市民のためのがん治療の会
市民のためのがん治療の会
どうする!子宮頸がん対策

『子宮頸がんワクチン問題を考える―予防接種より検診を!―』


「市民のためのがん治療の会」顧問 西尾 正道
当会はがんに対して、
1.できるだけ分かっている危険は避けて罹らないようにし、検診を受ける
2.罹患したらできるだけ1期で最適な治療を受け局所制御する
3.標準治療に行き詰まったら本人の希望する治療も検討するが、エビデンスの無い高額・悪質な医療等には引っかからないようにする
という方針だが、1.に関連して、代表的な喫煙の危険性には毎年5月の国際禁煙デーに喫煙の危険性等についての情報提供や、タバコ問題情報センターの活動等に賛同して活動している。
同様に発がんの原因として特定されたHPVに対するワクチンが開発され、日本でも投与が開始されたのをきっかけに、これが普及を推進してきた。
当初の問題点は、接種に約6万円程度が必要ということで、普及を進めるうえでも家計の負担を軽く、できれば無くす、つまり公費による全員接種を運動の目標として、下記のような取り組みを行い、「がん医療の今」でも情報提供してきた。

急増する子宮頚がん、ワクチン接種で予防を!
若い女性にも多く、子宮を失ったりする悲劇を減らそう『子宮頸がんのお話』
北海道対がん協会 細胞診センター 藤田 博正
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20091125_fujita

子宮頚がんワクチン無料接種を 保険収載で財政的にも目途が
要望書を鳩山由紀夫内閣総理大臣並びに長妻昭厚生労働大臣に対し送付
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20100104_aida

子宮頸がんは原因が解明されているがん、だから、本当に予防が可能!
自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授 今野 良
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20100203_konno

国立市議会、子宮頸がんについての意見書全会一致で採択、総理大臣等へ提出
「子宮頸がん撲滅のための施策を求める意見書」
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20100506_nakagawa

「教育」こそキーワード『子宮頸がんから女性を守るために』
横浜市立大学附属病院 化学療法センター長・産婦人科 宮城 悦子
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20121003_miyagi

『スマホから「子宮頸がん予防」を伝える~女子向けアプリ企画者としてできること~』
株式会社サイバード 女性向けスマートフォンアプリ「女子カレ」ディレクター
小村 牧子
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20121017_omura

ところが接種が進むにつれて、様々な問題が発生してきたため下記の寄稿をお願いし、情報提供行った。

副反応実態をよく知って判断を 『子宮頸がんワクチンの現状と問題点』
「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」 杉並区議会議員 曽根文子
http://www.com-info.org/medical.php?ima_20130522_sone

今回、問題が発生して以後の状況を踏まえ、改めてその問題点等について西尾先生からの寄稿を掲載し、では、子宮頸がんワクチンの接種を止めるとすればどうすれば子宮頸がんで母性を失ったり、死亡するなどの悲劇を防止することができるか、について考えたい。
(會田 昭一郎)
はじめに
 HPV(ヒトパピローマウイルス)の16型と18型は子宮頸がん全体の約7割の原因となっているとされ、予防ワクチン(商品名:サーバリックスおよびガーダシル)が開発された。世界120か国以上で承認され、50か国以上で公費による接種が行われていることから、当会でもこの発がんを抑える予防ワクチンの公費による接種を厚労省に要望し、日本産婦人科学会の意見も会報に掲載した。2013 年4 月から定期接種(3回接種、約5万円)の対象なった。
しかし副作用の問題が明らかとなり、厚労省は定期接種から一転して「積極的には勧奨せず」という姿勢に変わった。その理由は、接種直後や数日以内の失神や意識消失に関する報告が、他のワクチンに比較して多いことや、「原因がわからない」持続する痛みの報告が多いこと、そして自己免疫疾患を発症する危険性が否定しきれないことなどである。現実の副作用報告としては、2013年9月までに2名の死亡例を含む2320件の副反応が報告され、その中でも重篤な副反応は1083件とされている。また2013年10月から2014年3月末まででも副反応件数は180件(重篤例:150件、未回復例:45件)である。
 副作用の症状としては、失神・頭痛・発熱・全身の痛み・痙攣・呼吸困難・吐き気・記憶障害・計算障害・四肢の機能障害・歩行障害、難病、知覚異常、全身脱力、CRPS(Complex Regional Pain Syndrome, 複合性局所疼痛症候群)などであり、従来のワクチンでは見られないものがあり、一生台無しになるような中枢神経系の重篤なものが含まれている。
 こうした現状の中で、世界保健機構(WHO)のワクチンの安全性に関する専門委員会(GACVS)は2014年3月に「HPVワクチンの推奨に変更を来たすような安全性への懸念を確認していない」とする声明を出し、また多くの日本の著明な婦人科医達も、副作用が過剰に取り上げられているとして、接種を推奨する立場を維持している。そこで私なりの現状の判断を書かせて頂くこととした。

ワクチンの製造手法の問題
 従来のワクチンは、①生きたウイルスの毒性を弱めた弱毒化ワクチンと、②ウイルスの増殖能力をなくした不活化したワクチンが使われていた。ポリオの生ワクチンは感染のリスクがあり不活化ワクチンとして製造されている。しかし、子宮頸がんのHPVワクチンは、③ウイルスを分解して成分だけを取り出したスプリットワクチンである。これは、HPV16 型と18 型のウイルスタンパクを遺伝子操作で作り出し、これをウイルスのような形に再構成して作り直し、ウイルスに似たウイルス様粒子(VLP, virus-like particle)とし、抗原性を持たせたものである。すなわち遺伝子操作で抗原性に関係した蛋白成分を抽出し製造しているため、想定外の副反応が出る可能性は否定できないのである。こうして製造されたウイルス様粒子は遺伝子を持っていないので、体内で増殖はできないが、充分な抗体ができないため、高濃度の抗体を血中に作り出し、また効果を持続させるためにアジュバントという免疫増強剤やアルミニウムを添加して製造されている。ちなみにサーバリックスはHPV 16および18のL1タンパクと免疫系を賦活させるリン酸化リピッドA(MPL)とアルミニウムをアジュバントとして添加している。こうし免疫系の増強を工夫しアジュバントを添加した製剤設計のため、従来の弱毒化ワクチンや不活化ワクチンでは出現しなかった副反応が生じる可能性は否定できないのである。
 また世界中で数億人以上に使用されても日本ほど副反応が問題となってはいないとされているが、こうした化学物質においては民族的・人種的な差異もありうると考えるべきである。肺癌の分子標的治療薬イレッサが人種により効果が異なることとも最近の教訓としてある。

子宮がんの現状。
 日本の女性が一生の間に子宮頸がんに罹る生涯罹患率は1.1%、生涯死亡率は1000 人中3 人(国立ガンセンター統計情報)とされているが、最近は子宮頸がんは減少気味で子宮体がんが増加している。最近の集計では子宮頸がんは約15,000人/年が罹患し、約3000人/年が死亡している。発がんの最大原因であるHPV感染は女性の約80%は生涯に一度は感染すると言われ、粘膜細胞の中に侵入したHPVは潜伏しているが、経過中に免疫力で多くの場合排除される。また排除されなくとも、さしたる影響もなくがん化せずに終わるので、最終的には感染しても多くは(98 ~ 99%)がんにはならない。また万一がん化しても早期発見により子宮頸がんで命を落とすことは少ない。
 子宮頸がんの自然経過を図1に示すが、がん化しても、前がん状態を経て、数年から10数年の期間を経て臨床的ながんとなるため、この間にしっかりと検診を受けることが最も重要なのである。
図1
図1 発がん性HPV感染とがん細胞への変化
 検診では細胞診を行い前がん状態とも言えるクラスⅢb以上では治療の対象とされている。細胞診で前がん状態とされる異形成やHPV感染が検出されるのは20歳代が最も多いが、発がんと判断される0期は30歳代がピークとなっている。このため、子宮頸がんの検診では30歳以上は行うべきである。
 0期とは非常に早期のがんで、子宮頸部の上皮内のみに認められる上皮内がんといわれるもので、100%適切な治療により治る。そして0期(一部のⅠa期を含む)の病変に対しては子宮頸部の部分切除(円錐切除術)やレーザー蒸散やPDT(光線力学療法)で治療でき、若年者では妊孕能を温存して治療が可能なのである。
 さらに、子宮頸がんと子宮体がんは「子宮がん」と一括されて議論されることがあるが、実際には異なる疾患である。私が医師となった40年前は頸がんと体がんの比率は9 : 1であったが、現在は4 : 6であり体がんが頸がんの罹患者数を上回っている。頸がんは衛生状態の向上などにより減少傾向で、また早期発見で治癒率も向上した。しかし子宮体がんはホルモンが関係した疾患であり、増加の一途をたどっている。米国人も日本人も、生産性を高めるために女性ホルモン入りの餌で飼育した米国産の牛肉を食すようになり、この40年間で米国産牛肉消費量が5倍となり、ホルモン依存性のがんが5倍となっている。男性では前立腺がんであり、女性では乳癌、子宮体がん、卵巣がんなどである。もちろんこればかりが原因とは言い切れないが、2015年の疾患別がん罹患者数の予測では始めて男性は胃癌や肺癌を抜き、前立腺がんが一位となり、女性では数年前から乳癌がトップとなっている。この現状を考えれば、HPVワクチンによる頸がんの予防は子宮がん全体の約1/3しか予防できないのである。そのため検診にこそ力を入れるべきであり、ワクチンに公的補助金を出すのであれば検診を無料にしたほうが医学的には効果的なのである。

おわりに
 HPVワクチンが子宮頸がんの死亡を減少させ、また接種後の効果がどの程度持続するか等に関してはまだ十分なデータが無く、重篤な副作用が出現しても賠償も責任も明確となっていない以上、私はワクチン接種は積極的に推奨することはできない。むしろ当座は子宮体がんの検診も含めて子宮がん検診を行うことをお勧めしたい。子宮頸がん予防ワクチンの医療経済性については、12歳の女児全員に接種した場合、将来の治療費・がんの再検診費用及び労働損失などの間接費用を合わせると、社会全体で約190億円の削減となるとされ、将来的には頸がん死亡者を半減できると期待されたが、こうした副作用が起これば、この金額では削減額は飛んでしまい、また多くの被害者を生み出すこととなる。
 厚労省や製薬会社は、子宮頸がんワクチンの副反応とみられる症状について、"筋肉注射という針の傷みや医師の説明不足などの『心身の反応』が原因"とし、真摯な対応とは言えない現状が続いている。しかし、副作用の全てを心因反応で説明することは医学的に不可能であり、特に神経症状は説明ができない。
 被害者の治療費等の補助は一部の市町村で行われたり、ADR(裁判外紛争解決手続)により対応しているが、あまりにも加害者側は無責任である。
 ワクチン接種を推奨している医師や団体へのワクチン製造会社からの資金提供やワクチン製造会社の政界へのロビー活動などの利益相反の問題も絡んで、なお医学関係者は推奨する意見が多い。しかし、価値観が多様化している現代、リスクをどの程度受け入れるのかは国や医師が決めることではなく、接種対象者自身が判断すべきことなのであり、強制的に行うべきではない。また不幸にして副作用が出た場合は、社会人としての活動を奪われ、闘病生活を強いられる被害者にとって、金銭的な対応だけが救いとはならないが、誠意を持って手厚く対応すべきである。

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