市民のためのがん治療の会
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患者にとってのオンライン通院

『オンライン通院始めました~半年して見えてきたこと
医者にも患者にも大きなメリット 普及に向けて前向きな議論を』


武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
編集子も心筋梗塞の既往があり、定期検診で3ヵ月に1回、病院に行く。今のところは簡単な問診と血圧測定で薬を処方していただき、帰るだけだ。 もっとも胸部X線間接撮影や心電図測定などもあるので、矢張り病院に行かなければならないのかもしれないが、オンラインでできれば助かる。
また、処方箋は郵送していただくようだが、これもマイナンバなどを活用すれば、「かかりつけ薬局」にオンラインで送付できるかもしれない。
多田先生もご指摘のように、メリットも大きいので、問題点などをみんなで洗い出し、大いに検討してみる価値があると思う。
そこで今回は既にオンライン通院を実施して半年以上のご経験を踏まえてのご寄稿を、 武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科院長の多田智裕先生のご許可をいただき転載させていただいた。 なお、このレポートは多田先生がJBpress本年4月3日(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49580) にご寄稿されたものをご許可を得て転載させていただきました。いつもながらのご厚意に感謝いたします。
(會田 昭一郎)

皆さんは、パソコンやスマホから医療機関への通院が可能になるオンライン通院を体験したことがあるでしょうか?筆者が院長を務める病院ではこのシステムを導入してから半年間が経過しました。

オンライン通院は「遠隔診療」とも呼ばれます。保険診療では「遠隔医療は、あくまで対面診療の補完」と位置付けられており、 日本医師会は「診療報酬で手当するためには、患者にとって有用かつ安全であるというエビデンスを確認することが必要」との立場を取っています。

そうした事情のため、オンライン通院では「初診」(初めてその医療機関を受診する場合と、 同じ医療機関でも一旦症状が治癒して間隔が空いてしまった場合)は保険対象になっていません。再診しか保険対象にならないのです。

ICT(情報通信技術)を駆使して医療の効率化を進めたい診療報酬支払側は、外来患者の中の何割かはオンライン通院で十分に治療ができると見ています。つまり、対面診療は必ずしも必要ないというスタンスです。

一方、日本医師会は「患者の表情、息遣いなども含めて診るのが医療であり、スマートフォンで確認すればいいという問題ではない」というスタンスであり、オンライン通院をめぐって対立が続いています。

ふだんから診療にオンライン通院システムを使用している私としては、医師も患者も時間とコストを節約できるので非常に有用だと考えています。ただし“全員が対象となるわけではない”ことも実感します。

オンライン通院のメリットとデメリットをしっかり把握して、どこまでなら利用が可能なのか、前向きな議論が進んでほしいものです。

オンライン通院のメリットとは?

オンライン通院はどのように行われるのでしょうか。一例を挙げると次のような感じです。

診察予約時間の午前10時から10時20分の間に、患者さんにパソコンやスマホの前で待機してもらいます(医療機関の待合室で待っているのと同じイメージです)。 患者さんは医療機関から呼び出され、テレビ電話システムによって医師の問診診察を受けるという形になります。

診察前に入力した体調などの情報は画面下に表示されるので、情報を共有しつつ診察を進めることができます。薬が処方された場合には、処方箋が自宅に郵送され、その処方箋を近くの薬局で薬に引き換えます。

こうしたオンライン通院のメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

  • 24時間いつでもどこからでも診察予約可能
  • 病院までの移動時間や待合室での待ち時間を短縮できる
  • 診察前に体調などの問診情報を登録できるので、医師との情報共有が容易になる。また後日、自分で診療内容を見直すこともできる。
  • 診察終了と同時にクレジットカードによる決済が自動的に行われるので、会計を待つ時間が生じない。

ある程度のネットリテラシーは必要

しかし、実際にオンライン通院を行ってみると、トラブルも発生します。例えば、パソコンまたはスマホ側でカメラとマイクの使用を許可しないよう設定されていると、映像や音声が繋がりません。 スマホを使う場合は、通話圏外だともちろんつながりません。

また、最初の段階でアプリがダウンロードできない、ダウンロードしても氏名や住所を登録する方法が分からない、 クレジットカードを持っていない、など様々な理由でオンライン通院までたどり着けない患者さんがいます。

オンライン通院をするためには、やはりパソコンないしはスマホがある程度使えることが前提になります。

ちなみに、顔色や表情を含めて診察するという意味では、テレビ電話であればかなりの部分まで可能であると私は思っています。

メリットは多い、普及を進めるべき

現在の保険診療は対面診療を原則としているため、いわゆる「薬のみ外来」(薬の処方箋をもらうためだけの来院)の人が多数存在します。 また、検診センターや他院からの紹介状を持っていて病状把握に差し支えがないという場合でも、内視鏡検査を受けるためには内視鏡検査前の事前診察が必要となっています。

パソコンやスマホの操作に慣れており、ある程度まで自分の病状が把握できている人ならば、わざわざ薬の処方箋をもらうためだけのために、 また、検診の指示ないしは定期的なフォローアップの内視鏡検査の事前診察のためだけに半日を潰して医療機関を受診する必要はないと思います。オンライン通院で十分に事足りるはずなのです。

設定ミスで映像が映らないと、診察で得られる情報量が激減するため、医療の質が保たれなくなります。また、オンラインでの事前問診にうまく答えられないという方もいることでしょう。 しかし、医療機関までの移動時間と会計時間が節約できるというメリットを享受できる人たちがかなりの割合で存在するのは間違いありません。

もちろん対面診療に完全に取って代わるものではありませんが、医師と患者の双方の時間とコスト節約のためにも、オンライン通院の普及に向けて前向きな議論が進むことを期待します。


多田 智裕(ただ ともひろ)

平成8年3月東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部付属病院外科、国家公務員共済組合虎ノ門病院麻酔科、東京都立多摩老人医療センター外科、東京都教職員互助会三楽病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、日立戸塚総合病院外科、東京大学医学部付属病院大腸肛門外科、東葛辻仲病院外科を経て平成18年武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科開設、院長。

日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本消化器外科学会、日本臨床外科学会、日本救急医学会、日本癌学会、日本消化管学会、浦和医師会胃がん検診読影委員、内痔核治療法研究会会員、東京大学医学部 大腸肛門外科学講座 非常勤客員講師、医学博士
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