市民のためのがん治療の会
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『今冬のインフルエンザシーズンに向けて、ワクチンでしっかり予防しよう』


ナビタスクリニック新宿
院長 濱木 珠恵
今年のインフルエンザの流行は例年は12月頃から感染が増加するが、8月後半から増加しはじめ、国立感染症研究所によれば12月10日までに定点当たりの報告数は1医療機関あたり33.72人で、警報レベルの30人を超えた。2021、22年は新型コロナ感染症の流行でインフルエンザの流行がなかったためインフルエンザに対する集団免疫が低下していることが大きな原因とみられる。
がん患者にとっても十二分に対策を講じるべきことだ。
そこでナビタスクリニック新宿院長の濱木 珠恵先生のご寄稿が大変有益と考え、転載のご許可をいただき掲載するものです。

なお、本稿初出は医療ガバナンス学会 2023年12月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行(http://medg.jp)です。
(會田 昭一郎)

先日、高校三年生になる知人の娘さんが、今シーズン2回目のインフルエンザワクチンを接種するために来院した。 インフルエンザの流行が収束しないことを心配した父親が、旧知の医師に相談したところ、「受験生なら、今年は二回接種しておいた方が無難だ」と勧められたためだ。 私も、その考えに賛成だ。

我が国では、12才以下の小児が二回、13歳以上で一回接種が推奨されている。 彼女は、すでに10月に接種を終えていた。 なぜ、追加接種が必要なのだろうか。 それは、4年にわたるコロナパンデミックで、多くの感染症に対する免疫力が低下しているためだ。

その象徴が、最近の中国での感染症の流行だ。 11月末、中国で北京などの北部を中心に肺炎が集団発生したという報道があった。 「中国で原因不明の呼吸器疾患」といわれると、またも未知の感染症が発生したかと懸念されるむきもあるかもしれないが、実際には既知の病原体による感染症が原因だ。

北京市内の「法定伝染病」患者報告数は11月中に急激に増加しているが、増えているのは現在は季節性インフルエンザだという(参照1)。 中国では今年5月以降マイコプラズマが流行し、10月以降インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルスなどの小児感染症が流行している。 これは2019年末のパンデミック以来、久しぶりにCOVID−19の感染対策が解除された影響と考えられ、決して予想外の事態ではない(参照2)。

すでに新型コロナへの制限措置を緩和していたほかの国でも同様のことが起こっている。 2022年の米国では、米国各地で、新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス感染症が流行し、病院は重症化した小児や高齢者で占拠された。このことは「トリプルデミック」と呼ばれ、米国メディアが大きく報じた。

インフルエンザは、季節はずれの10月頃から増加し、11月のインフルエンザによる入院患者数は2010年以来の最多を記録した。 2020年、2021年にはほとんど発生しなかった小児のインフルエンザ関連死亡は、コロナ前と同様のレベルまで増えた(参照3)。 2023年も同様の傾向があり、米国疾病対策センター(CDC)によると、今年も全米ではインフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルスによる呼吸器疾患が流行しているという(参照4)。 各種の感染症の増加は、パンデミックの感染対策緩和後にありがちな現象のようだ。


私は日本でも同様のことが起こるのではないかと懸念している。 日本でも、パンデミックの2020〜2022年はインフルエンザの大きな流行がなかった。 普通に流行していれば不顕性感染や軽症の感染で自然免疫を活性化できたかもしれないが、その機会がなかった。インフルエンザワクチンをうたずにいた人たちも少なくない。 また、つまり、パンデミック前と違って今年はインフルエンザに対し無防備な人が多いのだ。 日本では夏頃からインフルエンザが流行しており、勢いが止まる気配がない。 これは多くの人で、インフルエンザに対する免疫力が低下しているためだ。 医学的には「集団免疫」の低下という。 (参照5)。

特に心配なのは今冬だ。 それは、新型コロナウイルスが5類感染症の扱いとなり、初めて迎える冬だからだ。 ここまで、インフルエンザの流行状況は異様だ。 東京では8月半ば頃からA型インフルエンザ患者が目立つようになり、9月21日に東京都でインフルエンザ流行注意報が出され、いまだ解除されていない。 その後、東京都のインフルエンザ患者数は10月中旬をピークに少しずつ減ってきていたのに、11月半ばからは再び増え始めている。(参照5)。

札幌市も同様だ。札幌市は、下水中のウイルス量を測定することで感染症の流行傾向を把握しているが、ここでも11月以降のインフルエンザウイルスの下水中の濃度は上昇傾向だ(参照6)。 夏の数値よりも検出されるウイルスの量は増えており、今後、感染が爆発的に拡大してもおかしくない。

通常、日本でのインフルエンザの流行は冬だ。 例年、12月末頃から流行が始まり、1〜2月をピークに、4月以降に流行は下火になる。 今年、10月に収束し始めたかに見えた流行が再燃していることに危機感を感じる。 夏場の流行だけでは、十分な集団免疫が獲得できていないのだろう。 このまま、流行が拡大し、昨冬の米国や今冬の中国のようになるかもしれないというのは、十分に予想されうる事態だ。


では、どうすればいいのか。今からでも遅くないので、ワクチン接種をしてほしい。 インフルエンザワクチンは重症化や死亡率を減らす。 65歳以上の死亡抑制効果は、約80%という報告もある。 さらに、今年は大人も2回目の接種を考えてもいいと思う。 例年、過去の感染やワクチン接種で一定の免疫獲得している成人は、単回接種でも十分にインフルエンザに対する免疫が活性化とされると考えられている。 だが、4年にわたり、インフルエンザが流行しなかったため、多くの人で免疫レベルは著しく低下しているはずだ。 一回より二回接種の方が強い免疫が誘導される。 受験生など、人生の大きなイベントが控えている人には追加接種をお勧めしたい。 幸い、今年のインフルエンザワクチンは今のところ十分に生産されている。 是非、身近な医師にご相談いただきたい。


濱木 珠恵(はまき たまえ)

医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿 院長
北海道大学卒業。国際医療センターにて研修後、虎の門病院、国立がんセンター中央病院にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。 都立府中病院、都立墨東病院にて血液疾患の治療に従事した後、2012年9月よりナビタスクリニック東中野院長、2016年4月より現職。 専門は内科、血液内科。生活動線上にある駅ナカクリニックでは貧血内科や女性内科などで女性の健康をサポート中。
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