市民のためのがん治療の会
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『絶滅する低線量率小線源治療』


市民のためのがん治療の会 顧問
北海道がんセンター 名誉院長  西尾正道
筆者は舌辺縁部に大きく膨隆したⅢ期の舌がんを、西尾先生による、まさに表題の「低線量率小線源治療」によって切除することなく治療することができ、 その後20年以上、再発・転移することなく完治することができたのである。 筆者が最初に診察を受けた医療機関の治療計画とは異なる治療計画を西尾先生から受け、十分納得できたので、低線量率小線源治療を選択したが、 そのような経過と入院期間中に西尾先生から日本のがん医療の状況、特に放射線治療が米欧諸国はもちろん、発展途上国などと比較しても著しく低く評価されており、 切らずに済む疾患も手術や抗がん剤が多用されていることなどについての情報提供を受けた。 「もっと放射線治療が正当に評価され、患者が切らずに済む治療を享受できるようにできないか」。 これが「市民のためのがん治療の会」設立の出発点であった。

頭頸部がん、就中その中でも発症の多い舌がん治療の第一選択は、手術のようだ。
ここで市民のためのがん治療の会会員 田口三雍さんの「治療法をめぐる葛藤『最後まであきらめなかった小線源による組織内照射』」をご紹介しよう。いかに一般的に医療機関では「舌がんの治療は手術」という考えに凝り固まっているかがお分かりになろう。
http://www.com-info.org/tiso.php?so_20181113_taguchi

筆者は「2019年版 口腔癌診療ガイドライン」策定に委員として参画したが、委員はほとんどが外科系医師で、放射線科医は数名しか見受けられなかった。 このような状況下で策定される口腔癌診療ガイドラインでは口腔癌治療の第一選択がどうしても手術になるだろう。

先般、タレントが舌がんを発症し、結局舌を6割ぐらい切除し、メディアも再々取り上げたが、治療法の解説としてはついに手術しか取り上げなかったのもこうしたガイドライン策定の背景があり、 テレビなどもコメントを求めるのは耳鼻咽喉科医、口腔外科医、歯科医ばかりで放射線治療医は全く出番がなかった。

こうして低線量率小線源治療のように患者=消費者にとって大きな福音をもたらす治療法が廃れてゆく。 私はこれを「絶滅危惧医療」と言っている。 このような状況に抗うために、「市民のためのがん治療の会」の活動はまだまだがんばらねばならず、老骨にムチ打ち、先生方の温かい無償の社会貢献に支えられつつ、奮闘する毎日である。
(會田 昭一郎)

癌の3大治療法の一つに放射線治療がある。1895年にレントゲンが得体の知れない光線を発見し、それをX線と名付けたが、翌年には皮膚がんの治療に使われている。 しかし放射線の影響は被曝した細胞や部位にしか影響がないため、当時のX線のエネルギーでは体内深部の臓器にまでは効率よく届かなかった。 資料1に放射線のエネルギーによる深部率曲線を示すが、深部X線(緑色の線)では皮膚面は100%当たっても10cm深部では約30%しか届かないので、 対向二門照射などの多方向からの照射法の工夫をしても効率は良くなかった。 そんな時代に電話を発明したベル氏はラジウム(Ra-226)など放射性物質を病巣に直接刺入する方法を提唱していた。

こうした延長上で、1920~1930年代には子宮頸がんに対して、子宮と膣にラジウム線源を配置した治療が行われ、手術成績を凌駕し、小線源治療法が確立された。

資料1 各種エネルギーの深部率曲線

この経過から、放射線治療の歴史は、がん病巣にだけ放射線を当て、病巣周囲の正常組織にはできるだけ照射しない照射技術の工夫の歴史であった。 幸い物理工学とコンピュータ-技術の進歩が合体して、最近の外部照射技術の進歩は著しいものがあり、現在は資料2に示すような照射技術が使われている。

資料2 外部照射技術の進歩(3次元~4次元照射)

以前はこうした外部照射技術が使えなかったため、私が就職した現在の北海道がんセンターは戦前は札幌陸軍病院であり、 Ra-226やCs-137の低線量の小線源を保有していたため、こうした小線源を使用した治療を行っていた。 そしてそれが私のライフワークともなった。

資料3 食道癌の腔内照射

50年前の食道がんは手術死亡率は5%前後の時代であったため、 進行食道癌に対して外部照射後にラジウム(Ra-226)管状線源を5本縦に配置して腔内照射を追加して20%前後の手術成績とほぼ同等な治療成績を得ていた(資料3)。 また全国の食道がんの放射線治療の全国調査では約10%前後であったが、当院で腔内照射併用の治療では約20%以上の生存率を得ることができ、世界一の治療成績であった。

また、セシウム針状線源はセシウム(Cs-137)の粉末を金属で被覆しβ線をブロックし、γ線のみを利用する治療であるが、資料4に2mCiのセシウム針とその舌癌治療例を示す。 術者は被ばくするが、視診・触診をもとに線源を刺入し配置する職人的な仕事である。 Cs-137はγ線もβ線も出している。 福島事故後に尿測定などでγ線の測定を行っているが、放射性微粒子を体内に取り込んだ場合は。 β線にも被曝しているのであるが全く報じられることはない。

資料4 舌癌の組織内照射

また資料5にAu-198(ゴールドグレイン粒子状線源)の治療例を示すが、 口腔底癌に対して33Gy外部照射して凸凹を少なくし、歯科医に依頼して、プロテーゼ(2万円)を作成してもらい、線源を瞬間接着剤で固定して、装着し治療した。 この手技料の診療報酬は当時2万円である。

こうした低線量率線源の治療では放射線管理区域内に鉛で囲まれた特殊なベットで管理し治療する必要があり、また医療従事者も被曝を余儀無くされ、診療報酬も低く赤字治療である。 このため、この治療は、病院施設の改築や新築の時に設置する施設は無くなり、線源供給も無くなったため、絶滅する治療となっている。 どんなに良い治療法でも儲からない治療法は消えるのである。

資料5 Au-198(ゴールドグレイン粒子状線源)の治療例

また資料6に悪性黒色腫の治療例を示す。 悪性黒色腫は放射線感受性が低く通常は放射線治療の適応とはならないが、たまたま旭川医大から2年間私のところで研修した医師が、大学ではすべての診療科で治療不能とされたので、 私の小線源治療を研修していたので、当院に紹介された症例である。 硬口蓋を中心に広がっている病巣であるが、資料5の治療と同様に上顎全体の型を作成し線源をアロンアルファで固定し食事時以外は装着して治療したものである。

資料6 口腔内の悪性黒色腫に対するAu-198粒子状線源のモールド治療例

資料7に10年以上前のデータであるが、3期の舌癌例の治療法別コストの比較を示す。 私は卒後3年程は眼科以外の外科手術に助手として研修をしたため、多少は外科的手技もできたので、機能と形態を残せる程度にまで腫瘍を減量し、 残存腫瘍も確実に治せる自信があったので、残存病巣に線源を刺入し治療したのである。 手術すればほぼ亜全摘以上となり、著しくQOLは低下し、医療費も10倍のとなる。

資料7 治療法別診療報酬の比較

術者の被曝の問題や管理区域内の特注ベットの必要性などもあり、現在は高い放射能の線源を遠隔操作で体内に送り込み、数分間の治療で小線源治療を行うRALS装置が使われている。 Co-60 やIr-192 といった極めて小さい線源(0.6㎜φ×3.5㎜)が使われているが、線源の放射能は370GBq(10Ci)であり、高線量率治療であるため、障害発生のリスクも高く慎重な使用とスキルが求められる。 資料8にRALS装置を示す。

資料8 遠隔操作式後充填法照射装置(RALS, Remote After-Loading System)

小線源治療が効果的なのは標的により多くの線量が投与されているからです。 資料9に最も正確に放射線量を測定できる指頭型線量計を示すが、約1ccの線量計の先端の空間の電離量を測定するが、線源が5mm離れていれば1ccの容積内で希釈され平均化されても、正確な線量の測定は可能である。 しかし、線源が線量計と接していれば、先端の1ccの中で希釈平均化されるため、正確には測定できず、5mmより近い部位の線量は技術的に正確に測定できない。 そのため、小線源治療では線源中心から5mm離れた位置での線量で計算し投与線量を決め治療していた。

資料9 指頭型線量計の限界

最近のPCの進歩により、放射線量の深部率曲線も算出可能となっているが、資料10にモンテカルロ法による治療計画装置でのCS-137線源の深部率曲線を示す。 γ線でもβ線でも線源と接している部位は超膨大に被曝しているのである。 このため、私が知っている約3万人の放射線治療を受けた患者さんから数人が10年以上経過して照射した部位から放射線誘発がんの発生を経験したが、誘発がん例は全例こうした小線源治療例であった。 線源近傍は超膨大に被曝しているため発がんしたものと考えられる。

原発事故後、全身の被曝影響を議論するのにシーベルト(Sv)という単位で議論されているが、目薬を経口投与して全身化換算しているようなSvというインチキな単位とは全く関係が無いのである。 ちなみに、照射されている標的体積を1mm3のボクセルの集合体と考え、各ボクセルの線量を計算し積算し、 平均化すれば、5mmの距離で計算して治療した投与線量と比較すれば、標的の全ボクセルを平均化した線量は約1.5倍の線量となる。 これが治療効果が高い理由である。

資料10日 Cs-137線源の深部率曲線

放射線の影響は基本的には被ばくした細胞や部位のみであり、線量分布を軽視•無視し、非被ぱく部位も含めて全身化換算してSvで評価することは人体影響を正しく評価できない。 従って、放射線治療の現場では物理量としてのBqと吸収線量Gyのみ使われるが、Svという単位を使用することは全くない。

長く放射線治療に携わってきたが、医学や科学の内容も国際原子力マフィアの意向で管理され、また医療現場では経済原則で動いていることを実感する毎日であった。 私がライフワークとしてきた低線量率小線源治療は最も障害のリスクも少なく、治癒を望める治療法であったが、絶滅しつつあることは残念に思う。 被曝して儲からない治療をするお人好しの医者は居ない。

私は多くの骨転移の治療も行ってきた。実際に集計してみると2年間で骨転移例の治療は455人、738部位の治療をしていた。 このため、Sr-89を使えるように論文を書き、薬事法を通して2008年に放射性医薬品として販売開始され、当院は日本一使用していた。 しかし約10年で製造中止となった。 資料11にSr-89に関する資料を示す。

資料11 Sr-89の関連データ

大きな施設で一次治療を行っても骨転移が生じた患者さんの治療は面倒を見ず、関連した開業医さんなどに紹介して鎮痛剤の投与などの骨転移の治療を依頼することが多い。 紹介された小施設ではアイソトープを扱う施設基準の資格がないことも多く、Sr-89の注射ができない。 このため、外来での注射一本で約3カ月間鎮痛効果がある薬剤は売れないため製造中止となった。 これががん医療の現場の実情なのである。 なお、Sr-89の一回投与量はICRPのインチキ計算では30Svに該当する。 2年間で7回靜注した患者さんもいたが、死亡することはなかった。 ICRPの内容で書かれている教科書では7Svの全身被曝が致死線量とされているが全く事実ではないのである。

唯一の被爆国である日本は、放射線治療の表の世界では治療機器は人口比では世界一多くの機器を保有しているが、 放射線治療学講座がある医学部は27/81校にすぎず、放射線治療に関する医学生の教育は充分ではない。 私が医師となった50年前は放射線治療学の講座があったのは、8/80校にすぎなかった。 このため、私は放射線治療で治る患者さんでも切る外科系の医師に文句を言い、効果判定のために効かなくても抗癌剤に固執する内科医に苦言を呈する藪医天唾人生となった。 癌治療では治療により治るのか、治らないのか、そしてどんなQOLの生き様となるのか多少は先が見える薮医者で結構だと思っている。 しかし癌治療が専門でない医師は先が見えない土手医者となる。 こうした診療姿勢だったことも関係しているのかもしれないが、北海道は日本一放射線治療が使われていた。 国立がんセンターに長く勤めていた放射線治療医の築山巌先生が、退職後に会津の病院に勤めたが、あまりにも福島県では放射線治療が有効に利用されていない現場を見て日本の都道府県別の放射線治療の利用率を調査した。 その貴重な調査結果を資料12に示す。

資料12 都道府県別の放射線治療利用率

放射線の医学利用に関して最低レベルの福島県で原発事故が起こったのは皮肉としか言いようがないし、事故後の対応も住民不在の対応につながっているのである。 例えば、モニタリングポストは基礎工事して設置し1mの高さの空間線量を測定しているが、公園などの滑り台から滑って立ち上がる地上から20~30cmの所はモニタリングポストの3倍となっている。 またモニタリングポストの内部操作で表示値は約半分としている。 これが新聞に掲載される公的な記録となるので、将来健康被害が出ても線量との相関関係の正確な分析もできないのである。 100Kgの体重の人が、体重計に乗れば、50Kgと表示されるようなものである。 資料13にそのインチキモニタリングポストの実態を示す。

資料13 モニタリングポストのデタラメ

資料13の左上のグラフは、赤点は市民が測定した実測値であり、青点はモニタリングポストの表示値である。 一時期、2台のモニタリングポストが併設されていたが、事故後に設置されたモニタリングポストの会社に内部操作で表示値を低くするように政府・行政が圧力をかけたが、 米軍が使用している測定機器であり、そんな誤魔化しはできないと拒否したため、契約解除し、富士電機のモニタリングポストに変えられた。 そのため、一時期2台並んでいたのである。

資料14に切腹の美学の国である日本の子宮頸がんの手術実施率を先進国との比較で示し、当院の治療成績も示す。

資料14 子宮頸がんの切除率の国際比較と放射線治療成績

日本では外科治療優位であり、薬好きの国民性もあり、傍結合織に浸潤して完全には切除できないⅢ期の症例でも日本は手術しようとしていた。 放射線治療では半数以上が治癒させることができるのである。 こうした現状を改善するために、私は医学部教育が不十分である現状で、患者さんが不利益を受けることを避けたいと思い、この『市民のためのがん治療の会』を立ち上げたのである。

資料15に患者会の設立に踏み切った実例を提示するが、患者さんも早期発見に無自覚すぎる。 毎日着替えるたびに乳癌は分かるであろうし、また朝夕の歯磨きの時に口腔内の異常は自覚できるが、全ての病院でギブアップするまで放置している人もいたのである。 また外科医は3回の手術後にギブアップして放射線科に送ってくる。 子宮がんの傍大動脈リンパ節転移が出てくれば、治しきれない抗癌剤治療を1年間も行ってギブアップして放射線科に紹介する。 これが当時の現場だったのである。

資料15 がん治療現場の問題症例

こうした最後に「放射線治療でもしようか、放射線治療しかなくなった」として紹介される多くの症例を扱っていた経験を経て、たまたま東京からⅢ期の舌癌で来院した會田昭一郎氏が2年後に退職し、 時間的余裕もできたこともあり、当会を立ち上げたのである。 2003年に放射線治療医の学会である日本放射線腫瘍学会(JASTRO)の学会開催時に市民公開講座があり、学会長をしていた旧友の癌研病院の山下孝会長が、設立宣言の場を与えてくれた(資料16)。 そこで当会の設立を宣言し全国の放射線治療医に協力をお願いした。 その後、協力医として全国から60人も名乗りを上げて頂いた。 私と同じ思いをしていた放射線治療医が多かったのだと思った。

資料16 『市民のためのがん治療の会』の設立と目的

放射線の影響は基本的には被ばくした細胞や部位のみであり、線量分布を軽視•無視し、非被ぱく部位も含めて全身化換算してSvで評価することは人体影響を正しく評価できないのです。 従って、治療の現場ではSvという単位を使用することはない。

長く放射線治療に携わってきたが、医学や科学の内容も医療現場も経済原則で動いていることを実感する毎日であった。 私がライフワークとしてきた低線量率小線源治療は最も障害を作らず、治癒を望める治療法であったが、絶滅しつつあることは残念に思う。

今後も2週間に一回のペースでホームページ上でがん医療に関する情報を提供していく予定である。 市民に正しい情報を知らせたい皆さんの投稿もお待ちしています。 また当会の設立から20年となるが、ホームページを維持して頂いているAET株式会社エーイーティーと代表取締役 田辺英二氏に心から感謝申し上げます。

(了)


西尾 正道(にしお まさみち)

1947年函館市出身。札幌医科大学卒業。 74年国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現北海道がんセンター)放射線科勤務。 2008年4月同センター院長、13年4月から名誉院長。「市民のためのがん治療の会」顧問。 「いわき放射能市民測定室たらちね」顧問。 内部被曝を利用した小線源治療をライフワークとし、40年にわたり3万人以上の患者の治療に当たってきた。 著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、 『がんの放射線治療』 (日本評論社)、 『放射線治療医の本音-がん患者-2万人と向き合ってー』 ( NHK出版)、 『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、 『放射線健康障害の真実』(旬報社)、 『正直ながんの話』(旬報社)、 『被ばく列島』(小出裕章共著・角川学芸出版)、 『患者よ、がんと賢く闘え!放射線の光と闇』(旬報社)、 『被曝インフォデミツク』(寿郎社)、など。 その他、専門学術書、論文多数。
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