市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
グローバリズムを改めて問う

『食料主権に逆行する種子法廃止』


TPP交渉差止・違憲訴訟の会代表
池住 義憲
安倍政権の狂走により国民の過半数が望んでない法案が次々と強権的に成立している。 特定秘密保護法、安全保障関連法、TPP関連法、共謀罪法、そして最近の国会では充分な議論もなく、改正水道法、低賃金で外国人就労の拡大を目論む改正入管法、漁業法改正などの重要な法案も成立した。 しかし、国民によく知らされていないが、農産物主要種子法が本年3月末で廃止となり、日本人の「食の主権」や「食の安全」はますます侵されようとしている。 この種子法廃止の問題は6月に久田徳二さんに書いて頂いた。
(No.369 20180626 http://www.com-info.org/medical.php?ima_20180626_hisada)
今回は、この問題の現時点での動きについて掲載する。
戦後の日本は米国の属国となり、軍事的・経済的植民地化の状態にあるが、 農産物主要種子法の廃止により、日本人の健康を守る食生活も米国を中心としたグローバル企業が種子を握って食の世界を通じて日本を植民地化し、世界制覇を目論んでいる。
まさに売国奴的政策が進行し、日本の将来に暗雲が立ち込めている現状の中で、良識ある日本人の知性の代表として闘っておられる池住義憲氏の「12月メール通信」に書かれた原稿を転載させて頂いた。 快く転載の御承諾を頂き感謝いたします。
「市民のためのがん治療の会」顧問 西尾正道

◆裁判所も認めた種子法廃止の背景

「本件上告を棄却する」、「本件を上告審として審理しない」。 これは、昨年(2018年)10月4日、最高裁から届いた決定です。 民事事件で最高裁に上告できるのは、控訴審判決が憲法解釈の誤りか又は違反がある場合などに限る、と規定されています。 今回の上告はそれに該当しない、というのが棄却の理由です。

私たちは、提訴から2年半にわたり、控訴審まで法廷内外で様々な取り組みを続けてきました。 自由貿易協定に対して真っ向から違憲を訴え、「生命権」「健康権」「生存権」を具体的に主張・展開してきました。 これまでになく斬新で、日本社会にとって意味のある裁判でした。 にもかかわらす、残念ながら十分な審議は行われないまま、裁判は終結してしまいました。

しかしその中で控訴審判決では、「種子法の廃止については、その背景事情の一つにTPP協定に関する動向があったことは否定できない」と判示させることが出来ました。 これは、私たちが提起し続けてきたTPPの問題点のひとつでした。 政府はTPPを先取りして国内で着々と法改正を進めていました。 その代表格が、主要農作物種子法(種子法)の突然の廃止です。 2017年4月に種子法廃止を可決し、2018年4月から施行されています。

種子法は、稲や大豆、麦などの主要農作物の種子の生産と供給を守るため、1952年に制定された法律です。 優良な主要穀物の開発と安価な供給を都道府県にこれまで義務付けてきました。 しかし、これが民間の参入を妨げているとして、廃止。 これにより、種子生産に関する今後の都道府県や国の予算措置などの法的後ろ盾が失われました。 そして、欧米の多国籍企業が日本の種子市場に大幅参入してくる道を開いたのです。 遺伝子組み換え食品(GMO)を製造する企業を含めてです。 これは、日本の「食の安全」「食料主権」を脅かすことであり、大変深刻な問題です。

◆食料主権に逆行する日本政府の動き

本来、自由貿易は経済成長を促し、その果実で傷みを受けた人々を支援するもの、と言われてきました。 しかし、そうはならなかった。 それどころか、急速に進んだ経済のグローバル化は、格差を拡大し、先進国の賃金を下げ、雇用を奪いました。 自由貿易によって主導された農業・食料は、農業構造の激変と家族農業(小規模農業)の衰退をもたらしています。 その結果、持続可能な発展どころか、今や世界的な食料危機問題が露呈するに至っています。

こうしたなかで国連人権委員会は、「食料への権利」の大切さを提唱しています。 すべての人が物理的・経済的にいつでも適切な食料にアクセスできるのであり、政府はそれを保障する義務を負っている、という考え方です。 これは、国際的な農民組織「ビア・カンペシーナ」(農民の道)が主張する「食料主権」と共通します。 食料は、一部の農産物輸出国や多国籍企業に主導されるようなことがあっては決してならないのです。

残念ながら「TPP交渉差止・違憲訴訟」は、終結しました。 しかし、私たちの闘いは続きます。 第三次訴訟として、2019年3月までに「種子法廃止違憲確認訴訟」を東京地裁に提訴します。 種子法廃止は、「食料への権利」という国際的動きに逆行し、「食料主権」をより深刻に脅かしているからです。 私たちは、種子法廃止が憲法違反であることを正面から訴えます。 TPPは終わっていない。 私たちは、これからも司法に問い続けていきます。(了)


池住 義憲(いけずみ よしのり)

1944年東京生まれ。 大卒後、東京YMCA、アジア保健研修所(AHI)などNGOに勤務。 元・立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授。 2008年4月に名古屋高裁より「自衛隊イラク派兵差止訴訟」で違憲判決を勝ち取る。 現在は、TPP交渉差止・違憲訴訟の会代表。愛知県日進市在住
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