市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会

『がんと心もよう(1)~治すのはあなた自身です~』


日本メジフィジックス株式会社
吉村 光信
【ある日突然】
 例えば、思いがけないことからがんが見つかり、医師から「根治療法はなく3ヶ月の余命です。しかも、いつ腫瘍が肺にとんで動脈をふさぎ、呼吸不能で頓死するかわからない。」と宣告されたとしたら・・・。

筆者は放射性医薬品の製造・販売する医薬品会社で長年、新薬の臨床開発に従事し、現在、ストロンチウム-89という骨転移疼痛の緩和剤(がん医療の今No.48東京医大 吉村真奈先生の寄稿ご参照)に携わっています。

2006年12月、健康診断でたまたま肝がんがみつかり、当初、手術可能とみられていたのですが、いつの間にかがんは肝静脈にそって右心房に達しStageⅢb。手術や局所治療も適応はなく、肝がんの常識からは冒頭のとおりの状況でした。しかし、幸い専門家も驚くような過程を経て完治に至りました。現在のところ明らかな再発所見はなく、自らが開発に携わった薬の世話になることはありませんでした。

本稿では、一般の方が、がんと直面された時の心がまえのご参考になればと思い、その体験と、患者として感じたこと、現在の想いなどを紹介させていただきます。

【治療経過】
 外科手術ができない肝がん。とはいえ当時から、肝がんには著効する化学療法があるわけでなく、肝臓内科を受診してもあまり薦めてはくれませんでした。そこで記憶にあった5-FU(抗がん剤)の肝動脈注入とインターフェロン併用療法についてたずねたところ、東京では杏雲堂病院の小尾俊太郎が臨床試験をされているとのこと。後にこの「市民のためのがん治療を考える会」で小尾先生が講演されていることを知り、本会の創立委員である西尾先生に紹介状を書いていただきました。何かの縁があるものですね。

ところが、5-FUを動脈注入のために血管造影をしたところ、肝動脈は正中弓状靱帯で圧迫され動脈注入するためのポートが留置できないことが判明しました。とはいえ、他に治療方法もないわけで、仕方なく5-FUは動脈注入ではなく点滴静注することになりました。

小尾先生も最初から効果は期待されていなかったようで、その1ヶ月後に効果判定に画像診断を頼んだのですが、「そんな1ヶ月ぐらいでは効果はないですよ。」という返事でした。と言いつつも、翌日CTを施行してもらったところ、「吉村さん、劇的に効いてますよ!」という小尾先生の驚きの声でした。
その後、肝外に伸びた腫瘍は徐々に縮小、ついにがんが肝臓内に限局して切除可能となり、2007年6月に東京医科歯科大学 肝胆膵・総合外科 有井 滋教授に執刀してもらって、今日に至っている次第です。有井教授はその2週間後に開催された日本肝癌研究会の会長を務められ、会長講演の中で「内科と外科のコラボレーションが功を奏した1例」として、私の症例報告がなされました



【いきなりそこまでおっしゃいますか】
 当初、手術を目的に受診した専門病院の外来でのこと。肝切除を前提に撮り直したCT画像に、肝がん右心房まで伸展しているのをみつけた医師は、その“喜び”を隠せないふうで手術できないと告げ、面談説明書には「標準的な根治療法はない」と大きな文字で書いてくれました。また、「心臓の腫瘍がはがれて肺動脈の起始部を詰めると頓死に至る。これだけは安静にしていてもどうしようもない。」さあ、どうするといった感じでした。もちろん、これはあくまで、患者側の印象です。

杏雲堂を受診した時、「来年の桜が見れるか見れないかくらいかな~」というのが小尾先生の最初の言葉で、私は内心「オー、そうくるか!」と感心しました。仕事柄、局所治療の適応のない肝がんの平均余命が3ヶ月程度であるとの知識はありました。それを伝えるのに、はかなさ漂う桜を使った表現がうまいと感じたからです。小尾先生の病院には手術不能の多くの患者が他施設から紹介され、毎週のように患者を看取らざるを得ないような医療現場で、「患者に無念さを残させないのが我々の仕事です。」と推定寿命を告げられた理由を補足されていました。

私の場合、いつ頓死しても不思議でない状態だったので、以上のような説明は無理からぬことだったとは思います。しかし、医学業界になじみの薄い一般の方が、このような言葉に突然さらされると、頭が真っ白になるのではないかと懸念します。



【悪い知らせのとらえ方】
がん告知の衝撃でガラスのようにもろくなったこころは、医療者や周囲の人々の、患者側からすれば無神経な、心ない言動で容易に壊れてしまうので取扱注意が必要です。

正確な余命の推定は1ヶ月以内でなければ困難です。医師が伝える生存期間は、類似した患者集団における中央値という平均的生存期間であって、決してその患者自身の余命ではありません。それより長生きする確率も十分あります。ただ、医師の立場に立てば短めに伝える方が安全です。短めの余命を伝えて、それ以上長く生存できれば名医となるし、逆に、より短命に終われば、そんなはずではなかったのではということになります。このことを心に留めておくとよいでしょう。

「悪い知らせの伝え方」に関する臨床腫瘍医におけるコミュニケーション・スキルは、我が国では最近やっと教育資料が作成された段階です。若い医師による事務的ながんの告知を受けて、うつ状態になる患者が少なからずいるとのこと。その一方、告知は医師にも辛いことで、それがストレスとなり精神的バランスを失っている医師もいるようです。

不幸にも医療者の心ない言動に傷つきそうになった時には、この人たちは正解のある問題に解答するのは得意でも、患者のこころというアナログ的な課題には苦手なんだと思えば、余計なストレス・怒り、不信感をそらすことができるかも知れません。

日本では現在2人に1人が生涯にがんを発病するといわれています。これほど確率的に平等な病気は他にないと思います。これは夫婦のいずれかががんになる確率です。「どうして私ががんに」ではなく、妻でなく自分でよかったと考えることも可能です。また、この数値は、完治可能な初期段階のがんの早期発見が可能となったことも反映しており、「がん=死」という時代ではなくなっています。

私は、「人は自らが進化するのに一番適した環境のもとに生まれる。人には乗り越えられないハードルはこない。」という考え方が気に入っています。そう考えればどんな過酷な状況でも受け入れやすくなりきます。「宇宙は絶対にあなたをつぶさない。」という、昔、知人から聞いた言葉が、がんの告知を受けた時から常に支えてくれていました。

この考えで、たとえ私の子ども達が幼くして父親を亡くすということがあっても、彼らにとってそれなりの意味があることだろうと教えています。ただ、私の父と母は私が9歳と12歳の時にがんで他界しており、自分と同じような人生を送らせるのもいかがなものかとは思いますが・・・。  



【セカンドオピニオン】
治療法を自分でも考え、納得できる治療法をみつけるために、セカンドオピニオンも重要です。私の場合、前述の治療で昼間は暇だったので併用する治療法を探していました。標準治療はないため、重粒子線治療以外にも、高度先進医療にも指定されていないカテーテルで腫瘍に抗がん剤を注入するIVR治療、養子免疫療法など、保険外照射の高価な治療法も様々検討しました。ただし、適応がなかったり、高額な割にはきちんとした臨床データが示されてないなど、自分に合理的なものはないと判断しました。現在はワクチン療法など新たなアプローチが急速に進み臨床研究がなされています。そのプロトコールに合致・参加できるか研究機関に問い合わされるとよいでしょう。

逆に、がん治療の研究を主とした医療機関や大学で治療を断られても、決して落胆しないで下さい。このような施設では、その施設での臨床研究の対象となる条件から少しでも外れる患者、あるいは、自施設の治療成績を高く保つため、治療成績効果があまり期待されないような患者では断る場合があると言われています。 私が外科手術を受けた東京医科歯科大学 肝胆・膵外科のホームページには、「他の病院で手術できない難しい症例も、積極的に手術していますので、是非ご相談ください。」との記載があります。それでありながら、当大学の治療成績は全国平均と比較しても良好です。私の場合、いったん腫瘍が心臓まで伸展したような危ない患者ですから、他の大学での手術適応の基準には合致しておらず、当大学であったからこそ手術してもらえた訳です。 がん治療は情報戦であるとも言われています。このような医療機関にぜひとも巡り会って下さい。  



【サプリメント・補完代替医療】
日本では、がん患者の45%が補完代替医療を利用しており、その96%は漢方を含む栄養食品・サプリメントということです。しかし、現在のところ、がんに対する直接的な治療効果(がんの縮小、延命効果など)を証明する報告はほとんどありません。中には、患者の状態によっては避けたほうがよいものもあるようですので、詳細は四国がんセンターのホームページ(http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/dl/index.html#DL02)をご参照下さい。 ただ、直接的な治療効果を示すデータがないということがすなわち、その療法がその人に無効ということではありません。私の場合、サプリメントやアーユルヴェーダのハーブも含め、自分で納得したものは経済的に許される範囲で使用していました。また、消化器内科の友人が紹介してくれた里芋パスタによる湿布を妻にやってもらいました。問題がなければ、何かをしてあげたいという周囲の思いを受け入れるのも、患者の社会的な役割だと思います。

がん治療においては、正常細胞のごとく身を隠しているがん細胞を見破り攻撃できる自らの免疫力が決め手になると考えています。この免疫力はストレス、絶望感、うつ状態により極端に低下します。

私は超越瞑想(Transcendental Meditation)という瞑想を時間が許す限り行っていました。この瞑想は精神的・身体的ストレスを低減するということで多数の医学・科学論文が公表されており、がん患者に対してはQOLの改善に有効であるという報告があります。また、マインドフルネス瞑想という釈迦の教えにヒントを得た認知療法を、初期乳がん患者に導入してストレスを減少させることで、免疫機能、QOLの改善をもたらしたという報告もあります。

期待していたほど治療結果がでない時、否定的な想念がよぎるかもしれません。そういうときは、「否定的なことを考えている自分がいる」と認識し、その想いと、事実・自分とを切り離し、否定性・絶望に巻き込まれないようにしましょう。

オーストリアの精神科医で、ナチスに強制収容所へ送られたヴィクトール・フランクルは、「絶望が人を死においやる。医師はそれに荷担してはならない。」と述べています。  



【治すのはあなた自身です】
フランクルは、また、以下のようにも述べています。

「強制収容所において人々の生死を分けたのは、多くの場合、ものごとへの対処の仕方を決めるのは自分だということを自覚しているかどうか、その苦しみの中に生きる意味をみつけられるかどうかであった。」

「人間だれしもアウシュビッツ(苦しみ)をもっている。あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない。あなたを待っている「誰か」や「何か」がある限り、あなたは生き延びることができるし、自己実現できる。」


私が実践した補完代替療法は、西洋医学にはない身体に滋養・活力を補充するというものが中心で、西洋医学を無視するのは危険です。ただ、私は生命に対する不可思議さ、畏敬の念から、病気の治癒にはプラセボー効果を含め、人間が持つ自己治癒能力が非常に重要だと考えています。そのために、西洋医学的では根拠がないとされるようなことも含め、いろんな治療法も検討しました。その奥には、このような行動をつうじて、がん治療を医者任せにするのではなく、どんな時でもあきらめることなく、自分で治すのだという強いメッセージを、自らの身体に向かって伝えたいという思いがありました。  

略歴
吉村 光信(よしむら みつのぶ)

1979年 九州大学理学部生物学科卒業。同年、日本メジフィジックス(株)入社。 1988年より放射性医薬品の臨床開発に従事。2001年よりがん骨転移による疼痛の緩和剤 塩化ストロンチウム-89の臨床開発、薬事申請、マーケティングを担当。NPOキャンサーネットジャパン公認 がん情報ナビゲーター。

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