市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
ここでも消費者=患者不在の業界の争いか

『新専門医制度に潰される「がん」専門医とがん難民を見殺しにする日本専門医機構』


仙台厚生病院 医学教育支援室
遠藤 希之
ショッキングなタイトルではないか、「がん専門医新専門医制度に潰され」、「がん難民は日本専門医機構に見殺しにされる」ということになるとしたら、大変な問題です。 しかもこういう制度的な問題は、一旦実施されると長期的に実施され、この場合でしたらそういう訓練を受けた医師が大量に世の中に出て行き、その影響は非常に大きいものとなります。 見殺しにされる私たちがん患者はどうしたらいいでしょう。
そんなに重大な問題なのに社会的に大きな影響を及ぼすメディアもほとんどこの問題について取り上げないようです。 毎日毎日大相撲の不祥事や政界、芸能界の不倫問題などに明け暮れており、市民は市民で、「専門医? なんじゃそれ」程度。 何でもそうですが、最大の敵は無関心。市民の中でもがんに関心のあるはずのがん患者団体なども、正面切って専門医制度について問題提起しているところは、寡聞にして知りません。
今のところは医療側の、業界内部のゴタゴタ、勢力争いのようにも見えます。 またぞろ消費者=患者不在の業界の争いで、肝心の患者はそっちのけ。
当会ではこの問題について既に「市民レベルでは全く知られていない「専門医」『新専門医って何? 良いことあるの?』」と題して、ロハスメディカルの川口先生にご寄稿いただきました。
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20170926_lohasmedical
併せてご覧ください。
なお遠藤先生のこのご寄稿は、2017年3月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jpをご許可を得て転載させていただいたものです。
(會田 昭一郎)

みなさま『がんプロ』、がんプロフェッショナル養成プラン、をご存知ですか?

日本人の死因の一位は悪性腫瘍です。日本は臓器ごとの比較的早期の癌治療には優れていますが、 ステージが進んだ患者の化学療法や、特に「がん緩和ケア」などのがん専門医の数、養成は欧米に較べて非常に遅れています。


この原因として、臨床医の専門領域の縦割りによる弊害がとても大きいと考えられています。

そこで、平成19年4月施行の「がん対策基本法(第14条)」に基づき、文部科学省が「がんプロフェッショナル養成プラン」通称「がんプロ」を計画、実行に移しました。

具体的には“がん医療の担い手となる高度な知識・技術を持つがん専門医師及びがんに携わるコメディカル等、 がんに特化した医療人の養成を行うための大学(大学病院、大学院)の優れた取り組みを支援する”というものです。


そして、複数の大学医学部が「がんプロフェッショナル専門医養成コース」を設け、認定されています。 いずれも「大学院博士課程4年間」に、がん臨床とがん研究との教育指導の両者をバランスよく按分することにより、 学位の取得とともに「各科専門医資格、 腫瘍専門医認定が得られる」ことを目指すプログラムを作っています。

ところが、今度の「新専門医制度」では、折角始まったがんのプロフェッショナル育成がストップしてしまう可能性がとても高いのです。


日本専門医機構の理事長、吉村氏は3月17日の理事会後の記者会見でこのように発言しています。 『新専門医制度について改めて「診療に従事する医師は、原則としていずれかの基本領域の専門研修を選択し、少なくとも3年の研修を受けてもらいたい」と呼びかけた』(以上、m3.comの記事)。

がん専門医、がん緩和ケア専門医などは、吉村氏のいう基本19領域や、その二階建て部分にあたるどこにも属していません。 今後、最も必要とされる専門医の一つにも関わらず、です。 文科省認定の大学院でのプログラム研修はもとより、がん専門医、がん緩和ケア専門医などは専門医機構の理事長や理事の旧弊な頭の中には入っていないと見えます。

これに危機感を持った、京都府立医大細川教授が、第5回がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会(厚労省、健康局がん・疾病対策課、2016.11.29)で発言しておられます。

少し長くなりますが、非常に重要な内容が記載されていますので、厚労省公表の議事録 (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000149493.html)から引用します。


・・ それから(略)緩和医療の専門医というのは、現在の専門医制度の中にこれは組み入れられていらっしゃるのでしょうかという確認をお願いします。

○福井座長 細川構成員、どうぞ。

○細川構成員 多分、一般の方は御存じないと思うのですが、今、1階部分と呼ばれる19の基本学会があります。 緩和医療の専門医も含め、多くの方が知っておられるような専門性の高い心臓血管外科や呼吸内科・外科、糖尿病やリハビリテーションなどの専門医というのは多くはその19の基本学会以外、2階、3階と言われる学会に属します。

まずその1階のところがまだまとまっていないのに2階には行けないのが専門医機構の調整の現状です。 また、専門各科にも、例えば心臓血管外科というのはその下の1階が外科ということ、これは分かりやすいですね。 でも、緩和ケアとか、ICUなどは、その1階になるべき科が、いったい外科なのか、内科なのか、というより緩和ケアなら“がん”を扱う科の全部がそこに含まれます。 そうすると、所属する一つの1階の科が決まらないという状態になります。

それと、文科省の方が今日おられますが、文科省がやっている「がんプロフェッショナル」というものがございます。 あれは実はこのがんプロの大学院を卒業すると、緩和ケアの専門医かオンコロジー・腫瘍学の専門医そして放射線治療学の専門医のいずれかの専門医の受験資格が得られるということが一つの“うたい”なのです。 これはもし今、専門医機構が考えている1階の基本学会の19のどれかの専門医資格がなければ2階以降は取れないということが実現しますと、 がんプロの方は大学院生、つまりお若い先生が多いので、1階を持っておられない先生がほとんどと言っていいほど何ぼでもおられるのです。
そういった方々は今後一切2階以降の専門医の資格はどれも取れないということになります。 この辺を文科省と厚労省が話し合われたということをお聞きしたことが一度もありません。 がんプロフェッショナルは現在、継続の予算申請が28億円ほどで文科省 から出されており、来年も第3期で継続される可能性が高いということです。 この時点ですり合わせをしておいていただかないと、専門医機構が走って、1階がなければ2階以降はないとなった場合には厚生労働省と文科省の間の大きな齟齬として、 また「最初の看板に偽りあり」で訴訟になるということも起こってくる 可能性があると思います。 このあたりはよろしくお願いいたします。

○桜井構成員 ぜひそこをお願いします。そうでないと若手の人材が私は入ってこないと思っているのです。 これから緩和ケアを行き届かせるためにも、そのあたりの専門医制度設計の話をぜひ討論していただきたいと思います。
(引用ここまで)


この議事録にある意見を専門医機構は無視したようです。 また、文科省と厚労省の話し合いもあったのか、もみ潰されたのか、表にはでてきていません。

つまり、わが国の「がん緩和ケア」という世界的に見て最も遅れている医療領域、しかも今後、国民にとって最も必要になる一つの領域を、専門医機構は黙殺した。 細川先生いわく「専門医機構が走って、1階がなければ2階以降はない」という状況に追い込んだのです。


がん緩和ケアは、末期がんの患者さんだけをみるどころか、がんと診断された時から、患者さんの精神的サポートを行います。 その専門医は、がん患者さんにとってとても大きな力になるのです。


実はがん診療だけではなく、その他にも領域を横断する医療が次々と生まれてきています。 内科と外科の垣根が低くなり、共同で手術をする治療も珍しくはなくなりました。また婦人科と泌尿器科両者が手を結ばないと難しい領域もあります。

既存の硬直した縦割り領域だけで専門医を設ける「前時代的な感性」で暴走しているのが、現在の専門医機構と機構吉村理事長です。

医療の進歩についていけない年配の偉い先生たちが、密室で決めた「新専門医制度」では、日本の医療がよくなるわけがない。 がん患者さんたちがより幸せな一生を送ることができない。そういうことなのです。


とにかくおかしい制度です。この制度をまともなものにするためには、現場で働く医療従事者の意見はもちろん、患者さんたちの声が絶対に必要です。

そう感じたみなさま、ひとまず新制度の施行をストップさせませんか?


遠藤 希之(えんどう まれゆき)

東北大学医学部平成4年卒。一般外科3年研修後、東北大大学院・医学研究科、病理学専攻修了(平成11年)。 東北大学病院病理部を経て、平成18年より仙台厚生病院勤務。 現在、仙台厚生病院、臨床検査センター・センター長、兼、病理診断科 部長、兼、医学教育支援室・室長。 日本病理学会・病理専門医、指導医、日本臨床細胞学会・細胞診指導医、厚労省認定・臨床研修プログラム責任者。 全日本スキー連盟・スキー1級、国際スキー技術検定・セミゴールド。秋田県、秋田市出身
Copyright © Citizen Oriented Medicine. All rights reserved.