも積極的に取り組めるようになると思っています。


「Orange Balloon Project」  http://www.kanwacare.net/


そこが聞きたい
Qがん患者は仮に寛解していても朝起きると今日は再発していないか、転移は、などといつも再発・転移の恐怖に苛まれます。緩和ケアは痛みなどの身体的なことだけでなく、一見元気に見える患者にとっても大事なことですね。

A 緩和ケアは末期がん患者さんを対象にしたケアと考えられてきましたが、抗がん治療中の患者さんでも治療による苦痛や、再発・転移への不安を感じている方はたくさんおられます。緩和ケアは病気の時期にかかわらず、必要に応じて利用することが大切です。

Q再発した患者にとっては、「じゃあ、どうする」という不安とも戦わなければなりませんし、具体的な治療の対応にも追われます。

A 再発後に行われることが多い抗がん剤治療による吐気、倦怠感・食欲不振などの苦痛症状についても、緩和ケア部門に相談すると良いでしょう。

Q 骨転移などで痛みが激しくなったりすれば、痛みを取り除くことに重点が置かれるでしょう。痛みは非常にQOLを下げますので、痛みを抑えられればかなり患者さんとご家族が自分らしい生活を送れるという目的が達成されますが、医療用麻薬に対する考え方が、医師にも患者にもまだ十分理解されているとは言えないようですね

A国によって有効性と安全性が確認されている医療用麻薬と、法律で使用が禁止されている不正麻薬あるいは覚せい剤との違いが十分理解されていないのが現状です。医療用麻薬は、痛みのある人に使用した場合には中毒にはなりませんが、痛みのない人に使用すると中毒症状を起こすことが証明されています。

Qがんの三大治療の中でも放射線治療はIT技術革新のメリットをもっとも大きく受けて、最近高精度の照射が可能になり、手術に勝るとも劣らないような治療成績を示しているようです。本家先生は放射線治療医でもあられたわけで、放射線治療が根治療法の主流の一つになりつつあるばかりでなく、上手に使えば痛みの緩和にも大変役立つことは十分ご承知ですので、もっと、疼痛緩和にも放射線治療を活用したらと思いますが。日本人はとにかく薬が好きですから、痛みと言えば鎮痛剤ということになるのでしょうが。

A がん患者さんが痛いと訴えたからと言って、原因がすべてがんによるとは限りません。がんの根治療法と同様に、痛みの治療を適切に行うためには、まず原因をきちんと診断することが重要です。そのうえで薬物療法を中心とした治療を行うべきなのか、放射線治療の併用が有効なのかを適切に判断する必要があります。

Q薬と言っても良いかもしれませんが、Sr-89なども上手に使ってあげられると患者にとっては福音になると思いますね。

A Sr-89には治療が実施できる施設が限られていることや、コストの問題などがあります。しかし、骨転移による疼痛治療法としては有用な手段ですので、適応をきちんと判断することが重要です。

Q結局一つですべて解決するというのは困難でしょう。薬や放射線などを組み合わせて上手にその時々の状態に対処するというのが大事だと思いますが、問題は、そういう色々なことを組み合わせられるように専門家が少ないということではないでしょうか。

A これまでも、がんの三大治療法である手術・放射線・化学療法などを適切に組み合わせる集学的治療の重要性が説かれてきました。今後は、抗がん治療とともに身体的精神的苦痛に対する緩和医療を含めた「包括的がん医療」という考え方が重要になります。
また専門家同士の連携を密にして、チーム医療を機能させることも重要です。放射線治療医は全身のがんを扱っていますので、チーム医療における各部門の橋渡し役として、中心的役割を担う立場にあると思います。

Q嘆いていても何も変わりませんので、本家先生のような方々がシステム的にそういう専門家を教育してくださるような仕組みがないといつまでたっても解決しませんね。個人的な努力には限界がある。

A 教育は非常に重要です。医師になってからの教育だけでなく、医学部学生時代から系統的に教育していく必要があります。近年になって医学部に緩和医療学講座が設置されるようになり、緩和医療の重要性も徐々に認識されてきているように感じます。また、手術療法・放射線療法・化学療法・緩和医療などについて、治療法ごとの有効性や副作用を正しく理解している「腫瘍医」の育成が重要な課題と言えます。



略歴
本家好文(ほんけ よしふみ)

昭和50年、広島大学医学部卒業後、広島大学医学部附属病院、広島赤十字・原爆病院、放射線医学総合研究所、広島総合病院などで放射線治療医としてがん治療に従事。平成5年より「緩和ケアを考える会・広島」の会長として緩和ケアの活動に取り組む。
平成12年、国立病院呉医療センター緩和ケア病棟を立ち上げ、平成15年、県立広島病院内に設置された広島県緩和ケア支援センター開設準備室に赴任。平成16年9月から広島県緩和ケア支援センターの運用に従事している。広島県緩和ケア支援センター長、県立広島病院緩和ケア科主任部長、広島大学医学部臨床教授。日本ホスピス緩和ケア協会副理事長。

日本緩和医療学会(代議員)、日本癌治療学会(代議員)、日本ホスピス・緩和ケア協会(副理事長)日本死の臨床研究会(世話人)、広島県緩和ケア病棟連絡協議会(代表)、広島がん疼痛治療研究会(代表)、広島県緩和ケア推進協議会(委員長)、雑誌「緩和ケア」(編集同人)、雑誌「がん看護」(アドバイザー)などを務める。

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