市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
がん患者さんの就労支援

『医療機関での取り組みについて』


福井県済生会病院 集学的がん診療センター長
宗本 義則

がん患者さんの相談で最も多いのが医療費のことです。次に副作用、治療のことが続きます。 仕事・就労については当院ではがん相談の中の5%ほどですが、ここ数年増加傾向にあります。 また当院で加療しているがん患者さんの年齢をみると、いわゆる「働く世代」といわれている15歳~64歳が約3割を占めています。 このような中、医療機関で今後ますます必要になる問題、それが「がん患者さんの就労支援」です。

当院は福井県の地域がん診療連携拠点病院で460床の地方の急性期病院です。 2007年にがん診療推進センターが院内に立ち上がり、各職種の代表30人で構成され活動していました。 年4-5回センター委員会を開催し、がん診療連携拠点病院として認定継続されていました。 2011年5月より、「集学的がん診療センター」として院内外のがん関係すべてをマネージメントする組織として運営しています。

集学的がん診療センターでは、主に5つの取り組みを中心に活動を展開しています。

  • 質の高いがん診療
  • がん診療における患者家族へのサポート
  • 院内がん情報の集約
  • 癌診療の地域連携
  • 臨床研究及び教育

今回2) のがん患者さんへの仕事のサポートとして当院の取り組みを述べます。 仕事とは、患者さんにとってどういう位置づけか知っていますか? 収入の糧、生きがい、生活の満足度をあげるもの、自分を活かすもの、アイデンティティ、社会に貢献する方法-など人それぞれの考え方があります。 そのため、いい治療を継続し患者さんが満足するためには、病院全体として、システムとして支援する体制が必要です。

当院での就労支援体制の構築にむけて行ったことは4点あります。

  • ① 福井労働局、ハローワーク福井との協議
  • ② 就労相談票の作成
  • ③ 就労支援専用パンフレットスタンドの設置
  • ④ 周知・広報活動

①当院のがん相談員、就労支援担当相談員が福井労働局、ハローワーク福井と数回協議し支援できるように連携体制を検討しフロー図を作成しました(図1)。 フロー図を基に実際に運用し調整しました。この体制が認められ、2014年4月に国の就職支援モデル事業に指定されました。 12県16病院で開始し、2015年7月には15県20病院まで増やして展開されました。 がん診療連携拠点病院とハローワーク福井とが連携し、就労支援ナビゲーターが出張相談を開始しました(図2)。 その間、厚生労働省のヒアリングもありより良い体制づくりを行いました。

図1 福井県済生会病院 がん患者就労支援フロー図
図2 ハローワーク福井の就労支援ナビゲーターによる出張相談

②就労作成相談票を使用しより効率的な運用をはかりました。この相談票には、就労について患者さんの治療状況や希望職種、就労時間などを記載。 また、医療者側からの意見として体力面や働く上で配慮することの欄も設けました。病院とハローワーク間で患者さんの個人情報が相互に理解できるような同意欄も設けてあります。

③就労支援専用のパンフレットスタンドを設置しました。求人情報ファイルを設置し、最新情報を提供できるように毎日更新。 また、ハローワークで配布されている雇用保険や職業訓練に関するパンフレット等も提供しました(図3)。

④周知広報活動は幅広く展開しました。特に職員への周知、医師への働きかけは重要です。 また患者さんに対する広報として院内掲示板や待ち時間表示モニター、広報誌、ホームページ等にも掲載しました。 入退院患者に対する質問票のなかに仕事関係の相談があるかの項目も設けました。

がん患者さんの就労をテーマにした市民公開講座も開催し、労働局・職業安定所からの職員や企業の代表者・患者さんからの意見を聞きました。

図3 求人情報ファイル・雇用保険や職業訓練に関するパンフレット

現在はがん患者就労支援窓口を毎日開いていて、相談員3人が常勤しています。 専従のMSW、専任の緩和ケア認定看護師、兼任の集学的がん診療センターマネージャーが対応しています。 さらに月2回ハローワーク福井の就労支援ナビゲーターによる雇用保険や自分の病状や体力にあった復職の出張相談会を開催しています。 2017年1月よりは、月1回の産業保健総合支援センターより両立支援促進員(社会保険労務士)による主張相談会を開催し、健康保険や傷病手当の手続き、仕事の継続の相談などを行っています(図4)。 ハローワーク、産業保健センターという車でいう両輪のサポート体制をとって支援しています。

当院での就労支援の実績は、2013年10月~2017年3月でハローワーク福井と連携した件数は41件、そのうち21件(51%)が就職につながりました。 76%が女性で、乳がん患者が49%、子宮・卵巣がん患者が12%でした。 年齢では40歳代が最も多く、次に50歳代と続きました。就労支援を知ったきっかけとしては、職員からの紹介が53%と過半数をしめていました。

このように、がん診療では就労支援が非常に重要で、組織をあげたシステム、他と密接に連携した運用方法を構築していく必要があります。 今後ますます必要になっていきますので医療者はもちろん企業側も知らねばなりません。

図4 産業保険総合支援センターの両立支援促進員による出張相談

宗本 義則(むねもと よしのり)

福井県済生会病院 外科主任部長、集学的がん診療センター長
1984年金沢大学医学部卒業後金沢大学医学部第一外科入局。 国立東静病院外科、石川県立中央病院一般消化器外科、金沢大学医学部第一外科を経て福井県済生会病院外科医長。 福井県済生会病院外科部長、主任部長を経て2011年5月~集学的がん診療センター センター長
所属学会・資格:日本大腸肛門病学会評議員、指導医、専門医、日本内視鏡外科学会評議員、日本消化器外科学会指導医、専門医、 がん外科治療認定医、日本腹部救急学会評議員、指導医、大腸癌研究会施設代表者、日本がん治療認定医機構暫定教育医、認定医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医
世話人・幹事:北陸大腸疾患研究会幹事、福井県胃腸疾患懇話会幹事、副代表幹事、福井県がん治療・相談支援部会部会長他多数
Copyright © Citizen Oriented Medicine. All rights reserved.