市民のためのがん治療の会
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ジェネリックの効果や安全性は大丈夫なのか?

『ジェネリックは「先発品と同じ薬」ではありません~短絡的すぎる「薬剤費の抑制=ジェネリックの使用促進」という図式』


武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
編集子は国民健康保険の運営協議会委員を委嘱されているが、先般の協議会で、ジェネリックの使用を促進する葉書を配布することとなった。ところがその葉書のジェネリック薬品についての説明に「効果、効能、安全性は先発品と変わりがない」というくだりがあり、「効能はともかく、効果や安全性については先発品と変わりないというデータはないのではないか、この文言は削除すべきでは」という意見が出されたが、 国の政策でもあるということもあり、結局実施された。
国が国民の身体生命財産を保護する責務から新薬(先発医薬品)の認可に際して厳しい措置を講じていることについては、それなりに理解はできるが、ジェネリックについての効果と安全性について先発医薬品同様の厳しいチェックがなされているかどうかは、疑問が残る。
そこで、多田 智裕先生に編集子の質問を加え、ご意見を転載させていただいた。(會田昭一郎)
このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35101
に掲載されたものを医療ガバナンス学会発行「医療ガバナンスNEWS2011年10月11日」に転載されたものです。
東京都保険医協会が作成した、「ジェネリック(後発医薬品)は医者に相談して」
( http://www.hokeni.org/top/download/pdf/2012generic_a4.pdf )と題したポスターに対して議論がわき起こっています。
このポスターではジェネリックは「新薬と同じ成分効能か?」と問いかけます。そして「ジェネリックの効能にはばらつきがあります」「効能格差は最大40%」と続き、「ジェネリックの中で効くものを医師と相談しましょう」と締めくくっています。
これに対して、日経新聞は4月22日「医療界は後発品普及を促せ」と題した社説を掲載。「医療費削減のために(ジェネリックを)主体的に普及を促 すべき医療界が、(中略)一部の医師の意識改革の遅れにより、(中略)誤解させる文言を含んだポスターを作成した」と、このポスターが“患者の正しい理解 を助けない”と論じました。
日本ジェネリック医薬品学会( http://www.ge-academy.org/ )も東京都保険医協会に対して内容の変更や回収を求める質問状( http://www.ge-academy.org/img/iken120326.pdf )をホームページに掲載しています。
特許が切れた医薬品をより安く提供するジェネリックの役割は十分に分かります。しかし、ジェネリックを「先発品と同じ薬で値段が安い」と説明することこそ、逆に患者の正しい理解を助けないばかりではなく、事の本質を見えなくしてしまうのではないかと私は思うのです。


●なぜ医師団体は「ジェネリックの使用は慎重に」と呼びかけるのか
4月から施行された「一般名処方」加算20円を算定している医療機関においては、処方された薬が商品名ではなく成分名で記載されます。
例えば、今まで発行される処方箋に「ガスター」(胃酸を押さえる胃薬の商品名)と記載されていたものが「ファモチジン」(ガスターの成分名称)となります。今までとは違う名称が処方箋に記載されていて戸惑われた方もいらっしゃるかもしれません。
医師が“商品名“でなく“成分名“で処方箋に薬を記載するようになると、実績重視で先発医薬品を選ぶのか、値段を考えてジェネリックを選ぶのか、のアドバイスは、薬の調剤を行う薬剤師に委ねられることになります。ですから、「一般名処方」制度の本質は、これまで医師が独占してきた「処方権限」の一部が薬剤師に委譲されることに他なりません。
もしも、先発医薬品とジェネリック医薬品の効果が同じであれば、医師と同じ6年間の教育と実習を受けた薬の専門家である薬剤師が調剤できるようになるのは、効率が良い制度だと言えるでしょう。
しかし、欧米の例を見ても、血圧の薬やてんかんの薬などのジェネリック医薬品の中には、効果が不十分または不安定で、使用が推奨されていないものが存在するのはまぎれもない事実です(参考:メルクマニュアル医学百科 http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec02/ch017/ch017c.html )。
「ジェネリック=価格の安い薬」と説明されていることが多い現状では、治療の最終的な責任を背負う医師団体が「ジェネリックの使用は慎重に」という呼びかけを行うのは、決して“意識改革が遅れている“からではありません。


●アメリカではジェネリックは先発品とは「別の薬」と認識
そもそもジェネリックは「後発医薬品」とも呼ばれており、新しく開発された薬(先発医薬品)の20年間の特許が切れた医薬品を他の製薬会社が製造して発売したものを指します。
有効成分名とその分量が判明しているので、ジェネリックメーカーはほとんど開発費用をかけることなく薬を製造できます(新薬開発には約200~1500億円程度かかるのに対して、ジェネリックは1億円程度です)。
薬剤原価のみで製造できると言っても過言ではなく、そのため「先発品の2割から6割の価格で販売できる」という説明には間違いはありません。
でも、ジェネリックは「先発医薬品と同一の有効成分を同一量含有している」だけであり、添加物などは異なります。先発医薬品と決して「同じ」ではないのです。
この議論の出発点は、厚労省および、ジェネリック医薬品学会も同じです。
話が変わってくるのはこれから先です。
厚労省およびジェネリック医薬品学会は、「添加剤の成分や配合量が先発医薬品と異なっていても、承認審査においては生物学的同等性試験を行なっている」から「先発医薬品と同等の安全性と有効性が担保されている」と結論づけます(「ジェネリック医薬品への疑問に答えます」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/kouhatu-iyaku/dl/02_09.pdf 厚生労働省)。
分かりやすく言うと、「(省略しても良いと思われる試験は省略しているが)必要とされる試験は行った上で承認しているので(先発品と同じと思って)問題ない」ということです。
考え方の違いと言えばそれまでですが、アメリカにおいては、ジェネリックは先発品とは「別の薬」と認識されています。そして、承認基準項目が少ない以上、発売後に第三者機関による「先発医薬品と同等かどうかの品質再評価」が必要と考えられています。
ジェネリックに変更して薬の効果が明らかに低下した症例や、添加物による副作用と思われるアレルギー症例を経験している医師は、私を含めて数多くいると思われます。
実際に一人ひとりの体内に取り込まれてどのように作用するかについては、承認基準だけですべて判明するわけではないのです。
東京都保険医協会が冒頭のジェネリック医薬品学会の質問状に対して答えた文面はこちら
( http://www.hokeni.org/top/public/generic/2012/120416generic.html )で確認できます。厚労省の求める承認基準にこだわることなく、発売後の品質評価の結果の公表を積極的に行い、基準に満たないジェネリックのランク付けが必要である、という意見は十分理解していただけるのではないかと思います。


●特許切れ先発品価格の価格を引き下げるのがベストの解決策
それよりも私が一番の問題だと思うのは、「質を落とさない薬剤費の抑制方法=ジェネリックの使用促進」という短絡的な図式が、多くのメディアおよび世間一般において当然とされていることです。
これまで述べてきたように、ジェネリックは先発品と“同一”ではありません。ですから「質を落とさない薬剤費の抑制」の一番正当な方策は、「特許切れの先発品価格をジェネリックと同じ程度の価格にする」のです。
先発品は臨床試験も行われていますし、副作用情報も十分に揃っています。また、20年間の特許期間中に開発費の回収は終わっています。
そして、先発品メーカーにしてみても、ジェネリックメーカーにシェアを奪われるよりは、特許終了後は価格を安くしても売り上げと利益を上げた方が、新薬開発の研究費に回せる金額が多くなるのは間違いないでしょう。
調剤薬局が在庫を揃えるのに四苦八苦するほどの数多くの種類のジェネリックを製造するより、特許切れ先発品の薬価を下げることこそが、“同一”の薬品をみんなが安く利用できるベストの方法だと私は思います。



そこが聞きたい
Q消費者(患者)としては同じ効果と安全性が保証されさえしているのでしたら、安い薬の方が良いでしょうが、どうも色々と医師や薬剤師などに伺ってみると、医療現場では「このジェネリックは効かない」とか、「あれは大丈夫だ」などの評価があるようで、患者としては不安になります。

A 実績重視で先発医薬品を選ぶのか、値段を考えてジェネリックを選ぶのかは個人の価値観によるところも大きいです。現実的な対処法としては、医師や薬剤師によく相談して、納得できた場合にのみジェネリックを処方してもらうのが良いと思います。

Q特に私たちはがん患者団体ですから、抗がん剤などの中には、かなり血中濃度など厳密な品質管理が求められるような薬もあると思うのですが、そういう薬などでは、効果がちゃんと出るのかどうかなど、心配になります。

A ジェネリックは健康体の方10名程度において血中濃度をチェックするだけで承認されますので、実際の患者さんに使用した際の薬物血中濃度が異なる場合はよくあると思います。特に、治療有効域が狭い薬剤の場合にはジェネリックに変更するだけで効果が変わる可能性を十分に認識して切り替えるのが良いと思います。

Qそのように日常、医療の現場においてみられる医薬品又は医療機器の使用によって発生する健康被害等(副作用、感染症及び不具合)の情報を、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などは情報収集しているのでしょうから、情報は相当蓄積しているのではないでしょうか。

A“副作用報告は義務づけられている“と解釈されていますが、薬事法には「保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるとき」に報告しなければならない、となっています。ですから、実態としては、ジェネリックの副作用であると思われても、先発品に戻せば副作用が解消されてしまうため、ほとんど報告されていないと思われます。

Q先生のおっしゃる通り、薬剤師は薬の職業的専門家として、患者にジェネリックのことについても正しく説明しなければならないと思いますが、私もたくさん薬を処方してもらっていますが、少なくとも私が処方してもらったジェネリック薬品は、医療現場サイドでもそんなに悪い情報はない、ぐらいのことは教えてもらいたいですが、聞いても全く要領を得ません。

A 情報の蓄積と周知がなされていないのが一番の問題です。患者も医療者と同様に副作用情報を行政に直接報告できる仕組みが施行されています。是非積極的に協力頂ければと思います。
http://www.info.pmda.go.jp/fukusayou_houkoku/fukusayou_houkoku_attention.html

Q総医療費を抑制することは大切でしょうから、先生のおっしゃるように、開発費を回収できた薬を、安く提供してもらえれば患者も、財政も大いに助かりますね。

A制度としては、特許切れの薬剤については、競争原理を導入する方法が考えられます。具体的には、先発品価格をジェネリックを含めた価格の加重平均に引き下げてしまう仕組みです。ジェネリックメーカーは、先発品に対抗して価格を引き下げるか、プラスαの効能で勝負するかなど、切磋琢磨する環境の中での生き残りが求められます。

Qもう一つの問題は、DPC(包括診療報酬制度)ではないでしょうか。DPCを採用している医療施設では、それぞれの疾病によって診療報酬が決められてしまいますので、何が何でもジェネリックを使わないと病院の利益が少なくなる。そこでジェネリックを使うのでしょうが、先生のご指摘のように、「ジェネリックに変更して薬の効果が明らかに低下した症例や、添加物による副作用と思われるアレルギー症例を経験している医師は、私を含めて数多くいる」ということになると、そういう情報を得た患者は先発薬品を使って欲しいと思う。でも、先発品を使って欲しいと言っても使ってもらえないということもあるようですね。

ADPCの中に包括されている薬剤の場合には、先発品を使用すればするだけ病院の赤字となりますので、問答無用でジェネリックになってしまう場合もあるようです。抗がん剤のように、使えば病院の丸ごと持ち出しになってしまうような高額な薬剤については、DPCから外すのが一番良い解決策であると思います。

QもともとDPCは「薬漬け」「検査漬け」にして売り上げをあげるような悪質な医療機関をなくすために導入されたようですが、現実は決して患者のためにはなっていませんね。

ADPCは医療費の総額を決める制度です。無駄な検査や薬がなくなるのは良いのかもしれません。でも、その一方で、医療費に制限がかかるため、個々の患者に応じた「万全の医療」ではなくなってしまうのもまた厳然たる事実です。

Q製薬会社は大きなスポンサーであるせいか、メディアでもジェネリックのことをまともに取り上げているのを、寡聞にして知りません。その中、市民にも実情がよく分かるようなご寄稿をいただきました多田先生に、心から御礼を申し上げますとともに、一日も早くジェネリック問題が、患者のためになるように改善されることを希望します。本当にありがとうございました。

A現状では、ジェネリックメーカーは国策上かなり優遇されているのではないかと私は思っています。アメリカの場合は、ジェネリック薬の値段は先発品の5-10%程度にまで価格競争により下がります。日本における「ジェネリックは先発品価格の70%」という縛りは、「50%」にまで下げられたようです。それでも、開発費用をほとんどかけていないジェネリックメーカーが先発品価格の50%で薬剤を売る事ができるということです。リスクを取って新薬を開発する先発品メーカーよりも、ジェネリックメーカーが高い利益率を享受している状況は不公平だと思います。ジェネリックが超格安に患者の手に渡るようになって初めて、ジェネリックの真の恩恵を患者が受ける事ができるようになったと言えるのではないかと思います。


略歴
多田 智裕(ただ ともひろ)

平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。
日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士

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