市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会

『自著紹介 『患者よ、がんと賢く闘え!』』


北海道がんセンター 名誉院長
「市民のためのがん治療の会」顧問 西尾 正道
当初、本書は『がん医療の今』第4集としてまとめる予定でした。 しかし、毎週「市民のためのがん治療の会」HP上で更新している「がん医療の今」をまとめた『がん医療の今第3集』収載以降の記事を整理したところ、 西尾先生の執筆部分が多いことがわかり、西尾先生の単著としてまとめることになりました。 「市民のためのがん治療の会」の理論的な支えともいうべき西尾先生の論跡を是非ご高覧ください。
會田 昭一郎

第二次世界大戦をはさむ70~80年前から、科学・医学・技術は劇的に進歩した。 この進化は長い人類史の中でも特筆すべきものであろう。 1938年に原子核分裂が発見され、1953年にはDNAの2重螺旋構造が発見された。 それにより、大量殺戮兵器の開発と遺伝子レベルでの医学研究や遺伝子組換え技術が世界を造り変えようとしています。 こうした科学・技術は光と影の世界があり、使い方によっては、バラ色の夢の世界を創出するだけではなく、人類滅亡へと繋がりかねない負の側面を持っています。 これらの科学・技術は人類のために使われるという崇高な理念ではなく、現実は金儲けの手段として使われているため、不都合な負の側面は隠蔽されます。 その代表的なものが放射線の健康被害の問題であり、また農薬や遺伝子組換え技術の人体への危険性です。 企業の広告料で経営を維持しているテレビや新聞などの大手メディアは企業に不都合な真実の情報は報じない。 こうした中で国民の世論や価値観は操作されているのです。

約40年間放射線治療医としてがん治療の領域で、がんを如何に治すかという放射線の光の世界を求めてきたが、2011年3月の福島原発事故後は放射線の健康被害について考える機会となった。 20世紀後半からは人類は放射線との闘いの時代となったが、核兵器開発や原発を稼働するために、放射線の健康被害という裏の世界の真実は隠蔽され、科学的とは言えない理屈で国民を騙し続けています。

急増している小児の発達障害の最大の原因は現在最も普及しているネオニコチノイド系農薬が絡んでいることが解明され、さらに最近は発がんや認知症やうつ病との関係も報告されるようになっています。 そして福島原発事故後には国家の愚策による総被曝国家プロジェクトが進行しており、国民の健康被害が危惧されます。

こうした放射線や農薬などの多量複合汚染による環境悪化のなかで、がん罹患者数は年間100万人を越える事態となり、原因が解明されていない指定難病も330疾患に増加しています。 こうした現代人の健康問題を抱え込みつつ、私たちは今、高騰する医療費問題や、認知症を伴う高齢者の問題にも向き合わなければなりません。


本著の第1部は私が支援している「市民のためのがん治療の会」の活動や日本のがん医療の問題を論じました。 また私のライフワークとなった低線量率小線源治療は医療従事者の被ばくの問題から、絶滅危惧治療となっており、将来的に忘れられる治療となることから、記録として残すために典型的な症例を提示しました。 この治療は患者さんにとっては内部被ばくを利用した治療です。第2部で内部被ばくとはどのようなものかを理解するうえで参考となると思い臨床写真を掲載しました。

その第2部では政府や行政が原発事故対応の根拠としている国際放射線防護委員会(ICRP)のインチキな放射線防護学について論じました。 疑似科学的物語で放射線の健康被害を過小評価して核兵器製造や原子力政策を行っている問題を、放射線治療を生業としてきた臨床医の実感から、そのインチキさをラディカルに考えてみました。

放射線の健康被害に最も関与しているのは内部被ばくと考えられ、発がんや慢性疾患も長寿命放射性元素体内取込み症候群の一つとして考えられるのです。 福島の子ども達の甲状腺癌が放射線由来の多発かどうかが議論されていますが、この問題に対しても福島県に出かけて甲状腺の超音波装置による検査を行ってきた経験を踏まえて私の見解も掲載しました。

科学性をもった正しい知識で放射線を利用することが重要なのであり、放射線の光の世界と影の世界を使い分ける見識が求められます。 そして放射線の健康被害という影の世界や負の側面に関しては闇の世界とするのではなく、科学的に研究・分析されるべきです。

ICRPの御用学者をはじめ、国民はICRPの催眠術から覚醒すべきです。 がんが多発している日本の現状を病因論も含めて考え、本書が自分の命をどう守るかを考える一助となれば幸いです。

旬報社 2017年12月刊 定価1,600円+税=1,728円
旬報社 2017年12月刊 定価1,600円+税=1,728円

西尾 正道(にしお まさみち)

北海道医薬専門学校校長、独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 名誉院長 (放射線治療科)、 「市民のためのがん治療の会」顧問、認定NPO法人いわき放射能市民測定室「たらちね」顧問。「関東子ども健康調査支援基金」顧問。
1947年函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。 国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現 北海道がんセンター)放射線科に勤務し39年間、がんの放射線治療に従事。 がんの放射線治療を通じて日本のがん医療の問題点を指摘し、改善するための医療を推進。
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