市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
「キャンサー・サバイバーシップ」がんと共に生きるという考え方

『Over Cancer Together プロジェクト』


認定NPO法人キャンサーネットジャパン
事務局 山内 千晶
「がんの治療を続けながら、または治療が終わった後、普通の生活を送る人も多くなる」と言っても、 編集子の場合3期の舌がんでほとんどの場合舌を半部以上切除することになり、そうなると命は助かっても構音は困難で、筆談しかできなくなるだろう。 そうなると普通の生活はとても送ることはできない。
当会がこれからはがんは「治ればいい」から、「どういう治り方をするか」が大事だという主張をしている所以だ。
キャンサーネットジャパンが展開しておられるキャンサー・サバイバーシップは、このような問題も含め、 寛解したがん患者を中心にお互いの経験を共有しながら様々な問題を解決して行こうとする試みの一つだ。
この度、ご自身もがん経験者でがん体験者スピーカーや、キャンサーネットジャパン事務局スタッフとして活動中の山内千晶さんにご寄稿いただいた。
(會田 昭一郎)

現在、「日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死亡する」と言われています。 しかし、診断技術の進歩により、早期にがんを発見でき、治療法の進歩によって、がんによる死亡率は減ってきています。

その結果、がんの治療を続けながら、または治療が終わった後、仕事や家事、趣味、結婚、妊娠・出産、子育てといった、普通の生活を送る人も多くなり、 これからは、「がんを予防する」「がんを治療する」だけではなく、「がんと共に生き、充実した生活を送ること(=キャンサー・サバイバーシップ[以下、サバイバーシップ])」を考える時代です。

今後、がんはますます身近な病気となり、その中で、がんになっても暮らしやすい社会を作ることは、がん患者のみならず、全ての人に関わる大きな課題であると言えます。

■Over Cancer Togetherについて

OCTは、キャンサーとその家族、遺族、ケアをする人、友人など、広くがんに関係のある人々(=キャンサー・サバイバー)の草の根運動を支援する活動の一環として、 その趣旨に賛同した日本の40以上の団体や米国パートナー団体が協力しながら、スピーチ研修やサバイバーフォーラムの開催など様々な活動を行っています。

「Over Cancer Together~がんを共にのりこえよう~(OCT)」キャンペーンは、 キャンサー・サバイバーが自分の体験を語り、その話を聞くことで、日本のがんに関する課題を明らかにして 「がん患者を含む国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会(*1)」の実現を目指そうというキャンペーンです。性別、年齢、がんの種類は問いません。

OCTは、リブストロング財団と米国がん協会のキャンサー・サバイバーの草の根運動を支援する世界的な活動の一環として、 その趣旨に賛同した日本の多数の団体が協力しながら、「キャンサー・サバイバー・フォーラム」の開催などさまざまな活動を行っています。


 活動の内容としては、①スピーチ研修(サバイバー・スピーキング・セミナー)②キャンサー・サバイバー・フォーラムの開催が主です。

① スピーチ研修(サバイバー・スピーキング・セミナー)

キャンサー・サバイバーが自らの体験を語ることの意義を知り、効果的な伝え方を学ぶことで、社会を変えていくための行動を起こすことを目的としています。 受講者には、座学による知識の習得のほか、ワークショップで実践的な技術を学びます。 さらには参加者間が交流を深めることで、それぞれの今後の活動の幅が広がることを期待しています。

2017年3月25日に開催した4回目となる本セミナーには、全国から約90通の応募があり、年齢、立場、がん種などが偏らないよう、慎重に選考した上で、30名が参加しました。


参加者は、ほとんどが初対面です。まずは、ゲームを取り入れながらの自己紹介タイム、アイスブレイキング*の後、第1期~3期のOCT卒業生4名による活動報告を聞きました。

数年前までは、「1人のサバイバー」に過ぎなかった卒業生が、このセミナーで何を学び、何を感じ、どのようにして第一歩を踏み出し、現在活動しているのか、というストーリーを聞くことで、 本セミナーのテーマでもある「体験談」がどれだけ力強いかを実感することとなりました。

その後、医療者、メディア、がん患者会代表など、がんに関わる各ステークホルダーが、それぞれの立場から、 キャンサー・サバイバーに期待することについて、参加者たちは自分のがん体験談をどう効果的に作成し、発表し、活動につなげるかを学びました。

後半は、実際に各自体験談を組み立て、グループで共有した後、各グループより代表1名が発表し、講評をいただいて閉会しました。

自分も発表したかったという声が多く聞かれ、参加者の活動への意欲の高まりを感じることができました。

また参加した医療者、メディア、企業、すでにアドボケートとして活動している患者会代表からも、「体験談は、人を、社会を変える力を持っている」というコメントをいただきました。

本セミナーへの参加を機に、卒業生の97%が「社会を変えることができる」との認識を持っていることが分かりました。(*2)


アイスブレイク中の参加者の皆様

*アイスブレイクは、「アイスブレイキング(ice breaking)」とも呼ばれており、 初対面の参加者の不安や緊張を「氷=アイス」にたとえ、その「硬い氷をこわす、溶かす」という意味を持っており、 自己紹介をしたり、簡単なゲームをすることで緊張をほぐし、実際の活動に入る準備運動のようなもの。



■同じ体験者が語る言葉の力が、新しい一歩を踏み出す勇気を与えます。

OCTについて詳しくお知りになりたい方は、下記のサイトをご覧ください。 http://www.octjapan.jp/



2017年3月25日開催 第4回がんサバイバー・スピーキング・セミナーにて

② キャンサー・サバイバー・フォーラム

認定NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)が2014年から毎年夏に企画・実施しているCancer Forum(*3)のプログラムの中でサバイバーフォーラムを開催し、 OCT卒業生がスピーチを行う機会を創出してきました。

OCTの卒業生はこれまでで120名となり(平成29年3月末時点)、CNJでは卒業生のうち、希望者を「キャンサー・サバイバー・スピーカー」としてWebサイトで紹介し、 要請に応じて自治体や学校、企業研修等の講師として紹介しています。 自身のがん体験を社会に発信することで、現実に直面している課題を多くの人に伝え、社会全体で取り組むことを目指しています。


2016年8月6,7日開催 Japan Cancer ForumでのOCTセッションにて

【文献・引用】

  • 厚生労働省「がん対策推進基本計画」(2012年6月)より
  • 2017年3月末に実施した第4回スピーチセミナー参加者30名に対するアンケート調査結果より
  •  (有効回答30名)
  • キャンサーネットジャパンが2014年から毎年夏に実施する, 患者・家族をはじめ, 医療従事者等がんに関わる全ての人のために最新情報の講義を届ける日本最大級のフォーラム。2016年までの3年間で1万人を超える参加者を集めている。
    http://www.cancernet.jp/jcf/

山内 千晶(やまうち ちあき)

30代で乳がんに罹患、それを機にキャンサーネットジャパンと出会い、現在はスタッフとして勤務。
OCT、がん体験者スピーカー(CSS)養成講座などを担当。
がんサバイバーはもちろん、がんに関わる全ての方にとって「暮らしやすい社会」となるよう、また、その架け橋となることを目指している。
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