市民のためのがん治療の会
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短期間で放射線治療を行う「加速乳房部分照射法」

『当院におけるStrut Adjusted Volume Implant(SAVI)による乳房温存術後の放射線治療についての検討』


国立病院機構 福山医療センター
放射線治療科 兼安 祐子、中川 富夫
乳腺・内分泌外科 三好 和也、高橋 寛敏
10月は乳がん月間。 今回は乳がん月間に因んで短期間で放射線治療を行う「加速乳房部分照射法」について国立病院機構 福山医療センターの兼安祐子先生にご紹介いただいた。
まだわが国でも現時点で6施設でしか実施されていないとのことであるが、患者もこういう情報を自ら得るよう努力し、主治医に相談するなどの努力もひつようではないだろうか。
なお本稿は福山医療センター広報誌(福山医療センターだより)2017年9月号に寄稿されたものに、加筆していただいたものである。
(會田 昭一郎)

乳がん治療の進歩

20年ほど前まで、乳がんの治療といえば、乳房切除術が大部分を占めていました。 最近では、できるだけ乳房を残して治療を行う「乳房温存療法」を選択する割合が高くなっています。 早期乳癌に対する乳房温存療法では、まず、乳房を部分的に切除する乳房温存手術で、がんを取り除きます。 その後、乳房内に残存している可能性がある微小ながん細胞を根絶するために、放射線治療を行います。

全乳房照射と加速乳房部分照射法

乳房温存療法において行われる放射線治療では「全乳房照射」が現在の標準治療です。 全乳房照射では、5−6週間かけて、毎日、体の外から乳房全体に放射線を照射します。 わが国で乳がんになる患者さんは40代から50代が最も多く、家庭でも職場でも重要な役割を担っている世代です。 乳がんにかかる患者さんの数は年々増えており、こういった方が長期間の通院治療を必要とすることは、社会的にも大きな損失となります。

この問題を解決するために、短期間で放射線治療を行う「加速乳房部分照射法」が開発されました。

放射線治療の負担を大きく軽減するSAVIアプリケータ

SAVIとは?

近年、乳房内再発のほとんどは、もともと腫瘍のあったところ(腫瘍床といいます)の周辺に発生することがわかってきました。 「SAVIアプリケータ」は、加速乳房部分照射法に用いられる新しいタイプの医療機器です(図1-4)。 SAVIは、乳癌がもっとも再発しやすい部分(腫瘍床)に、乳房の中から直接、放射線を照射します。 最近の研究では、加速部分照射法を行った場合の局所再発の予防効果は、全乳房照射の場合と同等であることがわかっています。 日常生活に負担の少ない新しい放射線治療を、SAVIが可能にしました。

図1
図1

図2
図2

図3
図3

図4
図4

SAVIのメリットは、大きく2つ

  • 治療期間の大幅な短縮:5−6週間を5日間に
  • 健康な組織の被曝をより少なく

SAVIによる放射線治療

SAVIによる放射線治療は、まずCT撮影を行い、がんを取り除いた後の乳房の空洞を画像で確認します。 その結果をもとに、放射線治療医と技師が患者さん一人ひとりに合った治療計画を立てます。

その後、SAVIを用いた放射線治療が開始されます。 がんを取り除いた乳房の中に、SAVIアプリケータを挿入します。 SAVIは、数本のカテーテル(細いチューブ)が束ねられたものです。 そのカテーテルの中に小線源(ごく小さな粒状の放射性物質)を通して、5日間の放射線治療を行います。 Remote-controlled after loading system (RALS)による高線量率照射を行います。 放射線の照射は1日2回、計10回に分けて行います。1回の治療は5-10分程度で、放射線照射による痛みはありません。

 

国立病院機構福山医療センターでの経験

この治療法は2015年10月に、当院倫理委員会で承認されました。 その後、先行施設での放射線治療計画の見学、X線カテーテルの検証等を経て2016年6月より症例蓄積可能となりました。 現在までに3例の治療を施行しましたので報告します。治療スケジュールを図5に示します。入院から退院まで18日間です。 乳房温存術において、センチネルリンパ節生検でリンパ節転移陰性を確認した後、温存手術に引き続きSAVIスペーサーを挿入します(図6)。 後日、永久標本での断端陰性が確認された後にSAVIアプリケータに入れ換えます(図7)。 患者さんに挿入されたSAVIは、ガーゼとバストバンドを用いて固定します。 入院中の日常生活には特別な不自由はありません(図7)。図8は小線源治療計画における線量分布です。赤色の曲線は3.4Gyです。

図5
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図6

図7
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図8
図8

SAVIによる小線源治療はRALSを保有し、乳腺外科と放射線治療科で協力がある施設に適しています。 現在わが国でSAVIによる小線源治療を施行している施設は、当院を含めて6施設 (開始順:昭和大学病院、国立がん研究センター中央病院、東京医科歯科大学医学部附属病院、関西医科大学総合医療センター、国立病院機構福山医療センター、神奈川県立がんセンター)です。 通常の全乳房に対する放射線治療と比較し、生存率は同等で、晩期有害事象は減少すると報告されています。 また、治療期間が短く、整容性も良好で患者さんのQOL(生活の質)が改善します。 SAVIに向いていると思われ、希望される患者さんは、ぜひ医師にご相談下さい。


兼安 祐子(かねやす ゆうこ)

1985年 東京女子医科大学卒業後、同大学放射線科助手、2000年広島大学放射線科助手、 2008年同放射線治療科診療講師、2014年国立病院機構福山医療センター放射線治療科医長。
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