市民のためのがん治療の会
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検診の患者の身体的な負担の軽減

『MRI「無音化」への試み』


GEヘルスケア・ジャパン株式会社
代表取締役社長兼CEO 川上 潤
がん患者だけではないが、MRI検査を受けた方も多いと思う。だが、あの検査時の工事現場のような大音響には、ほとほと閉口させられる。耳栓やヘッドフォンを装着するなど様々な工夫もなされているが、それにしても参ってしまう。 がん患者ならずとも病状等の診断などのために、様々な検査を受けるが、検査自体も場合によっては命に係わる事故が発生することもあり、患者にとってはできるだけ安全で、負担の軽い技術の開発が求められている。 今回はその中でもひどい騒音に悩まされるMRIの「無音化」に取組んでおられるGEヘルスケア・ジャパン株式会社の川上潤 代表取締役社長兼CEO に同社のMRIについてご寄稿いただいた。 (會田 昭一郎)
MRI(磁気共鳴断層撮影装置)に入られたことのある方は、あの「ブゥーッ、ブゥーッ」「ビィーッ、ビィーッ」という大きな音にびっくりされた経験をお持ちかもしれません。身体を切らずに、外から体の中を写し出す画像診断技術は日々進歩し、中でも放射線を使わず磁気の力で体内の画像を作ったり機能を表したリすることのできるMRI検査には、大きな期待が寄せられる一方で、この大きな音が長年の課題となっていました。

あの大きな音はなぜ聞こえるのでしょうか。これは、装置の中にあるコイルと呼ばれる強い磁石が検査中に振動するために発生する音で、検査の種類にもよりますが、大きいときには100dB(デシベル)以上という、工事現場のような激しい騒音となっていました。これまで、発生する騒音をいかに小さく抑えられるかという「静音化」への試みを実施したMRI装置の開発はありましたが、「音そのものを発生させない」技術は残念ながらありませんでした。少しでも音を和らげ患者さんの負担を軽くするため、耳栓をして検査を受けていただいてきましたが、高齢の患者さんや小さなお子さんには負担が大きく、課題となっていましたGEヘルスケア・ジャパンは、2013年9月、世界初(2013.9.10発表時)、音のしないMRI撮像技術である「SILENT SCAN(サイレントスキャン)」を発表しました。GEヘルスケアが開発したこの技術は、今までのMRIと全く違ったデータの取り方を採用、専用のソフトウェアとハードウェアを用いることで、スキャンをしていない状態での環境音に対して、スキャン中もわずか3dB以下という音量増でのMRI検査を実現しています。


現時点ではMRI検査で行われる撮影のうち、いくつかの撮影に対してのみSILENT SCANが適用可能となりますが、「MRI検査はうるさい」というこれまでの常識を変えるための大きな第1歩であり、MRI検査の全てでSILENT SCANが適用可能となるよう、引き続き技術開発を行っています。

GEヘルスケア・ジャパンは、医療における技術革新に加え、「患者さんにとっての快適さ」をより追求し、「人にやさしい、社会にやさしい」製品開発を進めてまいります。

(製品薬事情報: SILENT SCAN技術搭載のMRI: ディスカバリーMR750w, 医療機器認証番号223ACBZX00061000)


 そこが聞きたい
Q このたびはRSNA(北米放射線学会)ご出張等、ご多用の折柄ご寄稿いただきましてありがとうございました。
ところで、関西大学の梶川嘉延教授などが開発された装置は、逆の音の位相をぶつけて互いに音が打ち消し合う原理を使っておられるようですね。


A そのようですね。発生した騒音を人の耳に届かせないための新しい手法だと伺っています。MRIだけではなく色々な場面での応用が期待できるとお聞きしているので、とても魅力的な技術だと思っています。

Q 貴社の「SILENT SCAN(サイレントスキャン)」技術は、今までのMRIと全く違ったデータの取り方を採用されたそうですね。そもそもMRIの騒音は、コイルと呼ばれる強い磁石が検査中に振動するために発生する音を出すわけですが、データの取り方自体を新たに開発されたということでしょうか。

A おっしゃる通りです。
 MRI検査中はコイル内に電流を流す必要があるのですが、「SILENT SCAN」ではこの電流の方式を根本的に変えています。その結果、磁石が振動しなくなり、音を発生させないデータ収集というものが可能になりました。

Q 市民レベルですので専門的なことは分かりませんが、概略どのような仕組みでしょうか、お差支えない範囲で結構ですので、教えていただけますと助かりますが。

A 従来のMRI検査では、コイルに交流電流を使っていたため、電流の向きが高速かつ頻回に切り替わっていました。これがコイルの振動する原因で、騒音を発生させる原因です。一方「SILENT SCAN」では、コイルに直流電流を流しており、電流の向きが一定です。そのためコイルが振動しなくなったのです。
この話を聞かれると、今までのMRI装置でも直流電流を使えばよいのでは?という疑問がわいてくるかもしれません。実は、この手法を採用するにはいくつかハードウェア面での壁があったのですが、それも同時に「SILENT SCAN」で解決しています。

Q よく分かりました。貴社のご努力に敬意を表しますと共に、なるべく早くすべての検査で「SILENT SCAN(サイレントスキャン)」技術が活用されるようにお願いいたします。今後も患者にとって、安心、安全で、身体的にも負担の少ない検査機器の開発に一層ご努力いただきますようお願いいたします。

A こちらこそ、このような貴重な機会を頂き、ありがとうございました。
今後も「人にやさしい、社会にやさしい」医療を目指した技術開発、サービスの提供を通じて、患者さんにとってより快適な医療機器の開発に貢献できればと考えております。


略歴
川上 潤(かわかみ じゅん)

1987(昭和62) 年東京大学経済学部卒業後、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン株式会社、1994年、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン株式会社ニューヨーク事務所 勤務。
1997(平成9) 年日本ゼネラル・エレクトリック株式会社 企画開発部長に就任後、1999(平成11) 年GE エンジンサービス 北アジア地域統括 ゼネラルマネージャー、日本ゼネラル・エレクトリック株式会社 取締役、日本GE エンジンサービス株式会社 取締役を歴任。
2003(平成15) 年GE メディカルシステム・インターナショナル アジア サービスセールス&マーケティング ゼネラルマネージャーに就任、GE 横河メディカルシステム(現:GE ヘルスケア・ジャパン)株式会社常務取締役 サービス統括本部長、同 常務取締役 営業本部長、 同 常務取締役 画像診断機器統括本部長、同 取締役副社長 画像診断機器統括本部長、同 取締役副社長 ヘルスケア統括本部長を歴任、2011(平成23) 年同 代表取締役社長兼CEO に就任(現職)現在に至る
この間、1994(平成6) 年ノースウェスタン大学 MBA 取得
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