市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
新刊紹介:「がん」を通して俯瞰する社会構造

『がん患者3万人と向きあった医師が語る-正直ながんのはなし―』


北海道がんセンター名誉院長
「市民のためのがん治療の会」顧問 西尾正道
このところ健康に大きな影響があるにもかかわらず、正反対の消費者情報が提供され、患者=消費者は戸惑うばかりだ。その一つががん治療についての情報で、医療関係者の懸命の努力で様々な治療法が進歩し本書にもあるように、がん患者の半数は長期生存できるようになり、手術、放射線治療、化学療法に次ぐ第4の治療法の研究も盛んにおこなわれ、これらの情報も沢山提供されているが、近藤誠先生の「医者に殺されない47の心得」では、がんは原則として放置した方がいい、と全く異なる主張をしている。
もう一つががんとも大いに関係のある福島原発問題だ。野田・前首相、安倍現首相共に収束宣言をし、学者による安全情報が政府広報によって大量に提供されているが、一方で一向に解決できそうもない事実が次々に報道され、「鼻血事件」に象徴されるように消費者が判断しかねる報道が飛び交っている。
このような状況下で、かねてから医学的な見地からだけでなく、社会経済的な見地からがん医療について情報発信を続けておられる西尾先生に、これらの問題を科学的根拠に基づいて解説をお願いしようということになり、旬報社の木内社長と會田が西尾先生と討論する形で取材をし、論点をまとめたものが本書である。 多忙の中丁寧な編集を行っていただいた木内社長には心からお礼を申し上げたい。
(會田昭一郎)
 福島原発事故から3年経過し、日本は『ナンデモアリ』の世の中となっている。原発事故に対する人権を軽視した為政者の姿勢と対応は、近隣のアジア諸国以下とも言える。こうした為政者の姿勢は、時代錯誤の「特定秘密保護法」を成立させ、権力の悪用により「集団的自衛権」を閣議決定した。このままでは日本も徴兵制となるであろう。戦後レジームの終焉と、新たな戦前のレジーム構築がなされているのである。
 チェルノブイリ事故後の対応は主に国の命令で軍人が携わり、石棺を作って放射性物質を閉じ込めている。しかし日本では労働者を掻き集め、賃金のピンハネまでして働かしている。今後、100~300年かかる廃炉までの過程で労働力は確保できず、戦争ばかりではなく、原発事故収拾のために徴兵制となるだろうと私は考えている。
 また、住民に対しては充分な賠償もなされず、生活や家族の繋がりを奪うばかりでなく、職業被ばくの線量限度と同等で、放射線管理区域の4倍近い年間20mSv(外部被ばく線量)の所にまで住まわせている。これは現行の多くの法律に違反した対応である。さらに帰還を促している見識のなさは国民の健康も奪うこととなる。
 ご都合主義的に後だしジャンケンで被ばく線量限度や種々の規制値を緩和するのでは国民はたまったものではない。年間5mSv(外部被ばく3mSv+内部被ばく2mSv)以上の区域は強制移住とし、移住を余儀なくされた人達には、日本のような仮設住宅ではなく永住できる住居を与え、すくに同じ仕事を与えたチェルノブイリ事故対応とは雲泥の差である。
 また私が40年間関与していたがん医療においては、がんと診断されても放置を勧めたりする馬鹿げたオカルト教祖のような医師に騙される患者さんも出ているがん医療の状況にも呆れている。
 さらにTPPの問題では、関税などが話題とされるが、実は最も深刻なのは健康問題である。国は貿易摩擦を避けるために、農薬の規制値は大幅に緩和され、遺伝子組み換え食品も大量に摂取する日常生活となる。これらの化学物資は高い発がん性だけではなく、子どもの神経発達障害を起こす毒性も明らかとなり、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群を含む)、ADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)と診断される発達障害の子どもが激増している原因となっていることが分かってきた。このため、EU加盟二七カ国は、予防原則に基づいた配慮で、昨年からネオニコチノイド系農薬は規制・禁止が始められ、また遺伝子組み換え食品は禁止されている。これと比較すれば、日本は為政者の出鱈目さと国民の民度の低さが組み合わされた結果であるとしても、将来深刻な健康被害が危惧されます。
 がんを含めた多くの疾患は食の生活習慣と関係しています。がん患者の増加は高齢者が増えたからだと言う軽薄な医師もいますが、それだけではなくがん罹患者は若年化していることも大きな要因です。それには戦後の大気中核実験による放射性物質の世界的な汚染や農薬や化学物質も関係しているのです。
 今後は海洋汚染により流出し続けているストロンチウムなどの放射性物質は生物濃縮され、海産物を食す人間の内部被ばくも深刻となります。食品汚染の実測体制を構築し、そのデータを基に健康被害を分析することが必要ですが、充分には行われていません。戦後の生活の在り方や文明そのものの見直しまで考えなければならない時期になっているのです。
 原子力政策を推進することを目的とした単なる民間NPO団体であるICRP(国際放射線防護委員会)の内容を盲信する御用学者や、「がん放置療法」を唱える近藤 誠医師に討論会を呼び掛けても決して応じてくれません。論破されるのが怖いのでしょう。そのため、この本を書くことにしました。また高齢社会のがん治療において主役となる放射線治療についても知って頂きたく項を加えました。本の帯には、「賢く生きるために知っておきたい放射線の光と影」と書かれています。今や国民病とも言えるがんについて正しく理解し、『反省はしても後悔はしない』人生を送っていただければと思います。
 国際原子力ムラに代表される「お金のための科学・医学」から「国民のための科学・医学」への転換が必要なのです。





内容

はじめに―国民の二人に一人はがんになる時代。がん患者の二人に一人が治る時代
第1章 もっと「がん」を理解しよう
第2章 がん患者が不安になる理由
第3章 放射線治療を知っていますか
第4章 高齢化時代のがん治療にどう対応するのか
第5章 患者会とセカンドオピニオン
第6章 TPPは健康にも影響を与える
第7章 原発事故による放射線被ばくを考える
(原発関係に興味のある方あのために、この章については節も掲載)
1 低線量被ばくがもたらす健康被害を知ろう
2 チェルノブイリ児との比較で考える
3 ICRP(国際放射線防護委員会)の役割は何か
4 原発作業員の被ばくを考える
5 地域住民の健康管理はどうなっているのか
6 甲状腺がんの問題を考える
7 内部被ばくの影響を知ろう
8 鼻血論争について
あとがき―賢く生きよう

旬報社 2014年8月5日刊 定価1400円+税
略歴
西尾 正道(にしお まさみち)

1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科に勤務し39年間、がんの放射線治療に従事。 がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、改善するための医療を推進。「市民のためのがん治療の会」顧問
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