市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
今年も世界禁煙デーの季節だ。喫煙による発がんは喫煙者の自己責任にとどまらない。

『肺がん・乳がんと受動喫煙』


北海道 深川市立病院内科部長
松崎道幸
【毎年4千人の女性が夫の喫煙で肺癌死】
 タバコと関係の深いがんと言えば肺がんです。肺がんは死亡数が最も多い女性のがんです。厚生労働省研究班は肺がんと受動喫煙にどれだけ関係があるかを調査し2008年に発表しました。それによると、日本女性の肺がんの8割を占める腺がんの37%(実数で毎年約4千人)が家庭での受動喫煙(夫の喫煙)に関連があることがわかりました1)。タバコを吸う配偶者を持つ非喫煙女性が肺の腺がんにかかった場合、半分は夫のたばこのせいであると言うことができます(図)。受動喫煙は家庭よりも禁煙でない職場のほうが濃厚で長時間続きますから、飲食店などで働く女性が受動喫煙にさらされると、肺がんの危険はもっと高くなるでしょう。



【閉経前乳がんは禁煙と受動喫煙防止で半分に減らせるようだ】
 乳がんは最も多くの女性がかかるがんとなりました。エストロゲンが多いこと、飲酒、運動不足、放射線などが乳がんと関連していると言われますが、最近、日本人の乳がん、とくに、乳がんの半数を占める閉経前の乳がんが喫煙と受動喫煙で増えるようだということが分かってきました。

多くの人々を長年追跡調査し、乳がんを患った方とそうでない方の生活習慣を詳しく調べた結果、日本人はタバコを吸うと約2倍乳がんにかかりやすくなる可能性があることが分かりました2)

さらに、閉経前の方に限って調べてみると、タバコも吸わず、家庭や職場での受動喫煙もない人を基準にすると、タバコは吸わないが受動喫煙のある人は2.6倍、タバコを吸う人や吸っていた人は3.9倍乳がんにかかりやすくなっていました3)。(図)



 この調査結果は、タバコは吸わないが家庭や職場で受動喫煙のある人にとって、とても大事です。もし家庭や職場が完全に禁煙になれば、閉経前に乳がんにかかる危険が3分の1近くに減る可能性があるからです。

 タバコを吸っている方にとっては、禁煙を実行しかつ受動喫煙のない環境で生活をするようにしたなら、乳がんの危険が4分の1に減る可能性がありますから、一刻も早く禁煙に踏み切るようお勧め致します。

【がん予防のために飲食店・レストランの完全禁煙を】
 日本の飲食店従業員281万人中22万人が未成年者(女子13万人・男子9万人)、93万人が20歳から49歳までの女性です。つまり、飲食店従業員の約4割は、タバコの煙に含まれる発がん物質に傷つきやすいこどもと閉経前の女性です。乳がんと肺がんの予防のためにも、飲食サービス産業を完全禁煙にする必要があります。

 飲食店の禁煙が話題になると「分煙でもよいのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、喫煙室あるいは喫煙区域からのタバコ煙の漏れを完全に防ぐことは不可能ですし、タバコを吸わない従業員を「喫煙区域」内で働かせることになりますから、受動喫煙防止になりません。

 最後に、レストラン、バー、パブを完全禁煙にした世界中の多くの国や都市では、経済的にマイナスの影響はなかったという結論が出ていることを付け加えておきます4)

世界禁煙デー2011イベント一覧
http://nosmoke.xsrv.jp/event/wntd2011/index.html




【参考文献:】
1)受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関連について-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/309.html

2)Nagata C, et al. Tobacco smoking and breast cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2006 Jun;36(6):387-94.

3)Hanaoka T et al. Active and passive smoking and breast cancer risk in middle-aged Japanese women. Int J Cancer. 2005 Mar 20;114(2):317-22.

4)松崎道幸.サービス業(バー・レストラン・ホテル等)を法律で完全禁煙にしても売り上げは減らなかった―海外の経験のまとめ―. 禁煙会誌 第3巻第4号 2008年8月1日
http://nosmoke.xsrv.jp/gakkaisi/200808/index.html#matuzaki

略歴
松崎道幸(まつざき みちゆき)

1975年 北海道大学医学部卒業後、北海道大学医学部第1内科学教室、国立札幌病院血液内科、市立旭川病院循環器内科、江別市立総合病院内科、札幌市南保健所を経て、 1984年深川市立総合病院内科勤務、現在、内科部長、日本禁煙学会理事 2002年厚生労働省「喫煙と健康問題に関する検討会」委員として「新版喫煙と健康」における受動喫煙の慢性影響に関する報告書の作成にあたった。
所属学会  日本呼吸器学会・日本内科学会・北海道学校保健学会
専門分野  呼吸器内科・禁煙教育・禁煙指導・喫煙関連疾患の疫学
論文、講演等多数、医学博士

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