市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会

『年頭に当たって』


市民のためのがん治療の会
代表 會田 昭一郎

はじめに

昨年は一昨年の「市民のためのがん治療の会創立15周年記念講演会」での当会活動一区切りを受けてリニューアルスタートした。 年頭に当たり、これまでの活動を振り返り、改めて「市民のためのがん治療の会」の今後の活動の指針を考えてみたい。

「市民のためのがん治療の会」の活動の原点は何かと考えるとき、それは「自分の命、治り方、健康は、自分で守る」ということであり、 そのためにこれらに関する「情報公開」を追求し「患者自らが考える」ことを追求してきたことだったと思う。

がん治療は救命が第一であるからまずは救命に全力を尽くす。 だが、命さえ助かればどうなってもいいかというと、治療後のQOLをできるだけ高く保てるようにすべきだ。 さらには薬剤摂取など健康保持についても十分な情報提供を受け、適切な処置が講ぜられなければならない。

これらを最適に実現するためには、公開された情報に基づき「自ら」判断し選択しなければならない。 ただ、医療情報は他の消費者情報とは異なり、患者=消費者と医療提供者との間に極めて大きな情報ギャップがあるので簡単には患者が判断したり選択したりすることが困難な場合がほとんどであろう、 そこで「市民のためのがん治療の会」のような専門家と市民をつなぐ仲介者が必要になる。

このようなことをバックグラウンドとして、「市民のためのがん治療の会」が今後考えてゆかなければならないことを「自分の命、治り方、健康は、自分で守る」ということで整理しながら示して見たい。

なお、それぞれの項目については「cf」表示を参考資料として活用されたい。

「自分の命は自分で守る」

1.セカンドオピニオンの活用

主治医から治療方針が示されても、緊急な場合でなければ「市民のためのがん治療の会」に限らず信用できると思う病院や医師、相談内容によっては患者会などのセカンドオピニオンを求める。


2.他科の治療法についても情報収集する

現在治療はほとんど診療ガイドラインに従って行われることが多いが、 診療ガイドライン策定のための委員会のメンバはほとんどが関連する疾患の専門診療科の内科医や外科医であり、放射線治療医はほとんど見受けられないため、 今や長足の進歩を遂げつつある放射線治療について検討される機会は少ない。 主治医に治療方針を説明されて「よろしくお願いします」だけではなく、ほかに手はないのかと、少し立止まってみる必要があるだろう。 当会の放射線治療医によるセカンドオピニオンはその有力な武器だと思う。

cf 最後まであきらめなかった小線源による組織内照射
http://www.com-info.org/tiso.php?so_20181113_taguchi


3.市販の「がん放置療法」などの書籍

書店に行けばがん治療についての書籍が沢山あり、インタネットには無数の情報がある。 それらの多くは奇跡的な回復を強調するものが多いようだが、中には結局はそれらの書籍が勧める治療法に誘導するようなものも少なくないので注意が必要だ。
また、その治療法があなたにもベストの選択かどうかもわからない。

cf 「がんとの正しい闘い方」を西尾正道医師に訊く
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20190723_nishio


4.代替療法などに対する対応

これも上記同様、特にインタネットなどには「死の淵から蘇った」などのセンセーショナルな文字が躍っている。 多くは有名な俳優などの体験談などが添えられているが、これらのエビデンスがない治療法に命を懸けるのは決して勧められない。


5.治療法選択には「治り方」、つまり治療後のQOLに留意して

直接の治療はそんなに長期にわたることは少ないことがほとんどだが、 治療部位によっては発声・構音能力を失う、排尿・排便機能を失うなどのQOLの低下は、生涯に亘って通常の生活を大きく制限する。 他の治療法でこれらの能力を失わないまでも大きく損なうことがない治療法があるかどうか、治療前に十分検討すべきだ。 治療してしまってから嘆いても後の祭りだ。


6.大切ながん検診もよく考えて

次に再発・転移などの予防のためのがん検診についてもよく考えるべきだ。
例えば先年問題となった肺がん検診のX線間接撮影、胃がん検診のバリウム検査の問題など、利権がらみで行われている旧態依然の検診などには注意が必要だ。 自分を守ろうとするなら、こういう面でも情報選択が必要だ。

cf 問題だらけの肺がん検診、見落としが相次ぐわけ
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20190507_kami


7.HPVワクチンについて

全身に亘る激しい痙攣や麻痺・疼痛などの副反応のため、現在は積極的な接種勧奨は行われていないが、 強制的な接種は行われないとしても情報収集を行い、自らの判断で接種するかどうか決めるのが妥当な選択法ではないだろうか。


8.今だけ、金だけ、自分だけで済むことだろうか

最後に直接自分には関係ないと思って何もしなくていいだろうかという問題について、医療機関の損税の問題、医師の働き方改革、医療安保などについて述べる。
医療機関の財務状況はどこも決して良くなく、なかでも消費税増税により、患者からの収入(非課税)と医療機関の支出(課税)の差が開くばかりで、経営はますます圧迫されている。
仮に10億円の治療機器を購入すれば、消費税10%なら病院は1億円の消費税を支払わなければならないが、8%なら8千万円でよかった、今回の増税で2千万円の増税となる。 2千万円の売り上げは比較的簡単だが、2千万円の利益を出すのは至難だ。
こうして医療機関の財政状況は悪化し、医療機関が破綻したら困るのは患者だ、自分は非課税だからと言って知らん顔を決め込んでいていいだろうか。
医師の働き方改革も同様だ、よく笑い話で、手術台で患者が「先生、昨夜寝ましたか」と聞くというのがあるが、本当に医師が手術中に居眠りしているような場合もあったというような話も聞く。 これも自分の問題ではないかもしれないし、医療機関内の問題だと言って無関心でいいだろうか、医師が倒れて困るのは他ならない私たち患者だ。
最後に「医療安保」について考えてみよう。
昨年、ストロンチウム89が海外で製造中止になり、骨転移に伴う疼痛緩和の有力な薬剤を失った。 すべてを海外に依存していたため私たちがん患者はストロンチウム89という疼痛治療薬を失ったのである。 このことはメディアでもほとんど報道されていない。
このようにすべてを海外に依存していると、患者は大きな不利益を被る。 国内生産などに向けての患者サイドの運動なども全くない。

cf放射性医薬品Sr-89の販売中止について
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20190219_nishio

もう一つ付け足すが、主治医が図などを描いて行う説明資料やCTスキャンやMRIなどで撮影された画像資料をCD-Rにして必ずもらっておき、時系列でファイルしておけば後で何かと役に立つ。 CD-Rは患者が支払ったもので、患者のものだ。


「市民のためのがん治療の会」はこの16年間このようなことに努力し、皆さんがこれらを実行する場合のお手伝いをしてきた。 これからも下記の3点を柱に活動を続けてゆきたいと思っております、どうぞ本年もよろしくご支援ご協力のほどお願いいたします。

  • セカンドオピニオンの充実
  • がんは「生活環境病」であるという考え方の普及啓発
  • 免疫療法についての普及啓発
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