『2024年6月より根治切除な困難な肺癌(I期からIIA期・肺癌取り扱い規約)に対する粒子線治療が保険適用へ』
院長 沖本 智昭
粒子線治療の最新エビデンスである『先進医療成果論文を含むシステマチックレビューと統一治療方針による粒子線治療のレジストリの解析』では以下の内容が報告されました。
① 早期肺癌(5㎝以下でリンパ節転移なし)に対する粒子線治療は、ピンポイントX線治療(以下SBRT)と比較して全生存割合と無増悪生存割合において優越性が示唆された。
② 早期肺癌(5㎝以下でリンパ節転移なし)に対する粒子線治療は、間質性肺炎合併例での放射線肺臓炎発生リスクがSBRTより優位に低下することが示唆された。
上記の報告等を先進医療会議、医療技術評価分科会、中医協総会で検討された結果、根治切除困難なI期からIIA期の肺癌に対する陽子線治療と重粒子線治療が保険適用となる事が決定しました。
様々な理由で根治切除困難な早期肺癌患者。 特に、間質性肺炎やCOPD合併例、肺切除や肺に対する放射線治療後、縦隔肺門近傍例は粒子線治療の有効性が特に高い症例です。 陽子線治療または重粒子線治療を治療選択肢として検討してください。尚、切除拒否症例も対象となります。
以下に『先進医療成果論文を含むシステマチックレビューと統一治療方針による粒子線治療のレジストリの解析』から早期肺癌に対するSBRTと粒子線治療の比較した結果を記載します。
解析対象のシステマティックレビューで選択された文献(SBRT5篇、粒子線治療15篇)における対象の背景および総計解析(メタ解析)結果
治療方法 | 解析対象 | 年齢中央値 | 手術不能例の割合 |
SBRT | 5篇 | 72-79歳 | 68.6% |
粒子線治療 | 15篇 | 70―82歳 | 52.0% |
治療方法 | 3年無増悪生存割合 | 3年生存割合 | G3以上の肺臓炎 |
SBRT | 49.5% | 60.4% | 3% |
粒子線治療 | 66.0% | 78.7% | 2% |
5年生存割合%(2010年肺癌外科切除例全国集計と切除拒否283例の粒子線治療との比較)
治療方法 | 0期 | IA1期 | IA2期 | IA3期 | IB期 | IIA期 |
外科症例 | 97.0 | 91.6 | 81.4 | 74.8 | 71.5 | 60.2 |
粒子線治療 | 100 | 100 | 87.5 | 79.4 | 78.4 | 38.8 |
間質性肺炎合併例における結果
治療方法 | 年齢 | 腫瘍径5㎝以下 | G2以上の肺臓炎 | G3以上の肺臓炎 |
SBRT(7文献) | 75~78歳 | 99% | 43% | 20% |
粒子線治療(5文献) | 71~79歳 | 90% | 13% | 5% |
早期肺癌に対する兵庫県立粒子線医療センターのプロトコール
治療方法 | プロトコール1 | プロトコール2 |
重粒子線 | 60Gy(RBE)/4分割/1週間 | 69.6Gy(RBE)/12分割/3週間 |
陽子線 | 66Gy(RBE)/10分割/2週間 | 66Gy(RBE)/30分割/6週間 |
尚、保険適用とならない局所進行肺癌は、引き続き先進医療Aとして継続していくこととなります。
平成2年 長崎大学医学部卒業後同放射線科入局、同放射線科医員、広島県立広島病院放射線科医長、山口大学医学部附属病院放射線科講師、 北海道がんセンター放射線診療部長を経て平成26年から兵庫県立粒子線医療センター副院長、平成27年から同院長となり現在に至る。 この間平成8年から2年間テキサス大学ヘルスサイエンスセンター・サンアントニオ研究員。
専門 放射線腫瘍学 粒子線医学 放射線病理学
資格 医学博士、放射線治療専門医 がん治療認定医、神戸大学連携大学院教授、大阪大学招へい教授