市民のためのがん治療の会
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日本の閉塞状況にブレイクスル―はあるか

『ガラパゴス島』


(株)エーイ-ティー(株)アキュセラ 代表取締役社長
東京大学大学院非常勤講師 田辺 英二
政治経済はもとより、様々な社会現象を見ても日本の閉塞状況は一向に改善されない。
こうした状況はがん医療を取り巻く環境にも重苦しくのしかかっている。 ご研究、事業展開等を含め海外でのご経験も豊富なエーイーティー代表取締役社長で東大非常勤講師でもある田辺先生に、大きな視点からのご提言をお願いした。(會田 昭一郎)
ダーウィンが乗ったビーグル号は1831年12月、英国のプリマス港を出航し、大西洋から南米大陸最南端を経て1835年9月にガラパゴス島に上陸した。遠く大陸から隔離されたこの島の生物は、長年にわたって独自の進化をする事により、サボテンを食べるイグアナや、陸にしか住めない巨大ゾウ亀の固有種が多く存在し、この調査がのちのダーウィンの進化論に発展する。子供の時にわくわくして読んだ「ビーグル号航海記」は環境の変化が生物の進化に重要な役目を果たすことの証明であり、人間も含めて生物はすべからく育つ環境により大きな影響を受ける。いわゆるガラパゴス現象である。それは自然が美しく、空気や水に恵まれ、四方を海に囲まれて、外敵もなく、十分な食料とともに長らく善意と良識をもって暮らしている固有種は独自の生態系を形成する。日本島をこれにたとえると海外には関心を持たず、ゲームと携帯電話を主食にし、競争を嫌う大人しい草食動物は、世界の常識からかけ離れた行動パターンを示す。またその環境で育った多くの大企業も、日本独自のマーケットを目指した護送船団型の製品(携帯端末、地デジTV、ICカード、カーナビ、パソコン、各種家電)開発をすることのみに奔走し、グローバルなルール作りに対してチーム参加をすることもなく、海外に雄飛する肉食型セールスマンの激減とともに、世界中へのビジネス展開が出来ずに低迷している。また、あと20年もすると多くの会社や銀行が、近く大陸に生存する戦い上手な外敵の侵入を受け、看板には多くの外国文字が町や地方に溢れる事になる。金融に至っても、一時は国際金融センターであった東京は、世界のスタンダードから大きく立ち遅れた日本の金融、会計、税制、銀行システムの独自性により凋落の一途であり、香港やシンガポールにも大きく差を開けられてしまった。官僚や政治の世界でも日本特有の話が多々見受けられる。特に日本の将来を担う子供達に対する旧態然とした教育システムは、思考能力が奪われて絶滅していく固有品種のみを育てる助けとなりつつある。
それでは一体何をどうするべきなのか?ひとつ方向はこれを是として、平和に固有種として生息を続ける。しかしいつかは時間とともに自然淘汰が起こり外敵によりゾウ亀のごとく絶滅の危機に瀕する。もうひとつはこの生態系を全く変えてしまう事であるが、残念ながら進化論によると多大なる時間がかかってしまう。したがってサボテンがまだ十分に島にあるうちに、自然界では存在しない自らの力による突然変異を起こさない限り、我々自身もイグアナになってしまうだろう。この突然変異を起こすためには、最初に全く新しい教育と政治システムを取り入れることであるが、まず多くの一般市民に新しい考え方を理解して頂く必要がある。実はこれがアベノミクス第3の矢と呼ばれる“イノベーション”の第一歩であるが、教育や政治、社会システムが変わらずに第3の矢が的をえる事はないだろう。



略歴
田辺 英二(たなべ えいじ)

1975年、米国デューク大学大学院博士課程終了後、スタンフォード大学とバリアン社にてハイパサーミア、高電界加速器の開発研究に従事。1986年、シリコンバレーにて AET Associates, Inc.を設立、社長に就任。1988年、川崎市にて株式会社エーイーティージャパンを設立、代表取締役社長に就任。2001年、東京工業大学原子炉工学研究所講師に就任。2002年東京大学大学院工学研究部門非常勤講師に就任。2005年、株式会社アキュセラを設立、代表取締役に就任、2008年、国家プロジェクトとしてがんの早期診断に対応できる次世代の高精度ロボット型放射線治療装置の開発を開始。 著書論文多数、パテント保有数34件。
所属学会:IEEE、AAPM、電子情報通信学会、応用物理学会、日本医学物理学会、日本放射線腫瘍学会、日本ハイパーサーミア学会、日本医学放射線学会、日本電磁波エネルギー応用学会
「市民のためのがん治療の会」創立委員
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