市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会

『やってはいけない がん治療』


ジャーナリスト
岩澤 倫彦
編集子は永年消費者問題を研究してきたが、いわゆる消費者問題の中に悪質商法がある。 ほんの一例だが、元会長が「桜を見る会」に招待されていたジャパンライフはご記憶だろうが、磁気治療器の預託商法というマルチ商法で被害総額は約1800億円にのぼるといわれている。
しかし詰まるところ結局はお金を騙し取られたわけで、悲観して自死に及ぶ例もあるが、直接命に係わることではない。 俗に命の次に大事なお金などというからには、命は一番大事なのであろう。
がんは医療関係者の懸命のご努力にもかかわらず、緩解率が向上したといっても罹患すれば半数、大目に見て6割しか助からない。 がん患者にとって、死の影はぬぐいされないものだ。それゆえ標準治療に行き詰まってしまえば、「どんながんでも必ず治る」式の宣伝文句に縋り付きたくなるのは人情というものだろう。 その弱みに付け込んで科学的根拠もなく、多くの場合却って体調を悪くするような治療?が、しかも法外な料金をとって行われているということは、単にお金を騙し取る悪質商法というだけでなく、 命に係わることだけに、悪質度もここに極まれり、というべきではなかろうか。
がん患者会にとって本当に知りたかった貴重な情報を「覆面取材」等、永年の医学関係取材の蓄積と新聞協会賞等ジャーナリストとしての鋭い視点でまとめられた著作だ。
がん患者やその家族はもとより、毎年がん検診を受ける一般の人まで、がんから命を守りたい方々に、ぜひ手に取っていただきたい一冊だ。
(會田 昭一郎)

「取材者の視点で、がん治療の実用書を書いてみないか」

去年秋、編集者の方から提案を受けた時、私は率直に戸惑いました。 がん治療に関する著書は数多く出版されていますし、その大半は専門性の高い医師が書いているからです。 しかし、編集者の話を聞いているうちに、私なりに伝える意味があるかもしれないと思い直し、本書の依頼を引き受けることにしました。 脱法行為というべき、モラルに反した、がん医療が横行しているからです。


今年2月、週刊東洋経済と文藝春秋で同時に公表した調査報道は、まさに「やってはいけない がん治療」がテーマでした。

これに先立ち、去年11月、免疫チェックポイント阻害薬の生みの親というべき、京都大学特別教授の本庶佑氏に単独インタビューを行いました。 その時、意外な研究の裏話を教えてくれたのです。

「免疫学者は嘘をついている、と医学界から言われた時期がありました。 もっともらしい理論の様々な免疫療法の研究が、何十年と行われてきましたが、全部ダメだったからです。 やがて、誰も免疫療法でがんが治るとは思わなくなりました。そこで僕たちは、従来と全く違う発想をしたのです」


今、巷には独自理論と称した、様々な「がん免疫細胞療法」が行われています。

多少の違いはありますが、患者の血液からリンパ球(免疫細胞)を分離して、活性化させたものを患者の体内に戻すという治療法です。

本庶氏によると、こうした免疫細胞療法は、1970年代から数多くの臨床試験が行われて、まったく成果を出せませんでした。 したがって今も自由診療で、免疫細胞療法を続けている医師たちは、不勉強か、確信犯のどちらかなのです。


自由診療クリニックの一つが、オプジーボと免疫細胞療法を組み合わせた、「アクセル+ブレーキ療法」と名付けた独自理論の治療を行なっていました。 その宣伝では「著効率 73.1%」と謳っていましたが、あり得ない数値です。

また、重い副作用があるオプジーボについては、救急医療の体制がある病院で、専門資格を有した医師の使用に限定されていますが、このクリニックはいずれの条件も無視していました。 報道後、このクリニックは5月に閉院すると発表しています。


東京駅近くで診療していた「アスゲンクリニック」の院長は、がんの再発予防として毎月10万円する「アポトーゼMD ※画像」を患者に飲ませていました。


パッケージには「医薬品」と記載されていますが、正式に承認された薬ではありません。 患者がアポートゼMDの原材料について尋ねると「主成分はゼオライト。がん細胞を吸着する働きがある」と院長が言ったそうです。

ゼオライトについて、東京大学薬学部・小野俊介准教授に確認したところ、これまで医薬品の原材料として聞いたことがない、ということでした。

またアスゲンクリニックで行われていた「ネオアンチゲン免疫治療」について、患者の代理人(弁護士)が科学的根拠となる医学論文の提示を求めたところ、存在しないことが分かりました。 同クリニックは、支払済の治療費を患者に返還し、今年3月には閉院しています。


大半の自由診療クリニックは、治療開始前に「治療費用の返還請求には応じない」という内容の承諾書にサインさせます。 これによって、治療に問題があると気付いても、莫大な費用を取り戻すことを諦めてしまう人が多かったようです。

しかし、弁護士によると、消費者契約法では、重要事項について事実と異なることを告げた場合、契約を取り消すことが可能、という規定があると分かりました。 例えば、医学的な根拠がないのに、進行がんでも完治できる等の説明を受けていたとすると、承諾書のサインは無効になるのです。

免疫細胞療法の大半が、誇大広告をしているとみられるので、今後は莫大な治療費の返還を求める集団訴訟が起きるかもしれません。


 

いっぽうで、なぜ患者は最も有効性が高い「標準治療」ではなく、根拠のない自由診療のクリニックに引き寄せられてしまうのでしょうか。

様々な要因が考えられますが、取材してきた経験から、「標準治療では治せないケースもあること」、「自由診療の宣伝が巧みであること」、そして「患者に基本的ながん治療の知識がないこと」の3つが大きいと思います。


あのオプジーボでさえ、効果があるのは肺がんの約3割。効かなかった7割に入った時、自由診療クリニックの看板が頭をよぎるのでしょう。 また、私の友人は手術支援ロボット「ダヴィンチ」による手術を受けましたが、後遺症に悩まされました。

したがって、「標準治療」だけでは、がん治療のすべてを解決することはできません。

そうなった時、患者はどうすべきなのか?

それぞれの患者によって正解は違うはずですが、一つの選択肢として、ぜひ「患者会」という存在を知っていただきたいと思います。 がんになると、当事者にしか理解できない悩みが必ずでてきますが、その時に「患者会」という繋がりは、きっと大きな支えになるはずです。


これまで、情報の非対称性によって、患者側に誤解が生じてしまう場面を見てきました。 基礎知識がない一般の人が、すぐに専門性が高いがん治療について医師の説明を理解するのは困難です。

インターネットの普及で、多くの情報にアクセスすることは簡単になり、同時にフェイク情報の罠にかかる確率も高くなりました。

がんと診断された時、まず情報を得るべきソースはどこか?フェイク情報の特徴は何か?

患者や家族にとって、「道標」となることを本書は目指しました。


約10年前の取材を契機に、西尾正道先生と會田昭一郎様からは、たびたびアドバイスをいただくようになりました。

會田様がご自身の舌がんの治療で、西尾先生を探し当て、東京から札幌に移って治療を受けたエピソードは、本書で紹介させていただきました。

「オンリー・ワンチャンス」。 お二人のお話によく出てくる言葉です。 たった1度のチャンスに、患者は正しい選択をすることができないと、命を失うことさえあります。


本書の第1章では、「がん放置療法」を唱えている近藤誠氏のセカンドオピニオンを、覆面取材。近藤氏の本質とは何かを検証しました。

実際のところ、近藤氏の主張には的確なものもあり、マスコミ関係者でも彼を好意的にみている人が意外に多く存在します。

稀代の詐欺師か、それとも真実を語る孤高の医師か。 私なりの結論を記しました。

その他、「都市伝説というべきがん治療の実態」、「多くの人が愛用しているサプリメントの効果」、「誤解が多い緩和ケアの現実」、「早期発見が難しい検診のカラクリ」など、 医師では触れることができないディープなテーマについて、取材を基にご紹介しました。

もし、がんになった時に、お役に立てる一冊となれば、幸甚のかぎりです。

(了)


やってはいけない
がん治療

〜医者は絶対書けないがん医療の真実〜


フェイクを見抜き、自分で決断するための心得50
★ベストセラー作家「近藤誠」医師の覆面取材によって明かされる真実
★がん検診、終末期医療、代替医療、最新のがん治療がわかる。
★文藝春秋、週刊東洋経済で「モラルなき免疫クリニック」の実態を暴いた、著者だからこそ書ける「がん医療のタブーと闇」とは!!
★ノーベル賞を受賞した本庶佑氏をはじめ、外科医、腫瘍内科医、放射線科医、内視鏡医など、日本を代表する専門家の叡智を紹介。

【概 要】
今や「2人に1人」ががんになる日本。がん患者をだまして金を稼ぐ悪徳医師やエビデンスに乏しい自由診療治療が横行。また、インターネットや書籍には、玉石混交の情報に惑わされて適切な治療を受けられず、救えるはずの命を失うケースも少なくありません。
本書は、200人を超える医師や患者・家族へ取材を重ねてきたジャーナリストの著者が、最先端のがん治療や、誤解されている医療知識の「真実」を明らかにしたものです。

【目 次】
第1章 「近藤誠」を信じた患者の末路
第2章 知らないと後悔する「がん治療」の真実
第3章 信じてはいけない「代替療法&都市伝説」
第4章 つい信じてしまう「がんフェイク情報」の共通点
第5章 日本人の9割が知らない「がん終末期医療」の誤解
第6章 早期発見できない「がん検診」のカラクリ
第7章 ダメ医者にだまされない「賢いがん患者」術
コラム 日本医科大学・勝俣範之教授、国立がん研究センター・若尾文彦医師ら

定価:1,320円(税込) 判型:四六判  体裁:並製
頁数:256頁  発行元 (株)世界文化社

岩澤 倫彦(いわさわ・みちひこ)

ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家 1966年、北海道札幌生まれ。 報道番組ディレクターとして、肝炎問題、救急医療、臓器移植などのテーマに携わり、 「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで新聞協会賞、米・ピーボディ賞を受賞。 ドキュメンタリー「岐路に立つ胃がん検診」(関西テレビ)を演出。
著書に『薬害C型肝炎 女たちの闘い』(小学館)、 『バリウム検査は危ない』(小学館)、 『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)などがある。
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