市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
治療法選びで悩み

『選択肢多い前立腺がんの場合』


千葉県在住 新聞記者(55歳)

前立腺がんが見つかったきっかけは、長年悩まされている花粉症でした。 4年半の海外駐在勤務を終えて2017年4月に帰国したところ、ひどい花粉症に。 同年秋に花粉症新薬の治験者を募集する広告をインターネット上で目にし、東京都内の治験施設で検査を受けました。 11月に検査結果を受け取りに行くと、前立腺がんのリスクを示すPSAが基準値の4を上回る5・9。「要再検査」でした。

がん治療の取材経験のある同僚記者に相談し、自宅から比較的近く、通院しやすいE病院の泌尿器科を受診することにしました。 PSAの推移を確かめるため、2018年3月に検査した結果、7・0に上昇していました。 5月にMIRとPSAの再検査を受けたところ、MIRでは前立腺がんの明らかな影は見当たらず、PSAは6・1に低下していました。 PSAはいったん下がりましたが、鼠径ヘルニアを患っていた事情も重なり(いつまでもヘルニア手術を先延ばしにはできないため)、6月に生検を受けることになりました。

2週間後に生検結果について医師から「16本中1本から腺がんが見つかりました。 グリーソンスコアは7(3+4)です。 治療法としては①全摘手術②放射線(外部・内部照射)③1年間の経過観察ーーがあります。 当院では①ダヴィンチ(ロボット)手術、②の外部照射はトモセラピーを実施しています。 ②のうち小線源は行っていません。体に残るダメージは①>②です。 あなたの場合、いずれの治療法でも治ります」と説明を受け、治療法の選択をすることになりました。

その週末に図書館で前立腺がんに関する書籍や、がん治療を特集した雑誌などを借りて自宅で熟読しましたが、 全摘手術、放射線外部照射(IMRTなど)、放射線内部照射(小線源)のいずれについても、メリットや成功例は載っているのですが、 深刻な副作用や失敗例への言及はほとんどありませんでした。

家族は、照射回数が少なくて済む重粒子線や、副作用の少ない高密度焦点式超音波治療(HIFU)の治療を検討してはどうかと提案しましたが、 長期的な治療成績が分からないことから、踏ん切りがつきませんでした。 贅沢な悩みかもしれませんが、選択できる治療法が多いがゆえに、「結局、自分はどの治療法を選ぶのがいいのか」と途方に暮れることになりました。

ちょうど、その頃、「市民のためのがん治療の会」の皆様と面会する機会を得て、相談させてもらいました。 「セカンドオピニオンを受けて見てはどうか」との助言を受け、 会を通じて国立病院機構北海道がんセンターの西尾正道名誉院長に「どの治療法が最も適しているか、その場合にどの病院で治療を受けるべきかの判断・決断が難しいので助言がほしい。 後遺症・合併症など身体への負担が比較的軽く、かつ非再発率の高いものはどれか。 重粒子線、HIFUの適用の是非についても知りたい」とお願いしました。

ほどなく、西尾院長から「中程度悪性群に属するが、54歳(当時)なので、経過観察と言うわけにはいかない。 手術か放射線治療となる。放射線は低悪性度群ではヨウ素125シードの組織内刺入という方法もあるが、 中悪性度群なので外部照射+リモートアフターローディングシステム(RALS)による追加照射という組み合わせが必要。 小線源治療でない場合は、最も普及しているIMRTによる外部照射となる。 治療成績は手術でも放射線治療でもほぼ変わない」との趣旨の回答を頂きました。

引き続き自分でも前立腺がん治療の情報を調べ、「なるべく再発リスクが少ないものにしよう」と方針を固めました。 そんな中で判断基準としたのは、米国の「前立腺がん治療調査財団」が2016年6月に発表した研究資料(日本語訳)でした。 各国で発表された論文をもとに各種治療の成績をグラフ化して比較したものです。 一概には単純化できませんが、グラフでは、他の治療法に比べ、小線源が非再発率がやや高いように見受けられました。 (前立腺がん治療調査財団の英文サイトhttps://prostatecancerfree.org/では、より最新の研究結果も掲載されています。)

骨シンチの結果を聞きにE病院を受診した際、「骨転移はありません」と知らせる医師に「小線源治療にしたいと思います」と意思を伝え、 中間リスクの前立腺がんにも小線源の単独治療を実施しているS病院に紹介状を書いてもらいました。 E病院の医師から「小線源はいい治療。あなたに合っていると思う」と言われたことも背中を押しました。

9月にS病院で小線源治療の手術を受け、3カ月ごとにPSAをチェックしてもらっています。 PSAは手術直前には8・3まで上がっていましたが、5・7(10月)、3・0(12月)、1・3(今年3月)と減少しています。 医師からは「術後1年で1未満を目指しましょう」と言われています。 手術の際、大腸への放射線の影響を少なくするため前立腺と直腸の間に「スペーサー」を入れてもらいました。 頻尿、尿ががまんできなくなる、お酒を飲むと尿が出にくくなる、痔のような肛門痛などの副作用が出ましたが、徐々に軽くなってきています。

今、約1年の通院・治療の経験を振り返りますと、「治療法の選択」が一番大変だったとの思いを強くしています。 私と同時期に全摘手術を受けた人が近所に住んでいますが、その後、PSA再発が分かり、救済放射線治療を受けたそうです。 私自身、今後、一時的にPSAが上がる「バウンス」や、再発・再燃のリスクはありますが、残された人生の時間を前向きに生きていきたいと思います。

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