市民のためのがん治療の会
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4月9日「子宮の日」に因んで

『子宮がんに対する放射線療』


独立行政法人 国立病院機構 福山医療センター 放射線治療科
(前 広島大学病院放射線治療科)
兼安 祐子
先週に引き続き、兼安先生のご寄稿をご覧ください。
今週は放射線治療の具体的なお話です。
(會田 昭一郎)
放射線治療の方法
リニアックという治療装置を用いて体の外部から放射線をあてる外部照射とラルスという治療装置(図3)を用いて 体の中から放射線をあてる腔内照射を組み合わせて治療します。 外部照射は子宮と子宮頸癌が転移を起こしやすい骨盤内のリンパ節に対して行います(図4-1)。 腔内照射は子宮の内部から病巣に集中的に放射線をあてる治療です(図4-2)。通常は、外部照射から治療を開始し、 後半に腔内照射を組み合わせて治療を行います。全体の治療に要する期間は約6~7週間です。 入院で治療を行うことが多いですが、外来通院での治療も可能です。 放射線治療は手術と異なり、腫瘍を切り取る治療ではありません。 がん細胞に一定期間放射線をあてることで、細胞分裂ができずにがん細胞を死滅させる治療です。 放射線をあてたその日に効果がでるのではなく、数週間後から効果が出始めます。 腫瘍縮小の程度は患者さんによって異なり、日々の内診で観察します。 患者さんの全身状態や体調、腫瘍の縮小程度などにより、抗がん剤と組み合わせるのか、 外部照射と腔内照射の組み合わせ方や線量はどうするのかなど患者さんごとに個別化した治療を行います。

図3 ラルス
図3
イリジウム-192 リモートアフターローデイング装置
この本体からチューブの中を通って小さい線源がアプリケータの中へ移動したり、入れ替わったりします。

図4 線量分布図
図4-1 図4-2
図4-1 図4-2
図4-1外部照射の線量分布図
 赤い領域が一回二グレイ均一に照射されます。
図4-2腔内照射の線量分布図
 赤い曲線は一回六グレイ照射されます。 それより内側は、中心に向かって、山の等高線のように更に高い線量が照射されます。

外部照射の方法
 治療開始前の準備として皮膚に印をつけてCTを撮影し治療位置を決めます。 CT画像をもとに治療範囲や治療線量を決定します。 治療範囲は通常子宮とその周囲のリンパ節で、前後左右の4方向から放射線の治療を行います。 1回の治療時間は約10分間で治療台の上で仰向けに横たわり安静にした状態で行います。 月曜~金曜の毎日1回、週5回で、合計25~30回 の治療を行います。 外部照射の治療時は、 骨盤内の小腸をできるだけ照射野の外へ外す目的で膀胱内にある程度の尿が貯まった状態で治療をします。

腔内照射の方法
 子宮と腟のなかに器具(アプリケータ)を挿入し、その中に放射線を出す線源を入れる治療です(図5)。 子宮の中から、病巣部に高い線量の放射線を集中してあてることが出来ます。1週間に1回で3~4回程度行います。 治療の方法は、子宮の中に金属製のアプリケータを一本と腟の中に先にプラスチック製の球がついたアプリケータを2本挿入し、 ネジとガーゼで固定します。アプリケータを入れる時に痛みを感じることがあるため、 挿入前に鎮痛剤(坐薬や注射)で痛みを軽減させます。 これらのアプリケータ挿入を、腟および腹部からの超音波検査下に施行します。 膀胱の中と直腸の中に放射線の量を測るための管を入れます。 レントゲンを撮影してアプリケータの位置を確認し、レントゲン写真をもとに放射線の量を計算し治療時間を決めます。 アプリケータを治療機械に接続し治療を開始します。照射時間は10~20分程度で、照射中に痛みなどは感じません。 照射終了後、ガーゼやアプリケータを取りはずします。以上すべてに1時間30分くらいかかります。

図5 子宮頸がん腔内照射に使用するアプリケータ
図5-1
図5-1フレッチャー式アプリケータ

図5-2
図5-2 子宮腔および腟内にアプリケータが装着している模式図

抗がん剤治療
 進行がんでは放射線治療期間中に抗がん剤を使用すると治療成績が向上するとされています。 抗がん剤を併用するかどうかは年齢や体力などに応じて決定します。 通常は1週間に1回、上肢の静脈への点滴(静注化学療法)を5回程度行います。 また、6cm以上の巨大腫瘍、偏在する場合や腺がんなどは局所効果を高める目的で、 足の付け根から動脈にチューブ(カテーテル)を挿入して高濃度の抗がん剤を病巣に集中させて投与する場合 (動注化学療法)があり、3~4週間に1回、合計2~3回行います。

治療成績
 広島大学での、放射線治療による五年全生存率はI期80%、II期78%、III期50%、IVA期33%(1992-2006年、140例)で、 化学放射線療法(2003-2009年、29例)の四年生存率はII期100%、III期76%でした。 この化学放射線療法群は、抗がん剤が投与可能な全身状態良好な患者群です。 また、他院の報告ではIII期を腫瘍の容積や浸潤程度で小、中、大に分類した場合、 五年全生存率はIII期小中では65%程度、III期大では33%程度とされています。 一方、I-II期の早期がんのみの比較では、手術ではI-II期の三年生存率93%(2006-2008年、19例)で、 放射線治療ではI-II期三年生存率89%(2000-2008年、23例)と、治療成績は手術と放射線治療では同等でした。 放射線治療群は早期がんですが高齢や合併症などのために手術が困難な症例群です。

放射線治療の副作用について
急性期有害事象
 放射線治療中の主な副作用は下痢です。症状の程度には個人差があります。 症状が軽い場合は治療不要ですが、強い場合には、下痢止めの内服や、点滴治療を行います。 食欲低下、腹痛を伴う場合もあります。その他、膀胱への影響として、頻尿や残尿感、 排尿時痛などを認めることがあります。また、放射線をあてた皮膚の皮膚炎が生じます。 腟へのがんの浸潤が下方へのびている場合は、外陰部に放射線があたるため、外陰炎が生じます。 血液検査では、白血球減少が生じることがありますが、程度は軽度で、通常処置は不要です。 抗がん剤を併用した場合、副作用が増強することがあります。以上の症状は、治療終了~数週間程度で軽快します。

晩期有害事象
 放射線治療の晩期の副作用として、時に、治療半年~数年後に直腸や膀胱の粘膜炎のため血便や血尿が出ることがあります。 通常は経過観察することで治りますが、まれに処置を要することがあります。 その他、まれに小腸、下肢や骨の副作用として、腸閉塞、下肢リンパ浮腫や骨粗鬆症による骨折がみられることがあります。 多くは、保存的に治療します。閉経前の患者さんでは、卵巣に放射線があたることで、卵巣の機能が廃絶し、閉経します。 一方、少数ですが治療前に腹腔鏡を用いた手術で卵巣を照射野外に移動させて卵巣機能を温存し、 後に妊娠が成功したという報告があります。

その他
 子宮頸癌の放射線治療は入院で行うことが多いですが、外来通院での治療も可能です。 入浴は出血の程度や検査等により制限される場合がありますので主治医の先生と相談して下さい。 また熱いお風呂、長時間の入浴、サウナ、強酸性の温泉などは放射線による皮膚炎を増悪させることがありますので、 照射中?照射1ヶ月後ころまではさけて下さい。 牛乳、コーヒー、柑橘類などは放射線治療による下痢を増悪させることがありますので、 摂取をひかえるなど便の様子を見て適宜調節して下さい。下痢や膀胱炎の対策目的に水分は多めに取るようにしてください。

以下に早期子宮頸癌に対する手術と比較した場合の放射線治療の特徴を示します
長所 おなかを切らないですみます。
全身麻酔が不要で全身への負担が少なく、高齢や内科的な疾患のために手術ができない患者さんでも治療可能です。
子宮が残ります(上記のように、形態は残りますが通常は妊娠不可能です)。
通院での治療も可能で、日常生活への影響が少ないです。
生存率は手術と同等です。
短所 治療期間が6週間程度かかります。
放射線による上記副作用の可能性があります。
通常、照射野内の再発時に再度の放射線治療は困難です。
治療後の腟の癒着を防ぐために、拡張器などを使用する場合があります。
非常にまれですが、放射線による他のがん生じることがあります。

略歴
兼安 祐子(かねやす ゆうこ)

1985年 東京女子医科大学卒業後、同大学放射線科助手、2000年広島大学放射線科助手、 2008年同科診療講師、2014年福山医療センター放射線治療科医長。

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