市民のためのがん治療の会
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『がん患者さんで注意が必要な帯状疱疹予防ワクチン』


医療ガバナンス研究所 小坂真琴
帯状疱疹はがんなどの免疫力が低下する病気が原因になることがあるといわれており、 新型コロナウイルスの流行により生活習慣の悪化やストレスがかかりやすくなり、中高年や高齢者の帯状疱疹感染リスクは上がってきていると考えられております。
さらには帯状疱疹はそのものが死亡原因になることは極めて稀のようですが、 帯状疱疹によって体力を消耗した結果肺炎などを発症して死亡するほか、神経の損傷がひどいと、皮膚の症状が治った後も痛みが続くことがありますし、 三叉神経などに発症すると顔面神経痛が長引くなど、予後も決して良くない厄介な疾病です。
そこで予防が重要でワクチン接種が有効ですが、かなり高価です。 今のところインフルエンザワクチンのように多くの自治体で補助制度があるわけではなくほとんどが自費接種ですので、 是非自治体で補助制度が拡充されますよう、患者団体としても要望をしたいと考えております。
(會田 昭一郎)

一昨年、インフルエンザワクチンの接種状況に関するアンケートにご協力いただきありがとうございました。 ご協力いただいたアンケートの結果として、インフルエンザワクチンの接種について医師からしっかりと説明をする重要性、自費負担の重さが改めて浮き彫りになりました。

今回は、別の種類のワクチンの話題を紹介したいと思います。帯状疱疹予防ワクチンです。

帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster Virus) に感染した後、免疫力が低下して発症する病気です。 1回目の感染(主に小児)では水痘(水ぼうそう)を発症しますが、その後ウイルスは神経節に潜伏します。 そしてストレスやがんなどの病気に罹患、さらにその治療によって、免疫力の低下したタイミングで体の中のウイルスが増殖し、 神経を傷つけながら皮膚に向かっていくため、痛みが出た後に発疹が生じ、その範囲が体の片側にとどまり反対側には至らないのが特徴です。

抗ウイルス薬によって治療を行いますが、帯状疱疹自体が治癒したのちも、強い神経痛が長期にわたって持続する「帯状疱疹後神経痛」を引き起こすことがあり、かからないように予防することが何より大事です。

ウイルスとしては子供がかかる水ぼうそうと高齢者の帯状疱疹は同じものです。 そのため、水ぼうそうに罹っている小児と接触することが、免疫活性化の役割(新型コロナワクチンにおける3回目接種と同じ役割)を果たしていました。 しかし、2014年10月に小児向けのワクチンが定期接種化されたことで、小児の間での流行が激減し、免疫活性化の機会が減りました。 また、新型コロナウイルスの流行により、生活習慣の悪化やストレスがかかりやすくなり、中高年や高齢者の帯状疱疹感染リスクは上がってきていると考えられます。

さらにがん患者さんでは、非がん患者さんに比べて帯状疱疹にかかるリスクが約1.29倍と高くなります。特に血液がんの患者さんでは2.46倍と高いです。 また、多くの抗がん剤が免疫を抑制する効果を持ちますが、免疫が抑えられている方は免疫が正常な方に比べて約2倍かかりやすいとする研究もあります。 以上の理由から、高齢の方の中でも特にがん患者さんは帯状疱疹に注意が必要だと言えます。

帯状疱疹の予防のためにはワクチンが重要です。 帯状疱疹に対するワクチンとしては、2016年から乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」が使用可能になりました。 しかし、生ワクチンであるため免疫抑制療法中、抗がん剤使用中などは使用できませんでした。

そんな中、2020年1月からサブユニットワクチン「シングリックス」が発売となりました。 2ヶ月間隔で筋肉内に2回接種するワクチンで、不活化ワクチンのため、免疫が低い人でも打てるのが特徴です。

シングリックスは50歳以上の健常者を対象とした3.2年の観察期間では帯状疱疹の阻止効果は97.2%でした。 また、帯状疱疹後神経痛への有効率も88.8%と高く、生ワクチンと比較して予防効果も高いことがわかりました。 しかし、1回2万円(2回で4万円)と高額です。

がん患者を対象としたランダム化比較試験において、このワクチンの予防効果は、血液がんでは推定で16.8%と低かったですが、固形がんでは推定で63.6%でした。 また、ワクチンに伴う有害事象は、ワクチンの群とプラセボ群でいずれも1%以下でした。

抗がん剤による治療中で免疫抑制状態であるときにはワクチン接種を避けた方が良いですが、化学療法前や化学療法後の寛解期では接種できる可能性があるので、主治医と相談の上で検討してみてください。

日本において高齢者(主に65歳以上)向けのワクチンとしては、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンが定期接種として定められており、自治体ごとに補助金額などが決まっています。

帯状疱疹ワクチンはあくまで任意接種ではありますが、定期接種と同様に一部自治体では補助をしており、 例えば名古屋市では一定の条件を満たした満50歳以上の方は、シングリックスを2回で2万円程度(自費だと2回で4万円程度)で受けることができます。

現状インフルエンザワクチンなどに比べて高額であるのは間違いないですが、感染のリスクが上がってきていること、 免疫が抑制されている状態でも打てるワクチンが登場したことをぜひご理解いただき、自治体の費用助成などを一度確認した上で接種の必要性について、主治医とご相談することをおすすめいたします。


参考文献

  • 国立がん研究センター東病院.「帯状疱疹について」 https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/infectious_control/020/040/index.html
  • Hansson E, Forbes HJ, Langan SM, Smeeth L, Bhaskaran K. Herpes zoster risk after 21 specific cancers: population-based case-control study. Br J Cancer. 2017 Jun 6;116(12):1643-1651. doi: 10.1038/bjc.2017.124. Epub 2017 May 2. PMID: 28463961; PMCID: PMC5518853.
  • Mullane KM, Morrison VA, Camacho LH, Arvin A, McNeil SA, Durrand J, Campbell B, Su SC, Chan ISF, Parrino J, Kaplan SS, Popmihajlov Z, Annunziato PW; V212 Protocol 011 Trial Team. Safety and efficacy of inactivated varicella zoster virus vaccine in immunocompromised patients with malignancies: a two-arm, randomised, double-blind, phase 3 trial. Lancet Infect Dis. 2019 Sep;19(9):1001-1012. doi: 10.1016/S1473-3099(19)30310-X. Epub 2019 Aug 6. Erratum in: Lancet Infect Dis. 2019 Aug 23;: PMID: 31399378.
  • Lal H, Cunningham AL, Godeaux O, Chlibek R, Diez-Domingo J, Hwang SJ, Levin MJ, McElhaney JE, Poder A, Puig-Barberà J, Vesikari T, Watanabe D, Weckx L, Zahaf T, Heineman TC; ZOE-50 Study Group. Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults. N Engl J Med. 2015 May 28;372(22):2087-96. doi: 10.1056/NEJMoa1501184. Epub 2015 Apr 28. PMID: 25916341.

小坂 真琴(こさか まこと)

1997年滋賀県生まれ。 灘中学校・灘高等学校を経て東京大学医学部在学中。 医療ガバナンス研究所やオレンジホームケアクリニックにてインターンとして研究に従事している。
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