市民のためのがん治療の会
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『PD-L1高発現未治療進行非小細胞肺がんに対するネシツムマブ+ペムブロ0リズマブ療法の第II相医師主導試験(K-TAIL202試験)』


昭和大学医学部 内科学講座 腫瘍内科学部門、准教授
本医師主導型臨床試験責任医師 堀池 篤
昭和大学医学部 内科学講座 腫瘍内科学部門、主任教授
昭和大学病院 腫瘍センター長 角田卓也

2人に1人が「がん」になる時代。 中でも肺がんは、早期には症状があまり出ず、進行してから発見されることが多いため、死亡率はいまだ高く、 新型コロナウイルス感染症による死亡者をはるかに超える年間約75,000人(2019年)もの患者さんが亡くなっており、現代の医療においても治療が難しい病気のひとつです。 また、進行肺がんに対する従来の抗がん剤治療では、進行を一時的に抑えることはできても、「クスリ」の力のみで治すことは難しいと考えられていました。 しかし、がん免疫療法の登場により一筋の光が見えてきました。 がん免疫療法とは、従来の抗がん剤とは異なり、自らの「免疫の力」を利用してがんを攻撃する治療法で、一時的な効果しか期待できなかった従来の抗がん剤とは異なり、 一部の患者さんで治療の効果がカンガルーの尾のように長く続く現象がみられるようになっています。 我々は、この特徴を「カンガルーテール現象」と呼んでいます(図1)。


図1.がん免疫療法におけるカンガルーテール現象

現在、特定の遺伝子変異がない進行非小細胞肺がんの患者さんには、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法が行われています。 しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬単独の治療では、効果が全く認められない患者さんや、がんの進行が早くなる患者さんもいることが報告されています。 従来からの抗がん剤である殺細胞性抗がん剤には、免疫チェックポイント阻害薬との併用で相乗効果があり、 現在、複数の免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗がん剤の併用療法が、進行非小細胞肺がん患者さんの標準治療として使用されています。 しかし、殺細胞性抗がん剤は免疫チェックポイント阻害薬と比べ副作用が強く、殺細胞性抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を併用は、副作用の軽微ながん免疫療法のメリットが活かせていないのが現状です。

私たちは、がん免疫療法の効果を更に向上させるべく、新たながん免疫療法の併用療法を医師主導治験(臨床試験実施計画番号:jRCT2031200248)として実施しています。 この医師主導治験で使用するネシツヅマブは、がん細胞を増殖させる「EGFR」という分子を抑える薬(抗体薬)で、 未治療進行扁平上皮肺がんを対象とした国内外の臨床試験にて、殺細胞性抗がん剤との併用で高い治療効果を認め、既に承認された薬です。 また、これまでの基礎研究や初期の治験にて、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブとの併用で良好な治療効果が示されています。 ネシツムマブとペムブロリズマブの併用療法のコンセプトは図2の通りです。

本治験は、図3のような治療スケジュールで、研究の詳細は、下記URLに公開されています。 2020年12月から2024年12月まで、国内11施設(図4)の50人の患者さんにご参加頂く予定となっています。


jRCT2031200248
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031200248


図2.ネシツムマブ+ペムブロリズマブ療法のコンセプト

図3.ネシツムマブ+ペムブロリズマブ療法スケジュール

図4.K-TAIL202医師主導治験実施体制


堀池 篤(ほりいけ あつし)

1997年香川医科大学(現:香川大学医学部)卒業後、 同大学第一内科医員等を経て、2002年-2004年国立がんセンター中央病院内科にがん専門修練医(治療開発専攻)として研修後、2004年癌研究会附属病院内科に赴任。 2012年がん研究会有明病院呼吸器内科医長に昇格、同病院早期探索臨床試験推進室兼務、2019年昭和大学医学部内科学部門腫瘍内科学部門准教授に就任。 一貫して、肺がんの薬物療法、治療開発に従事。医学博士。

角田 卓也(つのだ たくや)

1987年和歌山県立医科大学卒業後、同大学第二外科助教を経て2000年東京大学医科学研究所付属病院外科講師。 同院准教授を経て2006年ワクチンサイエンス株式会社、代表取締役・社長。 2010年オンコセラピーサイエンス株式会社、代表取締役・社長。 2015年メルクセローノ株式会社、MA Oncology部長を経て2016年昭和大学臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学講座・教授、 2018年昭和大学医学部内科学部門腫瘍内科学部門・主任教授、昭和大学病院腫瘍センター長
1992-1995年City of Hope National Cancer Institute (Los Angeles)留学、同講師就任
医学博士(テーマ:腫瘍浸潤リンパ球の基礎的・臨床的研究)
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