市民のためのがん治療の会
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『がん対策基本法改正の狙いはココ』


ロハス・メディカル編集発行人 川口 恭

2016年12月改正がん対策基本法が議員立法で成立、施行されました。どこにテコ入れしようとしたものか、図解します。

一般論として、現行法が充分に機能していれば法律を直す必要はありませんので、新たに書き加えられた部分に、我が国の課題があると考えて間違いないでしょう。

がんと共に生きるため

まず、法律の目的として第一条に 「がん患者(がん患者であった者を含む。以下同じ。)がその状況に応じて必要な支援を総合的に受けられるようにすることが課題となっている」という文言が書き加えられました。 また責務を負う者として「事業主」が加えられました。

事業主の責務の具体的内容として第八条に、 「国及び地方公共団体が講ずるがん対策に協力するよう努めるとともに、がん患者の雇用の継続等に配慮するよう努めるものとする」と書き込まれました。 国民の責務も少し増えて、「がん患者に関する理解を深める」よう努めることになりました。

また「がん患者の就労等」で括られる条文が3つ、「がんに関する教育の推進」の条文が1つ、全く新しく設けられました。

がんが加齢と共に罹患・死亡共に増えるとは言え、実は新しく診断される年間約90万人のうち5分のlは60歳未満、3割は65歳未満です。 一方、下の図でも分かるように、診断されたからと言って必ずしも命に関わるわけではなく、がんサバイバーが大勢存在します。 その人たちは、がんを抱えながら、働いて生活していかなければないのです。 本人にとっても社会にとっても、がんサバイバーの就労問題は極めて重大なのですけれども、世の中の理解がまだまだ足りないので法律を強化したということになります。

ただし職場に健保組合がある場合、治療費の少なくとも35%は雇用主の負担となるため、就労問題を改善するためには薬剤高騰対策も避けて通れません (詳しくは『オプジーボの光と影』を参照してください。webで電子書籍を読めます。)




がん擢患を減らすため

国民の責務として、「がんの原因となるおそれのある感染症」の知識を持つよう努めることも増えました。

また、基本的な施策として、「がんの予防の推進」が、 「国及び地方公共団体は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣及び生活環境が健康に及ぼす影響、 がんの原因となるおそれのある感染症並びに性別、年齢等を考慮したがんの予防に関する啓発及び知識の普及その他のがんの予防の推進のために必要な施策を講ずるものとする。」となりました(太字が加えられた部分。)

米国で近年「がん罹患率」(年齢調整後)が下がる傾向を見せているのに対して、日本はまだまだ下がりそうもありません。 ただ、米国の方が元々圧倒的に高いので、その点は割り引いて考える必要がありそうです。

がん死亡を減らすため

「がん検診の質の向上等」の記述も手厚くなりました。 「がん対策推進基本計画」では、2005年度からの10年間で、75歳未満のがん死亡率(年齢調整後)を20%下げるという目標が立てられましたが、達成できませんでした。 原因として、予防が不充分で罹患率を下げられていないことと並んで、命を奪われずに済む段階で発見しきれていない検診の問題が考えられ、今回テコ入れされることになりました。

この他、緩和ケアの推進、がん登録の情報の活用、治療の負担(副作用や後遺症など)軽減に関する研究推進、希少・難治がんに関する研究推進などが新たに書き込まれています。 特に最後の「希少・難治がん」に関する条文は、患者団体の働きかけで挿入されたものです。


川口 恭(かわぐち やすし)

1993年、京都大学理学部地球物理学科卒業、(株)朝日新聞社入社。 記者として津、岐阜、東京、福岡で勤務した後、2001年若者向け週刊新聞『seven』創刊に参加、02年土曜版『be』創刊に参加。 04年末に退社独立し(株)ロハスメディアを設立、翌年『ロハス・メディカル』を創刊。 一般社団法人 保険者サポーター機構理事、横浜市立大学医学部非常勤講師、神奈川県予防接種研究会委員。 (株)ロハスメディカルコミュニケーション代表取締役。「ロハスメディカル」編集発行人。
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